第十三話
「探すと言っても、どこに行くのじゃ?」
チェルナは生徒らしく手を挙げて質問をした。
「良い質問だ!」
エイラは更に嬉しそうに笑った。赤い髪を振り乱して、つま先立ちでクルクル回りだした。四朗はついて行けず呆気に取られていたが、正気に戻った。
「ニャ?(何処に行くつもりだ?)」
「まずは説明しよう!」
エイラは、四朗に対してビシッと指をさし、鼻息を荒くした。
「シロ君を使い魔にするには、青い石、赤い石、緑の石が必要なんだ」
エイラはいつの間にか眼鏡を掛けていた。それだけで知的に見えるから不思議だった。
「エイラ、カッコいいのじゃ」
「そうだろう、そうだろう。チェルナは分かってる!」
「当然じゃ、妾は一応は王女だったのじゃ!」
この二人はなんだか意気投合していた。四朗だけが取り残されていたが、彼に、そこに混ざろうという気はなかった。女子と男子の差だろうか、などと四朗は考えていた。
「シロはそうは思わぬか?」
チェルナが目の前に来てジッと見つめて来た。エイラも気になるのか、チラチラと四朗を盗み見ていた。
「ニャ(勿論だ)」
多数決では、必ず負ける。女の子には逆らうのは止めよう、と四朗は思った。同時に男の仲間が欲しいとも思った。
「まずは青い石を取りに行こう!」
エイラは楽しそうに言った。眼鏡は外され、白衣は脱いでいた。黒いワンピースはやはりミニだった。きっと拘りがあるのだろう。
「で、何処にあるのじゃ?」
チェルナも行く気満々だった。恐らく外に出られるのが待ちきれないのだろう。この一週間、何かにつけて外に出ては木に登り、降りられなくなってはエイラに助けてもらい、土まみれになるまで、地面を転がっていた。
「よくぞ聞いてくれた!」
エイラもテンションがおかしい。四朗はちょっと引いていた。エイラにも嬉しい事があったのだが、それは四朗には分からない事だ。
「それは、目の前の湖だ!」
魔女の鼻息は荒かった。
赤い塔の目の前の湖。名前は無いらしいが、巷風では『魔女の湖』というようだ。エイラが長年畔に住んでいるからであろう事は、想像するのは簡単だった。
魔女と二匹の猫はその湖の畔にいた。エイラは黒のワンピース型の水着になっていた。だが帽子はやはり魔女のとんがり帽子だ。
「ニャ、ニャ?(まさか、潜るのか?)」
四朗は水が嫌いだった。城にいた頃は仕方なく入っていたのだ。だがそれはチェルナも一緒だった。
猫になったチェルナもやはり水が苦手だった。今のチェルナは魔女の使い魔で、身体は特殊だった。洗わなくても毛並みは艶々で、汚れもブルブルと体を震わせれば、飛ばされていった。
「そうさ」
エイラはにっこりと笑った。四朗とチェルナは「ははは」と乾いた笑いを絞り出す。
「大丈夫! 水の中でも息を出来る魔法を掛けてあげるから!」
二匹の猫の困惑などエイラの目には入らなかった。四朗とチェルナお互いを見合った。チェルナの茶色い瞳がきゅっと締まった気がした。
「シロと一緒にいるためじゃ。妾は行くのじゃ!」
黒い猫は、勇気を振り絞った。




