第十二話
湖の畔に聳え立つ赤い塔。その一番上の階に灰色の木の箱がある。その中に、白と黒のクッションが、ぴったりと寄り添って収まっていた。
窓からは柔らかな朝の光が差し込んで、そのクッションを照らしている。
「うにゅ」
黒いクッションがモゾモゾと動き、細い尻尾がニョキッと生えた。むくっと、黒い猫のチェルナが、起き上がる。
「朝なのじゃ」
眠たそうな瞼をこじ開けて、チェルナは隣の白いクッションに、倒れ込んだ。
「ニ”ャ(んあ)」
白いクッションから頭がヌッと出ると、ふわぁと、欠伸をした。耳をピクピクとさせた、白い猫の四朗だ。
「ニャ(朝か)」
四朗が、前足で顔をコシコシしている。朝は顔を洗うのだ。
「おはようなのじゃ」
チェルナが四朗の顔にすりすりと、頬を擦る。気持ちよさそうにゴロゴロと喉をならしている。
「ニャ、ニャ(おふぁよう、チェルナ)」
眠そうな四朗も同じくすりすりしては、喉をならす。
「朝から仲良しっぷりを見せつけられる身にもなって欲しいね」
その様子を足を組んで座って見ていたエイラが、可愛く口を尖らせた。
「猫の朝の挨拶なのじゃ」
チェルナはピョンと箱から飛び出して、う~ん、と前足を伸ばした。四朗も飛び出て、う~んと、前足を伸ばする。白と黒の猫の動きはぴったりと、息を合わせたみたいに揃ってる。
「くぅ、うらやましくなんか、ないぞ!」
魔女の目にはちょっぴり涙が浮かんでいた。
四朗とチェルナが再会してから一週間が経った。チェルナも大分猫の生活に慣れてきていた。
四朗とチェルナは朝食のカリカリを食べている。使い魔であるチェルナは食べる必要は無いのだが、シロは食べる必要があるからお付き合いだ。
「二人は一緒なのじゃ」
チェルナはニパッと嬉しそうに笑った。猫でも笑うのは分かるのだ。
「そろそろ、シロ君を使い魔にしようと思うんだ」
砂糖少な目の珈琲を飲んでいるエイラが、提案をした。四朗とチェルナが、ずっと一緒に居られるようにするためだ。
カリカリを用意するのが面倒、と心の中で思っているのは、内緒のようだ。
「するのじゃするのじゃ!」
チェルナが尻尾をピンと立てた。四朗も尻尾を立て、コクリと頷いた。
四朗は一度は死んだ身だ、今更何かをしたいとは思っていなかった。ただチェルナが心配なだけだ。
彼女は望み通り猫にはなれたが、中身は七歳の女の子だ。しかも外に出して貰えなかった、可哀想な女の子だ。
これから外に出て、やりたいと思うことか出来るかもしれない。一緒にいたいと願うモノが、他に現れるかもしれない。それまでは傍にいて見守ろうかと考えている。
それが何時なのか、すぐなのか遠い未来なのか、もしかしたら現れないのか、四朗には分からない。なんとなく、これが自分の役目では、と四朗は考えている。
「使い魔というものは、本来なら無から創りだすんだけど、今回は既にシロ君はいる訳だ」
いつの間にか、又も白衣を着たエイラが、黒板に何かを書きだした。妙に嬉しそうな笑顔だ。
突っ込むと睨まれそうだからと、四朗は黙っていた。
「こんな時はある材料が必要なんだ。ふふ」
エイラは楽しそうに笑った。二匹の猫は同時に首を傾げた。
「これから皆でその材料を探しに行くのさ!」
魔女は腕を挙げると高らかに宣言した。




