第二十六話
「さてと、お茶にしようか」
地上に降りたエイラは鳥籠を杖から外し、中にいた二人を外に出した。
「やっぱり地面は良い!」
「走れるのじゃー!」
四朗とチェルナは今まで我慢していた鬱憤を晴らすべく、走り回っている。草の丈は二人の身体を隠してしまうくらい高かったが、ピンと立ち上がっている尻尾が場所を教えてくれていた。
「いぃやっほぅーー!」
「シロー、待つのじゃーーー!」
逃げる白い尻尾を黒い尻尾が必死に追いかけていた。その距離は段々短くなっていき、とうとう捕まってしまった。
「はいはい、君たち、オヤツだぞ!」
エイラがパンパンと手を叩けば二本の尻尾が近づいていく。
「おやつと聞いて!」
「来たのじゃ!」
四朗とチェルナは並んでニコニコしながら香箱座りをしている。二人ともおとなしくして待ってるけど、鼻はピクピクと匂いを探している。
エイラは小さな肩掛け鞄をガサゴソと漁り、小さな布の袋を取り出した。
「む、魚だ!」
「魚の匂いがするのじゃ!」
二人ともむくっと起き上がり、ヒタヒタとエイラに近寄って行く。
「まぁ、慌てない、慌てない」
布の袋から取り出したのは、魚だった。それも燻製にされた、小魚だ。小魚と言っても猫の体には十分な大きさだ。
「これなら丸ごと食べても、骨はつっかえないよ」
エイラが二人の口元に魚を持って行けば、二人とも両前足でガシっと掴むとペタンとお尻を地面に付ける。魚の頭から齧りながら、一心不乱に食べ始めた。二人とも、すっかり猫だ。
「それ、私が作ったんだよ。美味しいかい?」
エイラはにっこりしながら二人に聞いた。
「美味しいのじゃ!」
「なんていうか、塩味が絶妙?」
二人ともガシガシと食べながら感想を述べた。それを聞いたエイラは満足そうに笑った。
「じゃぁ、私もおやつにしようかな」
小さな肩掛け鞄から、にゅーんと椅子とテーブルを取り出し、テーブルクロスを敷き、紅茶のポットをコトリと置いた。
「相変わらず、エイラの魔法は理解できないな」
「摩訶不思議なのじゃ」
猫二人は燻製魚を齧りながらも、目の前の不思議な光景を見ていた。
「まあね。私は魔女だからさ」
魔女はカップに熱々の紅茶を注ぎながら、フフンと鼻を鳴らしていた。
「なぁ、あとどれくらいで火の山って所に着くんだ」
おやつを食べて満足した四朗が聞いた。
「まだ、半分来てないかな?」
おやつとしてクッキーを食べているエイラが答えた。パンパンと手を叩き、手に着いた粉を払い、片付けを始めた。
「もう少し進めたら、野営の用意をしよう」
「わーい、お泊りなのじゃ!」
チェルナは初めてのお泊りに、嬉しそうだった。
「お泊りは、なにをするのじゃ?」
「うーん、食事して、寝るだけ?」
「えぇ!」
何か凄い期待をしていた黒猫は、魔女の答えにショックを隠せないでいた。




