第二十話
翌朝、目が覚めた二人は、汗をかいてしっとりとした四朗を見た。熱は下がっていたが、ちょっとばっかり、ばっちい猫、になっていた。
「お湯で洗えば、大丈夫さ!」
「お風呂なのじゃ!」
「いやだぁ~!」
喚く四朗は、チェルナに首の後ろを咥えられて、子猫のようにずるずると引き摺られていった。
体の大きさは同じなのだが、使い魔な分、チェルナの方が力があるのだ。
「はは、シロ君。覚悟するんだ!」
「男なら腹をくくるのじゃ!」
女性二人に、処刑されそうなセリフを吐かれ、白猫は風呂に連行されていった。
女性二人に洗われるという、ある意味、天国なはずの地獄を味わった四朗が、エイラの魔法で真っ白なモフモフを取り戻していた。
「あぁ、拷問だったけど、さっぱりした」
「妾もさっぱりしたのじゃ」
「私も、すっきり、さっぱりさ!」
四朗を洗うついでに、二人も風呂に入っていた。目に泡が入り悶絶し、湯船で溺れかけていた四朗にとっては、そんな事は些細な事だった。
「どうだい、私の体も捨てたもんじゃないだろう!」
「尻尾が無い!」
「がーん!」
四朗はもはや猫なのだ。人間が感じる魅力は猫のそれとは限らないのだ。
「……まぁ、猫だしね。いいさ、私にお似合いの男性を、見つけてやろうじゃないか!」
魔女は開き直ったついでに、立ち向かう事にしたようだった。
テーブルに付いた三人がお茶をしていた。エイラは珈琲を、チェルナと四朗は温めのミルクだ。はしたないが、猫二人はテーブルに乗っかっている。椅子に座ると届かないのだ、仕方ない。
「さて、シロ君も綺麗になった所で、赤い石を探しに行こうじゃないか!」
優雅にカップを傾けながら、エイラが提案してきた。
「今度はどこに行くのじゃ?」
「まさか火山、とか?」
「燃えてしまうのじゃ!」
「でも青い石が湖の底だったからなぁ」
猫二人が勝手に推測していたが、エイラの答えは違っていた。
「ファイヤードレイクが持ってるんだよ」
猫二人は首を傾げた。四郎も聞いた事がない名前だった。
「ファイヤーだから火、だよなぁ」
「妾は分からないのじゃ!」
「ドレイク、ねぇ」
二人で考えても、答えは出なかった。そんな二人を見て、エイラは楽しそうに笑った。
「ドラゴンのことさ!」
エイラの言葉に、白猫と黒猫の毛は逆立った。
「にゃにゃにゃにゃ!」
「にゃんにゃのじゃ!」
二人とも動揺し過ぎだった。でもドラゴンと聞けば驚くのは、仕方がないと言える。
四郎だって、名前は知ってる。空想上の生物だけど、元の世界じゃ有名だ。物語に出てくる強い生物と言えば、ドラゴンだった
「別に、ドラゴンを倒す必要は、ないんだよ」
エイラは涼しい顔で言ってのけた。
「だだだだだって、どうやって手に入れるのじゃ!」
「そりゃ、盗りに行くのさ!」
魔女はケタケタ笑った。




