第11話 2回目の打ち合わせにして
色々とバタついておりノロノロ更新になってしまいすみません><!
「甘々イベントがもっと欲しいの」
4月最終週の休日、近所のカフェの一席。
打ち合わせが始まるやいなや、担当編集の甘海さんが言い放った。
そんな甘海さんの開口一番の発言に対する俺の反応は、
「はい?」
この一言に尽きる。
今日は、書籍化のための第二回目の打ち合わせ。
前回頂いたアドバイスを踏まえて原稿を修正し、さあどんな反応が返ってくるだろうと心臓をバクバクさせていた矢先のことだった。
「甘々イベント、ですか?」
「そう、甘々イベント」
腕を組み、うんうんと頷く甘海さん。
首の動きに合わせて金色に染めた髪がさらさらと揺れる。
「今回出版する『せかおさ』は今のままでもじゅーーーーーーーーぶん、甘いんだけど」
「コーヒー頼みましょうか?」
「ブラックでお願い」
「砂糖マシマシでって言っておきますね」
「やめて! 私を糖糖病にする気!?」
「糖尿じゃないんですね?」
「全身の血液が砂糖水になる病気よ」
「むちゃくちゃ恐ろしいじゃないですか!」
「生み出したのはあなただけど」
「いやぁ、光栄です」
「イグノーベル賞モノね。冗談はさておき」
こほんと咳払いを挟んで、甘海さんが続ける。
「とにかく、もっともっと甘くして、他の作品と差別化を図った方が良いと思うの」
「ああ、つまり……甘々なエピソードを追加して糖度を上げるべし、と?」
「そーそ!!」
「ふむ」
確かに、差別化という観点からすると良い案かもしれない。
webと比較すると、商業作品はコンセプトのオリジナリティや読後感に重きを置かれていると分析している。
幼馴染との甘ったるいラブコメ、というコンセプトで売り出し、手に取ってくれた読者さんたちに「期待通り……いや、期待以上に甘かった! 大満足!」
と思っていただけるために、シロップ要素をより強化する。
あれ、やらない理由なくね?
「やりましょう!」
「そうこなくっちゃ!」
うっしゃぁと、オフィススーツに似合わぬガッツポーズを掲げる甘海さん。
「イメージ的には間に挟めそうかつ、主人公とヒロインの心の距離がぐっと近づくようなイベント、って感じですかね?」
「そーそ!! 理解が早くて助かるわ」
「ページ数は大丈夫です?」
今回はwebからの書籍化ということで、モノはある程度出来上がっている。
書籍にした際のページ数には○○ページまでという規定があるだろう。
「大丈夫! あと1エピソードくらいは余裕あるし。もしページ超過しても、米倉くん削るの上手いからいけるでしょ」
「けっこう得意なんですよね、削るのは」
「すごい、書籍化作業に向いてるわね」
文章は積み上げるのも大事だが、削る方も重要だと今回の書籍化作業で再認識した。
書き始めの頃は、『たくさん描写しないと読者に状況が伝わらない』という心配から事細かく文章を書いていたが、意外と読み手は物語を想像で補ってくれることに気づいた。
むしろ、事細かく文章を書き込む方がテンポ感が落ちたり、読者の『想像する楽しみ』を奪ってしまうことにも繋がる。
なので削った方が余分な要素が削ぎ落とされてより洗練された物語になる、という理屈だ。
「じゃあ、甘々イベント1エピソード追加、よろしくお願いね」
「ガッテン承知です!」
「じゃあ次は、凛ちゃんとどこに取材行くか決めないとね」
「はい! ……はい?」
勢いで肯定したが、冷静になって首をかしげる。
「凛と取材とは」
「いい? 米倉くん」
甘海さんが、今日初めて真剣な表情をして言う。
「執筆において、取材はとっても大切なの。例えば、小説の舞台を想像で書くより、実際に現地へ行って取材した方がリアリティが増してクオリティも上がるわ」
「言ってることは至極真っ当で反論の余地なしなのですが」
なぜそこに凛が出てくる……ああ、なるほど。
「……ヒロインのモデルは凛だから?」
「そーそーそー!」
きらきらと瞳に宝石を散らばせ、甘海さんが身を乗り出してくる。
「今作、『せかおさ』は幼馴染ヒロインとの甘々ラブコメ! しかもそのヒロインのモデルが、リアルの幼馴染! こりゃあもう、現実世界でも甘々してもらってインスピレーションドバドバ沸かせないとでしょう!」
カフェの昼下がり。
ぐぐぐっと拳を握りしめ、ふんすと鼻息を荒くするバリバリのキャリアウーマンという光景は、他のお客さんから見てどう映っているのだろう。
「なんか、楽しんでません?」
「いいえまったく」
すん、と一瞬にして真面目モードに移る甘海さん。
いや白々しすぎるわ、というツッコミは内心に引っ込めつつ考える。
甘海さんの意見も筋が通っている。
仰る通り、今回書籍化する作品は凛をモデルにしたヒロインの幼馴染もの。
一緒に取材に行けば、プラスで書き加えるエピソードにも深みが増すことだろう。
……あと、あくまでもこれは作品の質を上げるための取材とはいえ、シンプルに凛とデートへ赴けるのは喜ばしいことだ。
「せっかくなので、一緒に行こうと思います」
「うんうん、それが絶対いい!」
にんまりと、俺の内心を汲み取ったような笑顔で甘海さんが頷く。
「でも、取材かぁ」
噂には聞いていたが、本当にあるとは。
「どこ行けばいいんでしょう?」
「それは米倉くんが決めることよ。せっかくのデートなんだし、男見せなきゃ!」
「さっき取材って言ってましたよね?」
とはいえ、高校生の財力で行ける場所なんてたかが知れている。
カフェでまったりするか、図書館で本を読み読みするか、ショッピングモールをぶらぶらするか……。
カラオケ? ボーリング?
そんな陽の当たるスポットは知らない子ですねえ。
「もちろん、取材にかかった費用は出版社で持つわ」
「マジですか」
「マジなのよそれが」
いや、本当にあるんだな、こんなの。
「領収書、忘れずにね」
と、まあこんな感じで。
第二回の打ち合わせは、『甘々なエピソードを書くために凛ちゃんと一緒に取材いってこーい!』という方向性で終了した。
どこ行こう、本当に。
【発売日・イラストレーター情報解禁】
Twitterにて先に告知させて頂きましたが、
拙作『世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い』の発売日とイラストレーターさんの情報が解禁となりました!
発売日は【11月20日】!!
すでにAmazon等で予約が開始されておりますので、もしよろしければチェックいただければと思います!
そしてイラストレーターさんは繊細で可愛らしい絵柄が定評の【Aちき】さんです!!
イラストも続々と仕上がっております、控えめに言って最高です。
仕事終わりにじっと眺めてニマニマしております。
凛ちゃんはもちろん、ゆーみんや花恋ちゃんもとびきりの「可愛い!」でお届けできるかと思います!
書影も出来次第、順次公開させていただきますので、お楽しみに!
不定期更新になっており恐れ入りますが、今後とも『せかおさ』をよろしくお願いいたします。
さいごに……。
実はTwitterやってます。
主に甘々ネタを垂れ流すアカウントですが、先行して書籍情報を告知する場合もございますのでよろしければフォローいただけますと!
@ai_junno




