57:今日の報告
制服から運動用の服に着替えてから、お庭のテーブルで一息がてらバウディへの報告タイム。
いつもは歩きながらなんだけれど、今日はシーランド・サーシェルの妨害があってできなかったので、お茶をしながらだ。
ぱぱっと、マーガレット様と確認した教室の違和感、ローディ先生の難癖からの教室の話題で先生二人が慌てていたこと、アーリエラ様が生徒会室に一度ではなく顔を出しているようだということを伝えた。
「それで、お嬢の考えは?」
促す彼に、考えを伝える。
「アーリエラ様が精神魔法を使っている可能性と、ミュール様と手を組んだ可能性かしら。でもアーリエラ様の魔法は生徒会の、少なくとも会長と会計には効いていなかったみたいなの」
冷たいお茶で喉を潤している私の前で、彼が長い足を組んで考える姿勢になった。
うむ、従者としてその体勢はどうかと思うけれども、とてもカッコイイのでそのままでお願いします。
「だが、その精神魔法。本当にそんなものを使っているとしたら、魔法学校の探知に引っかかるんじゃないのか?」
「そうなんだけれど。もしあの場所が、碧霊族の魂が留まっている場所なら、そんな不思議があってもおかしくはないんじゃないかしら」
解せぬ、って顔をしないでほしいな。
そりゃね、それを証明する方法はないけれど、可能性のひとつくらいにはなるんじゃないかと思うのよ。
「じゃぁ、バウディの見解は?」
「ミュール嬢の中和魔法の可能性だな。ミュール嬢と公爵令嬢が手を組んだとすれば、あり得なくはねぇからな」
彼の言葉に、なるほどと納得する。
「でも、そうすると、アーリエラ様の精神魔法も中和して消すことにならないかしら?」
「そこなんだよなぁ。中和魔法ってのが、どの程度の威力なのか、範囲を決めて使えたりとか、種類も色々あるのか、ないのかもわからねぇしな」
空を仰ぐ彼に、追い打ちをかける。
「それを言ったら、アーリエラ様の精神魔法も、どんな魔法で、どこまでの威力があるのかわからないわ」
考えれば考えるほど、わからないことだらけで嫌になっちゃう。
「でも、どうせ明日になれば、学校を辞めるのだし、悩むだけ無駄ではないかしら」
なんていう言葉で締めくくって、それ以上彼女たちの魔法について詮索するのを打ち切る。
「確かにそうだが、想像して、対策を練ることは有効だぞ。だが、それはそれとして、明日はどうやって学校を退学するように仕向ける計画なんだ?」
「最初は、適当に魔法を無断使用して退学にしてもらおうと思ってたんだけど」
彼の呆れた視線に、慌てて付け加える。
「いまの感じだと、もしかしたらミュール様が仕掛けてくるかもしれないの。だから、そのときは、それに乗っかってしまおうと思うの」
「車椅子で、階段から落とされるやつだろう? 危険すぎる」
正しくは、私がミュール様を突き落とそうとして、逆に私が落ちてしまうってものだけれどもねー。
「さすがにもう車椅子には乗らないわよ。だけど、向こうは、同じような場面を再現してくると思うのよね」
「やっぱり危険だ」
厳しい表情でそう断言する彼に、思わず口をとがらせてしまう。
「ではどうすればいいの? 代案もなく、文句をいうだけなら、子供でもできるわよ」
口をとがらせた私を見て、彼が笑う。
「お嬢は難しく考えすぎだ、学校を辞めたいなら――」
彼の言葉に脱力した。
「学校に通わなきゃいいって、無断欠席で退学を待てばいい、ってこと? そんなことで、退学になるの?」
「そんなことと言うが、理由もなく休み続ければ、学生としての籍を抹消されるのは当然だろう」
それはそうだろうけどもっ! ……え、でも真面目にそれってアリ? アリ、かも。
脳内でめまぐるしく彼の提案を精査した結果。
「バウディの意見を採用します」
そのどや顔やめてよ、イケメン。
「でも、明日は学校に行きます」
宣言した途端に、怖い顔になった彼を慌ててフォローする。
「大丈夫よっ、絶対に危ないことには近づかないし、ミュール様にもアーリエラ様にも近づかないから。それにほら、本当に向こうが仕掛けてくるかどうかなんてわからないじゃない。平穏無事に学校を卒業したいなら、何もしないのが一番なんだし」
「平穏無事を願う人間が、精神魔法や中和魔法を使うとでも思っているのか?」
無茶苦茶真っ当な意見ですね、バウディさんや。
「ただ、せめて前期だけでも通い通したい、という気持ちはわからなくもない。顔を見たい友人も、いるだろうしな」
友人いないけど――あー、強いて言えばマーガレット様かな。彼女とはもっと一緒に居たかったと思う。
なんだか、話せば話すほど面白い人だし。
「では、いってもいいのね?」
「いきたいんだろう?」
彼の言葉にしっかりと頷けば、彼は微苦笑を浮かべる。
「俺のお姫様は、やると言ったら聞かないだろ?」
俺の、お姫様?
って……ええぇぇ、と。私?
「顔が真っ赤だぞ」
イケメン、ひどいっ! 自分がどれだけイケメンなのかわかってるのかーっ!
リップサービスだってのはわかるけれ……えぇと、バウディも顔、赤いわよ?
「バウディも、人のこと言えないわよ」
「……口が滑ったんだよ、くそっ」
赤らめた顔を背け、悪態をつく。
口が滑ったってことはですよ、もしかして、いつも心の中で、私のことを『俺のお姫様』って呼んでたってこと……? い、い、いやいやいや、まさかね! まさか、ねっ。
「いいから、今日の訓練はじめるぞっ!」
明らかに照れ隠しの話題転換だけど、仕方ない、ノってあげましょう。
「お手柔らかにお願いしますね」
彼に続いて立ち上がる。
「あのなぁ。ひとつ言っておくが」
「なに?」
不機嫌そうに言った彼が威圧するように、私を見下ろす。
「俺が必ず守る、だから、心配するな」
真剣な目に射貫かれて、胸が高鳴る。
こ、この人、私の心臓を壊す気かな?
思わず両手で顔を覆った私に、彼が慌てる。
「うん……よろしく、お願いします」
なんとかひねり出した言葉に、彼は笑って応えてくれた。
仔猫は順調に大きくなっており
当社比1.7倍(110g→190g)に進化しました。
まだまだ、ミルクが2時間おきなので……更新共々頑張ります。





