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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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53:知らないことばかりです

 順調に体力も付いて普通のご令嬢の体型くらいまで戻り、先日ボンドのところで義足の接続部のサイズを直してもらった。


 そして、魔力循環と身体強化も精度を上げている。


 昼休みには生徒会準備室で、カレンド先輩に第二学年で習う範囲なども習っている。あまりにもちゃんと教えてくれるので申し訳ないと言うと、彼は「復習になるから気にするな」とのありがたいお言葉をくれた。さすが生徒会長、人間ができてる。


 授業では、やっとE組も実技が本格化してきた。

 A組なんかは、二週目には実技をはじめていたのに。クラス全員が一定以上の魔力循環を覚えるまでは、実技に入れないって知ったときにはもう……っ。教室の位置関係でE組に入ることになったのが、悔やまれてならない。


 とはいえ、はじまった実技は楽しく。

 担当のローディ先生がうるさいことを言わないので、よくペアになるマーガレット様と共に、どんどん教科書に書かれている魔法を試した。

 彼女は辺境の出身で、とにかく攻撃の魔法を好んで習得している。


「魔物が出るのよ、魔物が。倒せるようにならなくては、ここに来た意味がないわ」


 実技は数人ごとに行われるため、どうしてもできてしまう長めの休憩のとき、キリッとした顔で言い切った彼女は思いっきり武闘派だ。

 外見は優等生だけど、強化魔法をバリバリ使うし魔法はとにかく威力優先で覚えている。そして学業は少々苦手という、外見を裏切る女性だ。


「でも、魔法というのは、許可を取ってからでないと、使えないのでしょう?」


 そう聞いた私に、彼女は一瞬きょとんとしてそれから苦笑して説明してくれた。


「許可は取ってるわよ、通年で名簿を提出しているわ。そうでもしなくては、辺境を守れないでしょう?」


「でも、魔法を探知する魔道具に引っかかってしまうのでは?」


 そんなものがあるは王都だけだと笑い飛ばされてしまった。

 それも王城の近く、貴族の屋敷が建ち並ぶあたりまでがせいぜいだろう、という。


「魔法攻撃の射程外は気にしないでしょうよ。国土全部を把握するくらいなら、もっと他のことにお金を掛けるべきだもの。この国は豊かですけれど、楽園ではないのですから」


 考えたこともなかったけど確かに、国土全域の魔法使用を把握するなんて馬鹿げてるわ。


「それに、国全部を監視されてしまったら、冒険者が困るじゃない」


「冒険者が困るのですか?」


 そんなことも知らないのかという顔をしてから、思い直したように表情を改めた彼女が説明してくれる。


「ここの勉強は、あくまで貴族向けなのよね。王都には騎士がいるから、冒険者なんて会うことないもの、知らなくても仕方ないわ」


 無知な私をそうフォローしてから、冒険者は大抵魔法を使えるとか、冒険者を統括するギルドという組織についても教えてくれた。


「とはいえ、王都住まいの貴族のご令嬢は、滅多には外に出ないでしょう? 出ても、安全な避暑地くらいで、平民の生活なんて知らない人の方が多いと思うわ」


 彼女によって、自分の知識の足りなさを痛感する。

 もっと聞きたいと思った時に限って、練習する生徒の入れ替えの合図が出てしまった。


「さて、今度はあなたが炎で私が水ね」


 先に立ち上がった彼女が手を差し伸べてくれる。


「ええいいわよ」


 彼女の手を借りて立ち上がり、訓練場の所定の場所に移動するのだけど、杖をついて歩く私に彼女が小声で声をかける。


「前から思ってたんだけれど。あなた、杖、必要あるの? 体幹もしっかりしているし、強化魔法も得意よね?」


 コソコソと話かけられ、頷く。


「こうしていた方が、なにかと便利なのよ」


 小声で返した私に、彼女は愉快そうに目を輝かせた。


「いいわね、そういうブラフを張っておくの、嫌いじゃないわ。戦術の基本にもあるもの。ああそうだ、戦術といえば、彼女も着々と情報戦を仕掛けてきているわよ。気をつけて」


 彼女、のところで友人たちに囲まれているミュール様を見た彼女は、平坦な顔をして私に注意を促してきたけれど、私の驚いた表情を見て眉をあげて片手を頭にやりかけて手を下ろした。


「ああいうの、苦手なの。戦い方の一つだとはわかるんだけ……わかるのですけれど、おほほほっ。駄目ねメッキはすぐに剥がれてしまうわ、彼女くらい明け透けとできたら楽なのでしょうね」


 崩れていた言葉遣いを直した彼女は、すこしだけうらやましそうにミュール様を見た。


 確かに言葉遣いは大事だ、貴族として外面は繕わなければならないものだし。



「さて、それでは、魔法の相殺の実技頑張りましょうか」


 腰に下げていたホルダーから手のひらサイズの杖を取り出した彼女が、ニッコリと笑う。使い込まれたその杖は、代々親から子に引き継がれているものらしい。

 彼女はお下がりだと笑っていたけれど、自分に子供ができたらこの杖を渡すのだと言った表情はとても優しいものだった。


 そして私は、アーリエラ様から巻き上げたあの杖ではなくて、いつも歩く補助に使っている長い杖を持ち上げる。

 ボンドが作ってくれたこの杖、松葉杖として作ってもらった当初にも石がはまっていたりしておしゃれだなとは思っていたが、どうやら魔法の杖としても使用できるように、最初から作られていたらしい。

 だから、短くしてもらうときにあんなにがっかりされてしまったのだ、折角の杖の能力が落ちてしまうと。知らないでごり押しして、申し訳なかったとちょっと思う。


 アーリエラ様からいただいた杖は、高価な上に魔法を増幅する効果が高すぎて、私が授業で使うには不向きであるとのことでバウディに預けてある。……手元にあったら、使ってみたくなっちゃうからね。



「おまえら、相殺の実技じゃなくて、発動だって言ってるだろうが」


 他の生徒たちの指導をしていたローディ先生が、お互いに向けて魔法を打ち合っている私たちに気づき、近づいてきた。


「ローディ先生、私もレイミ様も、発動しているだけです。たまたま、お互いの魔法が当たって相殺されてるだけで」


 真顔で反論するマーガレット様と一緒に、私も横で頷く。そうだそうだー、たまたま当たってるだけだぞー。


 溜め息を吐き出したローディ先生は、どうやら諦めてくれたらしい。


「わかった、やるのはかまわん。次は攻撃側が、魔力の量を変化させた魔法を使って、受け手側がそれを見極めて相殺しろな。攻撃側は威力を変える代わりに、速度をさげろよ」


 今までは、あらかじめ打ち合わせていた魔力の量で作った魔法をぶつけていたけれど、先生から新しい課題がでて彼女の表情がキラキラ……いや、ギラッと輝いた。


「実践的で、イイですね。やりましょう、レイミ様! 私が受け手でお願いします」


「は、はい」


 彼女の勢いに飲まれるまま、攻守を変えて魔法を打つ。

 攻撃側は魔法を遅く打ち出すというのがなかなか難しいし、迎撃する方は目に強化魔法をしたまま魔法を発動しなければいけないということで、難易度が一気に上がった。




 そんな先生と私たちのやり取りを、ミュール様たちの集団が見ていたことなんて、知るよしも無かった。


 知ってても、どうでもいいっちゃぁ、どうでもいいんだけどね。

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