第16話 取材④〜コーヒー牛乳〜
カシャリ。
スマホのシャッター音で目が覚めた。
見覚えのあるスマートフォンが目に入ってくる。
その奥に、凛の驚いたような顔が目に入った。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
「……何してるんだ?」
ぼんやりとした頭のまま、とりあえず問いかける。
すると凛はふいっと目を逸らし、気まずそうに言った。
「たまたま手が滑って、寝顔を撮ってしまったのです」
「いや流石に無理があるだろ」
「コラ画像を作るのにちょうどいい寝顔だったので、つい」
「タチ悪いな!」
一気に目が覚めた。
上半身を起こして気づく。
寝ている間に、俺の枕は凛の膝から座布団に代わっていたようだ。
ちょっぴり残念な気分。
「とっても可愛らしいお顔で気持ちよさそうに寝てたので……その……記念写真を、というか」
凛が観念したように言う。
その言葉に、お湯から上がって1時間以上経ってるはずの俺の顔が熱くなった。
「ま、まあ、猫カフェの時は俺も写真撮ったからな……好きなだけ撮るが良いさ」
付き合っているんだし、今更盗み撮りごときで目くじらを立てるわけがない。
「ほんとうですか?」
「もちろん。いつでもどこでも撮っていいぞ」
「困りました……好きに撮ってしまうと、今日中にはスマホの容量が空っぽになってしまいます」
「何万枚撮るつもりやねん」
思わず苦笑を浮かべると、
「あ、透くん」
「ん? ……って、ちべた!?」
頬に冷たい感触。
凛が俺の頬にキンキンに冷えた瓶を押し当ててきたのだ。
「コーヒー牛乳?」
「透くんが寝ている間に、買ってきたんです」
にこりと、凛が微笑む。
その手には、自分の分と思しき未開封のコーヒー牛乳が握られていた。
「起きるの、待っててくれたのか」
「はい、一緒に飲んだ方が美味しいと思うので」
「嬉しいけど、キンキンに冷えた状態で飲んだ方が……ってあれ、買いたてみたいに冷えてるな」
手渡されたコーヒー牛乳を見て言うと、凛は得意げに胸を張った。
「透くんがどのくらいで目を覚ますなんて、お見通しです。ちゃんと目覚めそうな1分前くらいに買ってきました」
「超能力かな?」
以前にも同じような事があった気がする。
一体、俺の身体はどのくらい凛に把握されているのだろう。
少なくとも胃袋を掴まれる事くらいは、造作もない事だっただろう。
「ありがとうな、凛」
「んぅっ」
感謝の気持ちと一緒に撫でてやると、凛は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
早速、二人でフタをきゅぽんと開けた。
せっかくなので俺は立ち上がって、腰に手を当てゴクゴクと、コーヒー牛乳のCMに出られそうな飲みっぷりを披露した。
「ぷはぁっ、美味い!」
コーヒー牛乳なんて、いつぶりだろう。
シロップの甘さとコーヒーのほろ苦さが喉を潤し、長風呂で水分を失っていた身体に心地よい感覚をもたらしてくれた。
「ベタなことしますね」
「定番だからな。凛もやるか?」
「しません」
くぴくぴと、凛は控えめなペースでコーヒー牛乳を飲んでいる。
「そもそも、コーヒー牛乳飲む時って腰に手を当てる意味がわかりません」
「諸説あるらしいぞ。ただの文化説とか、飲み口が大きいから、バランスを崩さないように腰に手を当て始めた説とか」
「へえ、そうなんですか」
面白い本のタイトルと出会った時みたいに頷く凛。
「物知りですね」
「凛ほどじゃないさ」
とはいえ、褒められるというのは嬉しいものだ。
それが、大好きな人相手なら尚更のこと。
「そろそろ行くか?」
コーヒー牛乳を飲み終え、しばらくまったりしてから立ち上がる。
「行きましょう。町で食べ歩きをしてみたいです」
「お、いいね食べ歩き。絶好の取材スポットだ」
凛の手を取って、俺は温泉宿を後にした。
転職後の忙しさやら流行り病やらからくる閉塞感が天元突破して、勢いのままに新作を一本書き上げました。
ほのぼのしつつも、熱く、甘く、エモエモに仕上がりました。
青季ふゆの創作史上、最高傑作です。
完結まで書き切っていますので、是非!
↓作品URL↓
https://book1.adouzi.eu.org/n0166hc/




