27:お披露目っ!
いつも誤字脱字報告ありがとうございます!
大変助かっております。
訓練も兼ねて、ボンドの工房から自宅まで義足と松葉杖で帰った。と言っても、途中でバテて車椅子に乗ることになったけれど。
これなら松葉杖なしで歩けるようになるのもそう遠くなさそうだわ。ボンドはがっかりするかも知れないけどね。
思ったよりも、義足が足にフィットして、ぐらつきがないのよ。
きっと、足と接している柔らかいゴムみたいなののおかげよね、素材を聞いたら『スライムの肉』を素にしてるって言われたんだけど。スライムってあの液体っぽくって、くりんとした目とにっこりした口があって、ぷるぷるしているアレよね? かわいいモンスター代表みたいな。
あれのお肉かぁ……ちょっとかわいそうね。
って、言ったら、バウディに怪訝な顔をされた。
曰く、ヤツらに目口はなく、腹が減ればなんでも食う雑食、半透明の肉体に獲物を取り込み、時間を掛けて生きたまま溶かしていく。
倒すには核を破壊しなくてはいけないが、大物になると核に剣が届かないので倒すのが厄介極まりなく、肉体をゴム状にして殴りつけてくる――どうも私の知っているスライムとは違うもののようだった。
帰宅して、ベッドに直行。
疲れすぎたのか、微熱と頭痛が……。
「お嬢、あんまり無理すんじゃねぇよ」
痛み止めの薬湯を持ってきたバウディに、小言をもらいつつ薬湯を一気飲みする。
うう……っ、苦い。
飲み干したコップを渡すと、代わりに飴をくれた。子供扱いだけど、ありがたく受け取るわよ、口の中のえぐみがつらいもの。
ベッドに横になった私に、彼が手を伸ばして頭を撫でようとして、ハッとその手を引っ込めた。
「あら、撫でてくれてもいいのに」
小さく笑った私に、彼は気まずそうに宙に浮いた手で自分の頭を掻いた。
「すぐ忘れちまう。すまんな」
「別に謝らなくていいわ。頭、撫でられるの好きよ。私も、レイミも」
目を閉じて体の力を抜くと、薬の影響か、疲れたからか、すぐに眠気がやってくる。
ふわり、と頭を撫でられる感覚を最後に、意識がなくなった。
なんかいい夢を見た気がするけど、覚えてないなぁ、惜しい。
レイミの睡眠って深い気がするのよね、スコンッて一気に落ちる感じ……まてよ、睡眠じゃなくて気絶なのかも?
あり得るわね、なんせレイミの体力ヤバいもの。
もっと体力をつけなきゃ、はなしにならないわね。
夕日が差し込む室内で起き上がり、いそいそと義足を装着する。
こう、キュッと足にフィットする感じがいいわね。
筋肉の付きが大きく変わったりしたら作り直さなきゃならないらしいけど、細る以外なら多少は大丈夫とのこと、筋肉をつけてサイズアップするのが目標だわ。
身体強化して立ち上がり、机を支えにしながらネグリジェからワンピースに着替え、椅子に座って膝上まである長いソックスを両足に履く。
うん! こうすれば、ぱっと見では義足ってわからないわね。
更に靴も履いてしまえば、完璧。
踵の高い靴は無理なので、いまはぺったんこの靴だけど、いつかヒールのある靴も履いてみたいわね。となると、足の裏の作りをもっと柔らかくしないと難しいかしら、ボンドに相談だわ。
つらつら考えながら、髪に櫛を通して整えて、あっという間に支度が完了!
松葉杖をマスターしたころから、ボラの手を借りなくなったけれど、義足だと超スムーズで素晴らしい。
「お嬢、起きてるか」
ドアの外からバウディの声が掛かった、もう夕飯の時間なのかな? 多分そうね。
「起きてるわ、ちょっと待って」
そう断ってから、深呼吸して身体強化を使う。
両足を強化して椅子から立ち上がり、ゆっくり気をつけながら松葉杖なしでドアに向かって歩く。
大丈夫、レイミは長いこと歩いてなかったけれど、私は最近まで歩いてたんだから、感覚を覚えてるんだもん。
膝下からの義足だから、足首の挙動に気をつけて、うん、接地している足の踵、足の外側からつま先の方へ体重が移動していくのを感じる、軸がブレないようにゆっくりと地面を蹴り、左足に移行する。
家に帰ってくるまで歩いたときは、がむしゃらに足を動かしていたけれど、こうやって歩きかたに注意しながら動かすと、なんだか足首から先の感覚がしっかりわかる気がする。
一歩一歩ゆっくりと歩いてドアにたどり着き、支えなしでドアを開いた私に、バウディは一瞬驚いた顔をして、それから、二本の足でまっすぐ立っている私を見て表情を緩めた。
「もう松葉杖をやめたのか、ボンドががっかりするぞ」
「部屋のなかだけよ、外はまだちょっと怖いもの。夕飯よね? お父様はもう帰っていらっしゃるのかしら?」
「ああ、奥様から聞いて、お嬢を見るのを楽しみにしてるぞ」
母にもまだちゃんと見せていないので、二人を驚かせるのが楽しみだわ。
机の横にある松葉杖を取りに行こうと体を反転させると、右肘を彼に捕まれた。咄嗟のことにぐらついた体が、腰に回された逆の手で力強く支えられる。
「おっと、すまない。お嬢、ダイニングまで手を貸すぞ」
「あら、いよいよボンドが泣くわね」
苦笑して私を支える彼を見上げたものの、思いのほかぴったりくっついている状態に心臓が大きく鳴る。
あー! レイミ、耐えて! 耐えるのよ!! 身体強化の集中が切れちゃうーっ。
腰をホールドされて、ダンスをするときみたいに密着してるけど、ときめきを堪えてーっ!
そうよ、こんな時は関係ないことを考えるの。
立派な松葉杖が使われなくなって、拗ねちゃうボンドとか! ね! あとは、そうだわ、魔法学校でちゃんとヒロインちゃんをスルーして生活できるように、対策を考えなきゃとかね。
だから落ち着いて、レイミ。
「家のなかだけならいいだろ」
さっき私が言った言葉を真似て彼はにやりと笑い、体を離して肘を差し出した。まっすぐ立って曲げた肘を軽く開くその動作が、無茶苦茶かっこいい。
その上、そのちょっと悪い笑顔が、たまらない。
あー、駄目だわぁ……王子様力が高過ぎる。
「じゃ、じゃぁ、お願いするわ」
「よろこんで、我が姫」
ダメ押しの笑顔!
あーっ! あーっ!! そういうところよ!!
全世界の私が泣いちゃう。ときめき殺されちゃう。
レイミのせいにできないー、わかってる、コレは乙女殺しだわ、誰も勝てないわ。
脳内パニックのままダイニングに到着。身体強化はとっくに切れていて、もうバウディにほぼお任せ状態だった。
「レイミ! レイミが立った!」
父がガチ泣きしたことで、脳みそがクールダウンできました。
満面の笑顔で母の刺繍したハンカチを涙でびしょびしょにした父に、もらい泣きしそうになりながら身体強化を再開、バウディのエスコートで席に着く。
「凄いじゃないか、本当に凄い。レイミは我が家の誇りだな」
「ええそうね。あなた、まずはお水をお飲みになって、もうそろそろ干からびてしまいますわよ」
母に渡されたグラスの水を一気に飲み干した父は、やっと人心地ついたようだった。
そわそわする空気のなか夕飯を食べ、食後のお茶をいただく。
「それで、レイミ、義足をつけても、痛みはないのかい?」
「ええ、大丈夫よ。お母様に習った身体強化のおかげで、なんとか歩けるようになりました」
「え、あ、シーラに習ったのか? それは、その、が、頑張ったな、うん、頑張った」
父の挙動がおかしいが、母に教わることになにか問題でもあったんだろうか?
若干感覚と根性論寄りの練習だったけれど、習得できたのだから問題ない。
「あなた、褒めるのは早いですわ。身体強化は上手にできておりますけれど、物体強化はまだまだですもの。ほら、義足の部分への魔力が漏れているでしょう? それに、まだ強化にまでは達していないわ、その一歩手前、義足を体の延長として認識はできていますけれど、それだけですもの」
義足を体の延長として認識できてるんだ! やっぱり!
足の裏の感触がある気がしてたのは、気のせいじゃなかったんだ。
「いや、でもね、そこまでできるようになるのって、熟練した兵士でも一握り――」
「兵士の話をしているのではありません」
父の言葉をぴしゃりと封じる母、こと強化魔法の件に関しては父よりも強そうだ。
……ちょっと待って、父の言葉に聞き捨てならないものがあったわね。
私の物体への強化魔法は、今私ができるものでも熟練した兵士並? それも、一握り?
魔力を外に漏らさない魔力循環ができるのは宮廷勤めの魔術師クラスで、物体の強化魔法は熟練兵士クラスってことは、私、なにげに凄くない?
あ、でも、まだ母の目指しているところには全然到達していないっぽいわね。
それって、とっても悔しい。
私、侮られるのが大嫌いなのよね。
絶対に、物体への強化魔法をマスターしてみせる。
「お母様、あとで強化魔法の特訓の続きをお願いいたしますね」
「ええ勿論よ。いい心がけだわ、レイミ」
微笑む母に笑顔を返した。
くっそ! 絶対に認めさせてみせる!!





