第二十一話
「盗りに行くって!」
「いやぁ、正面切って戦うのは愚策だよ」
四郎の訴えは正当な理由で棄却された。これはエイラの方が正しいと言える。
「危険なのじゃ!」
「でも赤い石ってのは、その種族しか持っていないんだ」
チェルナも棄却された。盗りに行くしかない様だった。
「盗りに行くのは仕方ないとして、どこにいるんだ?」
青い石は目の前の湖にあったから特に考えなかった。だがファイヤードレイクが持っている赤い石はどこにあるのかが、問題だった。
四朗は当然としてチェルナも知らないだろう。
「そりゃあ、ファイヤーとくれば、火の山だよ」
魔女は事も無げに、言った。
「火の山って言うと、アレか? 西遊記に出てくる」
「西遊記、というのは知らないが、まぁ、燃えてる山だよ」
四朗の記憶にあるお話は元の世界の話であって、当然エイラは知らない。正確には火焔山であるのだが。
だが、エイラの口ぶりからすると、イメージに間違いは無いようだ。
「も、燃える山なぞに行っては、黒こげになってしまうのじゃ!」
チェルナは尻尾をへんにゃりさせて、ワナワナ震えていた。
「ま、ドラゴンって言ってもさ、焔を食べるおとなしい種だから」
エイラは、してやったりという顔をした。
「よく分らないけど、草食動物みたいなドラゴンなのか?」
「そうそう! シロ君は賢いね!」
そう言いながらエイラは、又も白衣を着こんで黒板の前に立った。白衣の襟を正して、説明する気満々だ。猫二人はちょこんとお座りをした。行儀のよい生徒だった。
「ファイヤードレイクと言うのはだね、名前は勇ましいが、至っておとなしい性格のドラゴンなんだ」
エイラは細い棒のようなもので、黒板に書いた可愛いドラゴンの様な何かを指して説明する。どうやら四足で動くらしい。
四朗は、なんか恐竜みたいだな、と思った。
「襲わなければ、襲ってくる事は無い」
キリっと効果音でも頭の上についていそうなくらい、真面目な顔のエイラがいた。
「私とチェルナは燃える事は無い。まぁ、熱いのは仕方ないんだが」
「あ、熱いのも問題なのじゃ!」
珍しくチェルナの毛が逆立ってる。尻尾もぴーんと伸びっぱなしだ。よほど嫌なのだろう。
「燃えないんだから、いいじゃん」
四朗としては、燃えると断言されており、死刑宣告にも等しいのだ。使い魔になるために死んでは、本末転倒と言うやつだろう。
「小さい時に暖炉に触ってしまって、火傷をしたことがあるのじゃ。それ以来、火が苦手なのじゃ」
チェルナはポツリと呟いた。今でもチェルナは小さいのだが、と四朗は思ったが、空気を読んで、止めた。
だがチェルナは俯いてしまっている。
「まぁ、熱くないようにはするし。チェルナだって留守番は嫌だろう?」
「置いてけ堀は、嫌なのじゃ!」
エイラがしゃがみ込み、諭す様に、チェルナの頭をくりくり撫でた。チェルナも一人で塔に残されるのは嫌なのだ。
「そっか、ゴメンなチェルナ」
四朗もチェルナにぴったりとくっついて、ごめんねアピールだ。
「まぁ、シロ君の為だと思って、頑張ろうか、ね?」
魔女が子供をあやす様に語り掛けると、黒い猫はコクンと頷いた。




