第17話 取材⑤〜食べ歩き〜
温泉宿を後にした後、俺たちは食べ歩きで有名な商店街にやってきた。
「おおー! かなり活気があるな!」
「本当ですね。見所も多そうです」
商店街というか、温泉街というべきか。
木造建築の温泉宿がずらりと並ぶ合間に、風情あるお土産屋さんや飲食店、屋台まで併設している。
まるで夏祭りの会場のような雰囲気があった。
ネット検索で調べたところ、昭和初期から続く歴史あるスポットらしい。
「凛、何食べたい?」
「そうですね……せっかくなので定番の温泉まんじゅうを定番なものも食べてみたいですが……むむむ、たこ焼きや焼きそば、りんご飴や綿菓子も捨てがたいですね」
「めっちゃ食うやん」
「全部経費で落ちるんでしょう?」
「うっ、言われてみると確かにそうだな」
そもそも屋台って領収書もらえるんだろうか?
「よし、気になるもの全て貪り食らいやがれ!」
「食べられるわけないじゃ無いですか。私の胃袋をなんだと思ってるんですか?」
「美味しいものを全て収納するブラックホール?」
「そんなギャグ漫画のキャラクターのような胃は持ってませんよ。美味しいものは好きですけど」
「知ってる。まあ、凛の胃のキャパ的にどのくらい食べられるかはわからないから、無理しないように食べ歩いて行こうか」
「私は透くんの胃袋のサイズ、把握していますけどね」
「凛、俺の身体のスペックについて詳しすぎない?」
とりあえず、歩きながら何食べるか決めようという話になった。
「ん」
俺が手を差し出すと、凛は無言で指を絡めてくる。
もう慣れたものであるが、一瞬だけ凛が気恥ずかしそうに逡巡するのはとても愛らしい。
「何ニヤけてるんですか」
「いや、凛は可愛いなって」
「息するように小恥ずかしい事いうのやめてくれません? ……まあ、嬉しいですけど」
ぷいっと顔を背けて言う凛を見て思う。
ほら、やっぱり可愛い。
俺たちはしばらくの間、商店街を散策した。
食品サンプルからして美味しそうな定食屋さんを眺めていると「これ食べたら胃が終わりますよ」と凛に突っ込まれたり。
ほかほかと湯気立つ、出来立ての温泉まんじゅうを頬張ってみたり。
香ばしいイカ焼きを二人でシェアしたり。
無論、どれも美味かったし、大好きな人と一緒にのんびりと食べ歩くのはとても幸せな時間だった。
商店街も中盤に差し掛かった頃。
凛がぴたりと足を止めてとある店をじっと見つめた。
店にはデカデカと『北海道牛乳使用! とろける濃厚ソフトクリーム』と書かれた看板が引っ提げられていた。
「食べたいのか?」
「まあ、多少は」
「めっちゃ食べたいんだな」
「一言もそんなこと言ってないのですが」
「目がキラキラし過ぎててそう言っているようにしか見えない」
凛は慌ててゴシゴシと目を擦った。
その動作が妙に面白くて、俺は思わず腹を抱えて笑ってしまう。
「し、仕方がないじゃ無いですか! そもそも北海道という単語がズルいんです。北海道牛乳を使ったクリームなんて、絶対に濃厚で美味しいやつなんです。しかもとろけるんですよ? 美味しい条件のトリプルパンチです」
「なんだ、トリプルパンチて」
北海道とついていたら美味しそうに見えるという諸説には極めて同意である。
「とにかく、そういうことですから。ソフトクリームが食べたくて仕方がないとか、そんな子供じみた考えは持っていません」
「そうかいそうかい」
相も変わらず素直じゃないなあと、ぽんぽんと小さな頭を撫でる。
凛は「むう……」と口を尖らせていたが、やがて頬を緩ませて気持ちよさそうにした。
……いや、可愛過ぎんか。
この表情を見続けたいがために、ずっと撫でていたくなる。
「あの……透くん?」
「ん?」
「すみません……それ以上撫でられると……私がとろけてしまいそうで……」
「あ……ごめんっ」
ぱっと手を離す。
凛は頬を赤く染めていた。
ストロベリーのアイスよりも赤い。
「……食べるか、ソフトクリーム」
「……ですね」
どこかぎこちないやりとりを交わしてから、改めてソフトクリーム屋の列に並んだ。
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