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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【青い石】
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第十五話

「シロも笑うと可愛いのじゃ!」


 チェルナがゴロゴロと喉を鳴らして、顔を四朗に押し当てて来たが、当の四朗は微妙な顔をした。

 可愛いと言われて喜ぶ歳でもなかった。白猫になる前は三十の男だった。だがチェルナはそんなことは知らない、七歳の女の子だ。全身で感情を表現する年頃だ。

 仕方がない、と四朗は思った。チェルナを導くのが役目なんだと、以前思ったのだ。ここはお付き合いをするのが、大人の役目だ。

 四朗はニッと笑ってみた。


「わーい、シロが笑ったのじゃ!」


 チェルナが四朗に飛びかかって、そのまま白と黒が混ざり合って転がった。水に濡れてモフモフではないが、悪い感じではなかった。


「あー、私も恋人が欲しくなってきた」


 呆れを通り過ぎた魔女が、ぼやいた。





 それからどんどん湖の底を歩いていった。湖は意外に深く、ずんずん下に降りていく。それでも陽の光は明るく照らしていてくれた。


「深いのじゃ」


 さすがに怖くなったのか、チェルナが四朗の身体にピタリと張り付いた。ついでに尻尾もくるっと巻きつけた。


「ニャニャ(明るいから大丈夫)」


 歩き辛いが、怖いのは仕方がない、と四朗は諦めた。魔女の使い魔でも中身は七歳の女の子だ。泣きださないだけ強いのだ。


「うぅ、チェルナが、遠まわしに私を苛める……」


 こっちはこっちで問題だった。魔女がずーんと沈んでいる。





「ニャニャニャ!(今度どこかの街にでも行こう!)」


 四朗は沈んだエイラの気分を元に戻すべく、頑張ってみた。


「そうだね。青い石を探したら、近くの街にでも行ってみようか」


 エイラはちょっと持ち直したようだ。四朗は心の中で安堵のため息をついた。


「そうなのじゃ! ところでエイラはどんな人が良いのじゃ?」


 七歳と言えど、女子だ。そんな話題には敏感なのだ。途端にエイラの顔が赤くなった。


「そそそん事、言われてもだね!」

「言うのじゃ!」

「ひ、人にいうものじゃ、ないと思うんだ!」


 七歳の女の子に押されている、年齢不詳の魔女が、そこにいた。

 




 歩きながらも、チェルナの追及は終わらなかった。


「ほうほう、優しい男がいいのじゃな?」

「そそそりゃそうさ!」


 チェルナは既に四朗から離れて一人で歩いていた。好奇心が恐怖心に勝ったようだ。

 四朗は呆れて前を向いた。そこに見えたのは、巨大なザリガニだった。遠いのにエイラよりも大きく見えた。猫の視線からだと余計に大きく見える。


「ニャニャ!(あれなんだ!)」


 四朗が騒ぐのでチェルナもエイラも、そっちを見た。


「な、なんなのじゃ!」


 チェルナの黒い毛が、水の中でも逆立っていた。尻尾も限界まで真っ直ぐに伸びている。それぐらい驚いていた。


「あぁ、ザリガニだね。あれだけ大きいと、食べるのも大変だ」


 エイラは、なぁんだ、と言いたげな表情を浮かべた。しかも、食べる、と言った。食べる、と。


「ニャニャ?(でも進む方向にいるんだぞ?)」

「大丈夫。ザリガニは大人しいんだ」


 慌てる四朗を尻目に、エイラはズンズン歩いていった。ズンズン進むにつれてザリガニも、どんどん大きくなっていく。


「わわわわ妾は、心配なのじゃ」


 チェルナはまた、するするっと四朗に擦り寄っていった。だが今度ばかりは四朗も怖かった。見えているザリガニは、どう見ても2階建ての建物よりも大きかった。ザリガニは威嚇する様に、大きなはさみを、チョキチョキと鳴らした。

 二匹がしり込みをしていると、エイラは振り返った。


「あのザリガニの下に、青い石があるんだ」


 エイラは衝撃的な事を言ってきた。だが、もっと衝撃的な事が起こった。

 巨大な魚が、一人と二匹の後ろから現れた。あからさまに長いその姿は、どう見てもウナギだった。

 その巨大なウナギは魔女と二匹の猫を追い抜いて、ザリガニをパクリと一飲みにした。

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