第12話 取材の行き先
「取材、ですか?」
週明け、登校中。
隣を歩く凛が目をぱちくりさせる。
「そうそう。行ってこーいって、編集さんが」
善は急げ。
ということで、先日の打ち合わせのことを凛に話した。
今回書籍化する作品にイベントを加筆してほしいという発端から、リアリティを上げるために取材に行くことになった流れを。
「なるほど……? そういうことですね」
小首を傾げて凛が言う。
「でも、いいんですか? 私がついて行って」
「いやむしろ、凛と一緒に行くことを強く勧められた」
「それはなぜ……あ……」
凛は一瞬で事情を察したようだった。
うむうむ、これぞ幼馴染の関係値ゆえの意思疎通の速さよ。
ばっと胸元を覆い隠した凛が、ジト目で一言。
「え、えっちいのはダメですからね?」
「どこをどう繋げてそうなった!?」
意思疎通失敗。
「単純に、ヒロインのモデルが凛だから……一緒に行ったほうがイメージ湧いて良いだろうっていう……その……」
「な、なるほどですね」
かあっと、頬を桃色に染めた凛が横髪を弄る。
俺もいつの間にか顔が熱くなっていた。
小説のヒロインのモデルにしましたなんて、冷静に考えると色々とむず痒い。
「ま、まあ、そういうことだから」
改めて、提案する。
「一緒に、行かないか?」
「行きましょう」
「即答!」
「そろそろゴールデンウィークですしね。それに……」
凛が、口元を緩める。
「私も、透君とお出かけしたいですし」
早口気味に言ってから、凛はぷいっと顔を背けた。
「可愛すぎか」
「んぁっ」
頭に手を乗せて、そのまま撫でる。
今度はとろんとした表情で見上げてきた。
その面持ちも、動作の一つ一つも可愛らしく、愛おしい。
「ちなみに、取材にかかった費用は出版社持ちである」
「本当にあるんですね、そんなの」
「本当にあったんだよ、それが」
「噂に聞く、領収書を貰うというイベントがこなせるわけですね」
「そうそう! 地味にワクワクしてる」
作家業は、作品を作るためにかかった費用を経費として計上できるらしい。
例えば、担当さんとの打ち合わせにかかった費用は接待費、作品内で出てくる場所への旅費は取材費、といった具合に。
それらの費用を合わせた分、印税収入にかかる税金が安くなるとかなんとか。
……ぶっちゃけよくわかっていない。
白色申告だとか青色申告だか、おおよその高校生はまず聞くはずもないワードを検索して一晩唸ったが完全には理解できなかった。
出た結論は『税理士に聞くのが一番早い』というものだったので、どこかのタイミングで聞きに行かねば。
「領収書の宛名は『神野綴』で行くんですか?」
「ペンネームの由来がアレだから、声に出して言われるとめちゃ恥ずかしいなそれ」
「自分の恥ずかしいを如何に堂々と示せるか……それが、作家さんとしての素質の分かれ目だと私は思うのです」
「ぐぬぬ……それは確かに」
厨二の大病を患っていた当時の俺に会えるのであれば、言ってやりたい。
「ペンネームはじっくり考えるんだぞ」と。
「ちなみに、どこ行くかは決まってるのですか?」
「一応、候補は考えてる」
「おおっ」
きらきらと期待の眼差しを向けてくる凛に、息を多めに吸い込む。
先日の打ち合わせ以降、じっくりと考えた。
作品のネタにもなりそうで、二人で行って楽しくて、いつもよりちょっぴり贅沢ができそうな場所。
導き出した答えは。
「……日帰り温泉とか、どうよ?」
「温泉っ」
ぱあっと、凛が顔に明かりを灯す。
「良いですね、温泉。すごく良いと思います」
ふんふんとしきりに頷く凛。
うきうきそわそわと、擬音語が聞こえてきそうだ。
「気に入ってくれたようで何より」
ほっと、俺は胸を撫で下ろした。
「受験勉強の息抜きとしては最適ですね」
「ぐふっ、受験勉強」
胸に熱した鉛的なモノが詰まった。
「順調ですか?」
「進捗ダメです」
「参考書も持って行きましょうかね」
「取材が勉強会になってしもうた」
「冗談です」
柔らかく微笑む凛。
「その日は、しっかり楽しみましょう」
光の妖精が周りを舞ってそうな笑顔に、今度は温かいミルクティー的なモノが胸に流れた。
「ああ」
というわけでは、来週のゴールデンウィークは凛と日帰り温泉へ行くことになった。
有意義なデー……ごほん、取材になるよう、じっくり下調べをせねば。
【告知】
本作『世界一かわいい俺の幼馴染が、今日もかわいい』
の書影が公開されました!!!
どんっ!!
はい、もう言葉はひとつですね。
世界一可愛い!!!!!!!
いやほんと、イラストレーターさんってすごいですね……。
届いた瞬間、素で「ふおおおおっ!?」ってなりました。
『世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い』
富士見ファンタジア文庫様から、11/20に発売予定です!!
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
PS
実はしれっと新作書き溜めてます。
(ちょっとその影響もあって、せかおさの方亀更新気味です><)
また性懲りもなく甘ったるいシロップマシマシラブコメです。
そんな遠くない時期にお披露目できると思うので、さらにパワーアップした青季ふゆの甘々ラブコメにご期待ください!
ではでは!
あ、よろしければ下の☆で評価くださると嬉しいです。




