44:中和魔法
無事帰宅し……いや、ウソ、全然無事じゃない、お姫様抱っこで帰宅なんて、もう嫌だ。
自宅に着いた時には息も絶え絶えで、ベッドに下ろされるまでバウディにしがみついていた。
色っぽい話では一切ないけどねっ!
彼も身体強化を使えるとは思っていたけれど、身体強化を使って道なき道を飛ぶように走るのはよくないと思うの。
ジェットコースターが楽しいのは安全が確保されてるからだって、身をもって理解したわ。
「それで、なにがあったんだ? 身体強化がおかしくなるなんて、よっぽどのことだろう」
椅子を引き寄せて座った彼に問われて、どうして身体強化がおかしくなったのかを思い出す。
ベッドの上に投げ出した足……義足にゆっくりと魔力を巡らせながら口を開く。
「さっき会った彼女、ヒロインちゃんであるところのミュール様に触られると、力が抜けてしまうのよね。魔力の循環がうまくいかなくなるというか、力が抜けるように、強化魔法の魔力が抜ける感じがするの」
あのときの感覚を思い出しながら説明したけれど、本当に嫌な感覚だったわね、あれ。
なんとか魔力をとどめておこうとしているのに、ヘナヘナとへたれてしまう感じ。
「その状態は――聞いたことがあるな、中和魔法というやつだ、相手の魔力を中和して無効化するもので、血統で出てくる魔法の中でも、珍しい部類のものだ。俺も話に聞いただけで、使える人間に会ったことはない」
「血統で出てくる魔法? そんなものがあるの?」
「稀にある。内容は秘匿されているが王家固有の魔法も血統魔法だし、特殊なものは大体血統魔法だ」
そんな特殊な魔法なんてあるんだ?
中和魔法……ああ、だからヒロインちゃんは精神魔法を使うボスに対抗できたのか。
っていうか、えげつない魔法よね。
「ということは、ヒロインちゃんが最強ってこと? どんな魔法も中和してしまうんでしょう?」
「どんな魔法も、ってことはないな。物の本によれば、中和魔法は外に発現してしまった魔法には効かないらしい、逆に言えば、お嬢の使う強化魔法や相手の内部に作用する精神魔法なんかには、滅法効果的ってことだ」
彼の説明にげんなりしてしまう。
「私やアーリエラ様との相性は、最悪ってことね」
「そうだな。近づかないに越したことはないが……」
彼も、今日の彼女を見て思うところがあるのだろう、言葉を濁す。
「向こうからぐいぐいくるのよ。転生者だかなんだか知らないけれど……もしかしたら、物語の通りに進めようとしてるのかもしれないわね、いえ、きっとそうだわ」
ぞっとするけれど、そう考えるのが妥当だと思う。
彼女は私を、車椅子に戻そうとしていたもの。
それに――本来であれば、前期の最後に私が階段から彼女を突き落とす場面で、彼女の魔法が開花するはずなのに。きっと、彼女はもう習得してしまっている。
鳥肌の立った腕を擦り口を閉じてうつむくと、彼がベッドの端に腰掛け大きな手で私の頭を撫でてきた。
「前期で学校を辞めるんだろう? 向こうの思惑に乗るようで嫌だが、前期さえ乗り切れば、あとはなんとかなるだろう」
慰めの言葉に、頭に手を乗せたまま頷く。
「俺の方でもできることはやっておくが、まずは、強化魔法に頼らず義足を使えるようにならねぇとな」
「え」
イイ笑顔の彼を見上げた。
こうして、私の日課に筋トレが加わり、日常での強化魔法の使用を禁じられた。ひどい、忘れたらどうするのよ!
「毎日、魔力循環の鍛錬を続けていれば、忘れることはない」
「これから課題もたくさん出るって聞いてるし、予習もやらないとついていけなくなるって言われてるのよ」
「勉強の合間に運動をすることは有効だ」
そうかも知れないけど! そうかも知れないけどぉぉっ。
どうしたって逃げることは適わない問題だったので、早々に諦めた。
いつの間にか用意されていた運動用の服を母に渡されるに至って、これはもう決定事項だったのだなと理解した。
そういえば、元々筋肉もつけるって言ってたもんねぇ。
私、体ひとつじゃ足りない気がしてきた。
今回は短めでしたが……っ!
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