第二十二話
「さて火の山に行くには、だね」
またも白衣のエイラが説明を始めた。どうやらエイラはこの白衣姿がお気に入りらしい。妙に張り切っている。
「杖に乗って行く訳だが……」
「行くのじゃ! 行くのじゃ!」
今までのどんよりが嘘のように生き生きと、チェルナが跳ねていた。エイラに飛びつき、黒猫が魔女の腰のあたりにしがみ付いていた。
四朗が塔に来てから何度か杖で空の散歩に行った時に、その気持ちよさに嵌ったらしい。四朗も、それは良く分る、と納得していた。自身も気持ちよかったからだ。
「今回は結構遠いから、ちゃんと用意をしないとな」
腰に抱き付くチェルナを、よっこいしょ、と言う感じで顔の前にまで持ち上げた。
「泊りがけだぞー」
魔女は楽しそうに黒い猫に話しかけていた。
「これもいれて、あれも、あ、それもだ!」
エイラは使い古した灰色の小さな肩掛け鞄に、服や大きな巻貝などを入れている。どんどん入れても小さな肩掛け鞄にするすると入って行く。
仕組みは分らないけど、四次元ポケットみたいだ、と四朗は思った。まぁ、魔女だしな、と半ば呆れた目で見ている。
「シロのカリカリも必要なのじゃ!」
チェルナがカリカリの袋を咥えて、ずりずりと引き摺って来た。猫が運べる量だから、それほど多くは無い。
「それならばチェルナのも必要だろう?」
チェルナが持ってきた袋を肩掛け鞄に止め込みながらも、エイラが問うた。
「そうなのじゃが、シロのを優先するのじゃ」
チェルナはニパッと笑った。
「へぇ、チェルナもちょっぴり大人になったね」
七歳の女の子はちょっぴり大人の階段を上がったようだ。先に階段はいっぱいあるのだろうが、重要な一歩だろう。
「シロ君は何か持って行きたい物はあるかい?」
エイラがふっと四朗を見た。四朗は、ん?と考えた。
「何も、無いかなぁ」
そう言えば、自分は何も持っていないのだな、と四朗は気が付いた。
「あるとしても、この猫の身一つか」
モフモフが見事な白い猫の身体が全てだった。何か物を持っていても、この身では使えないのだな、と再確認した。
「そうか。では二人でお揃いの首輪でも付けるかい? 二人一緒が良いんだろう?」
エイラは何かを思いついたように、手をパンと鳴らした。
「ならば赤いリボンの首輪が良いのじゃ! 白にも黒にも似合うのじゃ!」
チェルナは又もエイラに飛びついた。猫だけあってジャンプ力は凄いのだ。
「では、赤いリボンに、小さくて綺麗な石でも付けようかな」
エイラはしがみつくチェルナを引きはがし、又も目線に持ち上げる。
「それで、いいかな?」
「ステキなのじゃ!」
黒い猫の嬉しそうな声が、部屋に響いた。




