第二十七話
エイラの話でチェルナが可哀想になった四朗は、考えた。まだチェルナが人間だった頃、寝るときには侍女のオルカが話を聞かせていた。四朗もそれを聞きながら眠ったのだ。
話は動物の生態に関する物だったり、この世界のお伽噺だったりと色々だった。四朗は興味深く聞いていたが、すぐに眠りに落ちてしまっていた。
「じゃぁ、俺が生まれた国に伝わる昔話をしよう」
四朗は童話や昔話でも聞かせようと思った。この世界は日本ほどは発達していないので、お伽噺も殺伐としているのだ。大人のイソップ童話程度には、ブラックだった。
「聞きたいのじゃ!」
どんよりしていたチェルナの目がキラキラに変わって行ったのを見て、四朗はちょっと安心した。
「む、私も聞きたいな。シロ君の国が何処だか知らないけど、面白そうな話が聞けそうな予感がするのだよ」
エイラも随分と乗り気だった。
「寝る前にね~」
白猫は器用に腕を組み、何を話そうか考えていた。
休憩も終わり、再び杖が空を滑空していた。真上にあった太陽も、いつの間にか遠くの山の陰に入って寝る準備をしていた。
「丁度森もあるし、ここらで野営しようかね」
杖の速度が落ち、ついで高度も落ちていった。杖に跨った魔女は、森の中に消える様に沈んでいった。
まだ日は落ちていないが、森の中は既に夕暮れを過ぎていた。生い茂る木々が日光を嫌っているようだった。
「ほいっと、灯りだ」
エイラが掌にフッと息を吹きかけると、橙色に光る球体が現れた。仄かな明かりが、優しく周囲を照らしている。
「うわぁ、綺麗なのじゃ!」
「エイラってホント便利だよな」
二人は宙に浮かんでいる燈火をボンヤリと見つめていた。固定せず、ふわふわと漂っている灯りを見るだけでも面白かった。
「さぁさぁ用意をしなくちゃね」
エイラは肩掛け鞄からテーブル、椅子、皿などを取り出した。
「お二人さんには、薪でも拾ってきて貰おうかな?」
エイラはしゃがんで二人に話しかけた。
「行くのじゃ!」
「それくらいやらないとな!」
二匹の猫は尻尾をピコンとあげた。
「はぐれたら黄色い石に聞くんだよー」
「分ったのじゃ!」
「りょーかーい!」
四朗とチェルナは、エイラに小さな橙色の灯りを貰った。それだけ森は暗かったのだ。
「シロは、はぐれない様に妾の傍にいるのじゃ!」
チェルナは張り切って先頭を歩いていた。周囲に枝は沢山落ちていたけど、薪になりそうな木は無かった。
「もうちょっと行ってみるのじゃ!」
「でも、あんまり離れると戻れなくなるよ」
エイラがいる所はあからさまに明かるく、遠くからでも見えるのだが、木々が邪魔をしてすぐに隠れてしまうのだ。今も少し離れただけだが、漏れてくる灯りはそれほどでもない。
耳をすませば、いつのも鳥の声も不気味に聞こえてくる。風で揺れる葉が鳴らす音も、不安をかきたてるのだ。
「それは、困るのじゃ……」
チェルナの尻尾がへんにゃりと下がってしまった。
「でも薪になる様な木も落ちてないから、エイラがいる所の灯りが見える範囲で、探そうか」
ここは大人の余裕を見せなければ、とでも思ったのか四朗が提案した。普通に考えつく事ではあるのだが。
「そ、そうするのじゃ」
二匹の猫は、くっつきながら木々の間を歩いていった。




