第十一話
城の前に来たエイラは、そのまま城門を潜り抜けていく。姿を消したエイラに気が付くものはいない。
「ちょろいものさ!」
エイラの鼻息は荒かった。
「さて、どこから探したものか」
エイラは広い廊下の端っこで考えている。城は広い。闇雲に探しても時間を浪費するだけだろう。出来れは効率的に探したい。
「偉そうな人物は上に住みたがるよな」
エイラは自分の事を棚に上げて、勝手な理論を立てた。そしてその理論通り、魔女は階段を上がって行った。
「ふむ、いないなあ」
歩けども歩けども猫の姿など、どこにもなかった。偉そうな人物が住んでいそうな部屋を見て回ったが、そこにもいなかった。
「クロが嘘を言っている様には見えなかったしな」
エイラは考えた。クロに入ったチェルナという王女は既に亡くなっているのだ。であれば墓があるはずだ、と。
まずはチェルナという存在を確認することにした。
「墓と言えば外だよな」
エイラは窓から下を見ると、そこには墓標が沢山見えた。きっとあれだろう、とエイラは思った。
「ふふ、懐かしいな」
魔女は窓枠に手をかけぐっと力を入れると、窓から飛び降りた。
「墓というものは先祖をまつる大事なものだ」
エイラは裏手にある王家の墓地に来た。いくつもの墓標が並んでいて、荘厳な空気が漂っていた。
「ふむ、あれか?」
エイラが目を付けたのは明らかに新しい墓標だ。苔も雨垂れの汚れもない、綺麗な墓標だ。
墓標が並ぶ中、ゆっくりと歩いていく。
「やっぱりそうか」
エイラの目の前には「チェルナ」と刻まれた小さな墓標があった。脇には白い花が供えられていた。
「間違いは、ないようだな」
エイラが墓標を見ていると、若い侍女が花を持って歩いてきた。彼女はチェルナの墓の前で跪き、白い花を手向けていた。
クロは、自分は疎まれている、と言っていた。わざわざチェルナの墓に花を供えている彼女なら、白い猫の事を知っているかもしれない。
「すまないが、いいかな?」
魔女は魔法を解くと、その侍女の前に姿を現した。
「お嬢様の可愛がっていた猫は、城を出て行ってしまいました」
若い侍女は俯きながら話してくれた。その肩は震えていた。
「そうか。彼女が亡くなってしまった、からか」
若い侍女は小さく頷いた。
「お嬢様にとても良く懐いておりました。まるで言葉が分っているかのように、会話をしていました」
エイラの頭にピンと来るものがあった。月の神様が願い事を叶えてくれたと言っていた。そして彼女は願い通り猫になった。そして会いたいと。
「なるほど。ありがとう、助かったよ」
魔女の姿はそこにはなかった。
エイラは魔法で猫を探した。チェルナを想っている猫を。
城がある街は大きかった。猫はエイラの姿を見ると、直ぐに隠れてしまった。でもエイラは頑張った。
塔でクロがエイラの帰りを待っている。それだけでも頑張ろうという気になった。
「ふぅ。なかなか見つからないものだな」
エイラは額の汗を拭った。もう二時間は探している。だがまだ探そうという気持ちでいっぱいだった。
泣いているクロの笑顔を、見てみたい。今まで人形のように表情がなかったクロの笑顔を、見たい。
「おや?」
エイラは壁の上で寝ている白い猫に気が付いた。その猫が一瞬エイラを見て、また寝た。
「ふふ、見つけたぞ」
魔女はその白い猫に向かって、歩き始めた。
ひと段落ですが、まだ続きます。




