表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
25/96

第二十五話

 エイラの言う通り、杖の出す速度は半端じゃなかった。杖にぶら下げてある鳥籠は傾いたままだ。エイラは杖をしっかりと握っていて、口も真一文字だった。あまり見ない、真面目な顔だ。

 赤い塔はとっくに見えなくなっていて、魔女と猫達は森の上を滑るように駆け抜け、大河を渡り、大きな街も通り過ぎた。


「は、はやいのじゃ……」


 チェルナは流れてく景色が怖いのか、四朗の背中にひしっとしがみついていた。その四朗だが、生きていたころに乗った、ジェットコースターを思い出していた。それとは比べ物にならない程、迫力があった。なにせレールなどなく、正真正銘空を飛んでいるのだから。


「うおー、すっごい迫力だ!」


 背中のチェルナとは対照的に四朗は楽しんでいた。風の冷たさはこの鳥籠が緩和してくれているのか、寒くはなかった。


「シロは、よく怖くないのじゃ」


 遊園地も飛行機もないこの世界では、この体験は怖いのだろう。チェルナが怖がるのも無理はないのだ。


「いやぁ、スリル満点で楽しいよ!」


 後ろのチェルナ振り向きながら、珍しく四朗がニカッと笑っている。それを見たチェルナは目を丸くした。


「妾はここでいいのじゃーーー!」


 黒猫の叫びは風に連れていかれて白猫の耳には入らなかった。





 もう何時間飛んだだろうか、さすがの四朗も飽きて来た。なにせ動けないのだ。

 このころにはチェルナも速度に慣れて、景色を楽しんでいた。


「そろそろ休憩しようか!」


 杖に跨るエイラから、声が掛かった。籠の中の二人も賛成だった。

 眼下には一面の草原が広がっていて、地平線まで緑だった。木もなければ道もない。所々に白や黄色い花が咲いている、のどかな草原だ。


「凄いね、日本じゃ考えられない景色だな」


 四朗はボソッと呟いた。


「シロ君。日本ってのは、どこにあるんだい?」


 四朗の呟きを拾ったのか、エイラが聞いてきた。


「そうだなぁ……東の果てにある、遠い島国、かな」


 四朗はどう説明しようかと悩みながらも、答えた。この世界には無い、と言ってしまうと余計に混乱すると思ったからだ。


「シロはそこに住んでいたのじゃな!」


 チェルナも聞いていたらしく、四朗の背中から声がかけられた。


「ふーん、聞いたこともない名前だけど、そんな国もあるんだな」

「シロの住んでた国なら、行ってみたいのじゃ!」


 二人は何の疑問も持ってい無いようだった。この世界の大きさも分らない。飛行機がある訳でもないから、エイラと言えども全てを知ってはいないのだ。


「さて、地上に降りるよ」


 杖は魔女と二匹の猫が入った鳥籠を揺らしながら、ゆっくりと降下していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ