第二十五話
エイラの言う通り、杖の出す速度は半端じゃなかった。杖にぶら下げてある鳥籠は傾いたままだ。エイラは杖をしっかりと握っていて、口も真一文字だった。あまり見ない、真面目な顔だ。
赤い塔はとっくに見えなくなっていて、魔女と猫達は森の上を滑るように駆け抜け、大河を渡り、大きな街も通り過ぎた。
「は、はやいのじゃ……」
チェルナは流れてく景色が怖いのか、四朗の背中にひしっとしがみついていた。その四朗だが、生きていたころに乗った、ジェットコースターを思い出していた。それとは比べ物にならない程、迫力があった。なにせレールなどなく、正真正銘空を飛んでいるのだから。
「うおー、すっごい迫力だ!」
背中のチェルナとは対照的に四朗は楽しんでいた。風の冷たさはこの鳥籠が緩和してくれているのか、寒くはなかった。
「シロは、よく怖くないのじゃ」
遊園地も飛行機もないこの世界では、この体験は怖いのだろう。チェルナが怖がるのも無理はないのだ。
「いやぁ、スリル満点で楽しいよ!」
後ろのチェルナ振り向きながら、珍しく四朗がニカッと笑っている。それを見たチェルナは目を丸くした。
「妾はここでいいのじゃーーー!」
黒猫の叫びは風に連れていかれて白猫の耳には入らなかった。
もう何時間飛んだだろうか、さすがの四朗も飽きて来た。なにせ動けないのだ。
このころにはチェルナも速度に慣れて、景色を楽しんでいた。
「そろそろ休憩しようか!」
杖に跨るエイラから、声が掛かった。籠の中の二人も賛成だった。
眼下には一面の草原が広がっていて、地平線まで緑だった。木もなければ道もない。所々に白や黄色い花が咲いている、のどかな草原だ。
「凄いね、日本じゃ考えられない景色だな」
四朗はボソッと呟いた。
「シロ君。日本ってのは、どこにあるんだい?」
四朗の呟きを拾ったのか、エイラが聞いてきた。
「そうだなぁ……東の果てにある、遠い島国、かな」
四朗はどう説明しようかと悩みながらも、答えた。この世界には無い、と言ってしまうと余計に混乱すると思ったからだ。
「シロはそこに住んでいたのじゃな!」
チェルナも聞いていたらしく、四朗の背中から声がかけられた。
「ふーん、聞いたこともない名前だけど、そんな国もあるんだな」
「シロの住んでた国なら、行ってみたいのじゃ!」
二人は何の疑問も持ってい無いようだった。この世界の大きさも分らない。飛行機がある訳でもないから、エイラと言えども全てを知ってはいないのだ。
「さて、地上に降りるよ」
杖は魔女と二匹の猫が入った鳥籠を揺らしながら、ゆっくりと降下していった。




