パメラの事情
「へぇ、あの“酒好きの獅子”がねぇ」
初めての巡回の翌々日。
新しい“女嫌い”の相方、レオンについての状況報告を、いつも通りカーティアにしていたパメラ。
「そうなのよ。だからなんかこっちのペースが乱れるっていうか」
当然、“女嫌い”というから女性に近づくのさえ嫌なのかと思ったら、そうではない。
巡回のときもそうだったが、きちんとパメラの歩調に合わせるわ、装備品が高いところにあるときには代わりに取ってくれるわ、食事も彼女を先に取らせてくれるわ。
なんでこの人が“女嫌い”になったのか、教えてほしいという欲望がパメラにもあった。
カーティアも安心したようによかったじゃないとくり返し頷く。
「もっと横暴な奴かと思ってたから、一応大丈夫かって心配してたんだよ」
友人の心配にやっさしぃ、さすがカーティアと腕にしがみつくパメラ。ちょうどそのとき、第三者の声が割って入った。
「お、これはベラモンド伯爵令嬢とフォスディ子爵令嬢。二人がこんなところでお茶を飲んでるなんて、向こうの花々がかすんで見えてしまうよ」
歯の浮いたようなセリフとともに二人の前に現れたのは、太陽の光を受けてさらにまぶしく輝いているロレンツォ王太子だった。彼は現国王の第二王子だが、兄である第一王子が七年前、とある事件をきっかけに廃嫡されたことで、王太子の座に就いたらしい。
『らしい』というのも、彼女がまだ騎士団に入る前の話で、実際の話はあまり聞いたことがなかったからだ。
「これはロレンツォ殿下、この度は妃殿下の四人目のご懐妊おめでとうございます」
彼に直接話しかけられる機会なんてそうそうなかったし、こんな間近にまみえるなんて、思いもよらなかった。
二人とも立ちあがり、カーティアは優雅にカテーシーを、パメラは正装ではなかったので略式の敬礼を行った。
「うん、ありがとう。ベラモンド伯爵令嬢もシリックス侯爵との婚約が決まったんだよね。おめでとう」
鷹揚に頷いたロレンツォ王太子はカーティアに向かってそう祝福したが、彼の口から出たシリックス侯爵と言う名前にパメラはだれにも気づかせない程度に手が震えた。
というのも、カーティアの結婚相手はパメラの元婚約者だったから。
もともと彼も騎士団に所属していて、そこで出会ったパメラに一目ぼれしたらしい彼だが、あるとき『真実の恋人を見つけた』と言って、婚約破棄したのだ。
それが王宮女官のカーティアのことで、そのすぐあとに彼はよりカーティアに近くなる近衛騎士団に移っていった。
普段はたがいに彼の話を出さないが、王太子に出されてしまった以上、無視するわけにもいかない。ありがとうございますと心底嬉しそうにカーティアは返答していた。
「フォスディ子爵令嬢は今軍属なんだっけ?」
「はい、王立騎士団第二師団に所属しております」
最初に自分の名前を呼ばれたときに、この人は全貴族の名前と顔を一致させられるのかと思ったが、まさか貴族社会のすそ野の家、しかもさらにその当主の娘の所属も知っているとはと、さらに驚いてしまった。
「なるほどね。そういえば、この前、レオンがペアを組んだって言ってたパメラ嬢っていうのは、君のことだったのか」
どうやらロレンツォ王太子とレオン・ボルツィンは知り合いのようだ。
たしかにレオンは所作や雰囲気が庶民のものではなかったし、言われてみればこの王太子と顔立ちも似ている気がする。
しかし、こんな些末なことを話すということは、かなり王太子と親しい間柄なのでは、と推測した。
「殿下はレオン様とすごく親しいんですね」
「ふふっ。レオンは僕の母方の従弟で、少し年が離れているから叶わなかったんだけれど、本当は僕の王立騎士団長候補だったんだよ」
パメラがそれを指摘するか迷っている間にカーティアがさっさと指摘してしまう。その指摘に苦笑いしたロレンツォはどうせバレるしねと関係を明かす。
まさかそんなに王太子と親しい間柄、すなわち子爵家からすると雲の上の存在の人と組んでいるのだと、他人事のように思ってしまったパメラ。ぼんやりとしている彼女にロレンツォ王太子は笑いながら声をかける。
「まあちょっといろいろあって女が苦手になっていると思うけれど、多分、フォスディ嬢ならば大丈夫だから」
パメラにとってもレオンは、思っていたよりはいい人だ。でも、どんな部分で女の人が苦手なのか、いまだによくわからない。そうでしょうか?と心配そうに尋ねるパメラに大丈夫だから、頑張ってと言って、王太子は去っていった。
王太子の姿が見えなくなった後、よかったじゃないとカーティアはパメラの肩を揺さぶる。
「殿下のお墨付きをもらえるなんて、めったにないことだよ!」
まさか王太子と間近で会うどころか、幼馴染のペアであるレオンのことで会話が弾むなんて思ってもいなかったカーティアに対して、パメラの表情は浮かない。しかし、そんな彼女の表情を気にするでもなく、カーティアは彼女の手を強く握る。
「ま、私が心配するほどでもなかったみたいで安心」
そう言って、ブンブンと強く握った手を激しく振った後、じゃ、そろそろ仕事だから行くわと言って、嵐のように去っていった。





