表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

匂い

 また別の日、住宅街を散歩していると、いい匂いが漂って来た。


 なんだ……、この匂い。


 匂いを辿って歩く。あの公園のほうからだった。ミアと出会った、あの公園。


 入口まで回るのが面倒なので、繁みを突破して公園に入った。


「ぎゃあっ!?」

 ミアがいた。オレを見て悲鳴を上げた。

「び……、びっくりした! ゴゴ……だよね? 本物のライオンじゃないよね?」


 ミアはいい匂いのする袋を手にしていた。3つだ。匂いはこれだった。


「ゴゴだ」

 オレはそう言うと、ミアが座っているベンチの隣に腰を下ろす。

「お前が持っているそれはなんだ」


「フライドチキンだよ」

 ミアの笑顔が見れた。

「この間、ケガを治してもらったから」


「くれるのか?」

 みっともないが、よだれが止まらん。


「うん。もし、また会えたら、一緒に食べようと思って」


「待っていたのか」


「すぐにゴゴ来たよ?」

 可愛らしい笑顔をまた見せると、ミアがそれを二つ渡してくる。

「はい。一緒に食べましょ」



 ベンチに並び、ミアと一緒にそれを食った。


「美味しい?」

 一口齧って、ミアがそう聞いてくる。


「うまかったぞ」

 オレは紙の袋ごと二つとも食べ終えた顔を笑わせた。


「もう食べちゃったの!?」

 驚いた顔もなかなか可愛い。

「紙袋は!? あれまで食べちゃだめなのに」


 ミアは顔にガーゼを当て、絆創膏で留めていた。自分でやったようだ。歪んでいた。

 オレの唾液は傷を治すが、痛みが消える程度だ。傷跡は消せない。

 スティーブはカネの力で優秀な医者に傷跡を消させることが出来るが、オレに傷跡は消せない。


「聞いたぞ」

 オレはミアに言った。

「オマエ、金持ちの家の娘か」


 ミアが嫌なことを知られたような表情になり、うつむいた。


「なぜカネの力で傷跡を消さん? 女の子にとって体に傷がつくのはよくないことだと聞いた」


 もう聞かないでというようにミアは向こうを向いたが、どうもオレはデリカシーとかいうものがないようだ。続けて聞いてしまった。

「自分で貼ったのか? その絆創膏。なぜ召使いにやらせない?」


 するとミアがオレをまっすぐ見た。

 悲しそうな青い目で、オレの目をまっすぐ見てくる。


「あたし、いらない子なの」


「いらない子? どういうことだ」


「間違って生まれちゃった子なの。だから、ほんとうは、あまりゴールドスミスを名乗るなって」


「わからんな」

 オレは言ってやった。

「いらない生き物などいるのか? すべての生き物は誰かの糧になる。オレは誰かの肉を食ってばかりだが、オレもいつかは誰かに食われる肉になる。だからだ」


 ぽかんと口を開けてミアがオレを見つめる。

 意味がわからなかったようだ。まだ子供だから仕方がない。可愛い。

 わかりやすい言い方に変えて言ってやった。


「すべての生き物は、生きていることに意味があるのだ」


 すぐにミアが聞いてきた。

「誰かに食べられるために生きてるのも意味があるってことなの?」

 その顔はオレの言葉を責めているように見えた。


「そうだ」

 オレは答えた。

「強いものが弱いものを食べる。当たり前のことだからだ。弱いものがさらに弱いものを食べ、やがて一番小さなものが一番強いものを食べる。命は回るのだ」


「いやだ!」

 いきなりミアが立ち上がり、怒りはじめた。

「弱い私は食べられろって言うの!? そんなのいやだ!」


「オマエは弱くはない」

 心から、オレは言った。

「オマエにはオレを優しい気持ちにさせる魅力がある」


 照れくさかったのか、ミアが少し笑った。可愛い。


「オマエが弱いなら、オマエは弱いオマエを、オレに守らせたいと思う魅力がある。それはだから、オマエの、強さだ」


「私を守ってくれるの?」


「守りたいと思わせられる。だからだ」


 ミアが近寄り、オレの脇腹に抱きついてきた。


「ゴゴって、太陽みたいに暖かいね」


「何だそれは? 太陽は暖かくはない。燃えるぞ」


「お陽さまみたいにあったかいって、よく言うよ?」


「離れているから暖かいのだ。近づきすぎると火傷をする」


「守ってほしいの……」


「なんだ?」

 意味がわからず、オレは聞いた。

「誰かに食われそうになっているのか?」


 ミアはうなずいた。


「私を狙ってる悪いやつらがいるの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ