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中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。【書籍化】  作者: こる
本編

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25:義足がキター!

誤字脱字報告ありがとうございます!


 私を訪問する人間は、いつも突然やってくる。


 まぁ、私は滅多なことでは外出しないから、いつでもいいと思われてるんだろうし、ほぼ正解なんだけどさ。




「よぉ、嬢ちゃん久しぶり!」


「お久しぶりです、ボンドさんっ。義足はどうなってますかっ」


 バウディに呼ばれて大急ぎで玄関に向かった私は、母と挨拶をしていた彼に、失礼を承知で勢い込んで聞いた。


 彼は手に持っていた黒い革張りのケースを掲げ、いい笑顔で親指をグッと立てる。


 やった! とうとう完成したのね!

 ボラと母に手伝ってもらって、事前に求められていた寸法は渡してあるので、もしかしてと思ったけどっ。


「あらあら、レイミ。玄関ではなく、中に入っていただきましょうね」


 母に苦笑されてしまう。


「そうですわね。申し訳ありません、こちらへどうぞ」


 貴族のご令嬢っぽく取り繕い、でも急いで松葉杖を動かしてさっさか歩き、リビングへ移動してボンドにソファを勧める。


 どっかりと座った彼は手にしていた立派なケースを布を敷いたテーブルに乗せ、その上に分厚い手を置いてから正面に座る私を見た。


 もったいぶるわね! ドキドキしちゃうじゃない!


「一応言っておくが、これで完成じゃねぇからな。ここから調節していくもんだから、がっかりすんなよ」


 彼は前のめりになってる私が頷くのを見てから、パチンパチンと留め具を外し、ゆっくりとケースを開いた。



 そこには、無骨で無機質だけど間違いなく私の足があった。

 木目も美しい木の外装で、中央には鉄芯が通っているらしい。


「凄いわ! これが、私の足なのねっ」


 取り出された義足を渡されたんだけど、思ったより重くて一瞬「うっ」てなった。


「やっぱり重いかぁ、これ以上削っちまったら、強度が心配なんだよなぁ」


 ボリボリと頭を掻きながら彼がぼやく。


 でも、心配はご無用!


「大丈夫ですわ、私、ちゃんと身体強化を覚えましたから!」


 どや顔で言った私に、ボンドの表情も輝く。


「おお! 本当か! そりゃあよかった、これ以上削ると強度が心配だから、どうしたもんかと思っとったんだ」


 なんと! 母との魔力循環の特訓に合格し、つい昨日身体強化の魔法を習得したのよ!


 っていうかね、身体強化ってようは魔力循環だったのよ、魔力をたくさん循環させればより強くなるし、ピンポイントにすればそこだけ強化できる。


 強化の方向性は意思で決まるので、強さなのか、速さなのか、固さなのか、意識するだけでいいのよ、超簡単! 問題は集中力なんだけどね。


 母の望むレベルに到達するのは本当に大変だった、朝晩の自主練以外にも、日中リビングで編み物をしている母に身体強化のできばえを見てもらい。

 本当にびっちりトレーニングしたわよ、その息抜きに体力が落ちないように松葉杖の練習もして。


 今までにない充実した日々だったわ。



「これはどうやってつければいいのかしら? このベルトで足に固定するの?」


 義足をそわそわしながら見てしまう、早くつけてみたいのよ。


「まぁまぁ慌てなさんな。まずは接するところの型取りだ」


 そう言って取り出したのは、大きなカップに入ったゲル状の物体。これに右足を突っ込んで数分待てばいいだけの、簡単なお仕事です。


 やり方を教わり、ボラに手伝ってもらって部屋で型を取ってきた。


 取った型はボンドの手によってあっという間に足の形に加工され、義足に固定される。そして、履き方をレクチャーされた。


 いよいよ装着よ!


 松葉杖で自室に移動し、ボラに手伝ってもらいながら着用する。

 足に当たる部分はしっとりと硬化したゲルなのでお肌に優しい感じがする、これなら擦れることもなさそうでよかった。

 吸い付くようなフィット感、そして太ももに固定した皮の太いベルトを巻いて固定する。


「きつくはございませんか?」


「ええ、大丈夫よ、ありがとう」


 軽く右足に身体強化の魔法を使い、義足を持ち上げてみる。

 んふふふ、いい感じじゃない!



 部屋の外で待たせていたバウディを呼んで、ボンドにいわれたのを遵守して車椅子でリビングに戻る。


 うんうん、座っても右足のふらつく感じがなくて、足を踏ん張れるのがいいわね。


「おお、ちゃんとできたか。どれ、それじゃぁまずは椅子に移動だ。おっと、まだ自分では駄目だぞ。バウディ、こっちの椅子に移動して運んでやってくれ」


「承知しました。失礼いたします」


 久しぶりに彼にお姫様抱っこされ、隣に置かれた椅子にそっと下ろされた。

 もう、その『宝物を持つような慎重な手つき』ったらね! 両手で顔を覆ってもだえたくなっちゃうじゃない! 耐えたけれどもっ。

 ああこれよね、レイミが移動してもらうたびに体をカチンコチンにしてたのって。

 気にしなければスルーできるけど、気にしちゃったら駄目だわぁ。ときめきが止まらないもの。


「よし、それじゃぁゆっくりと立ち上がってみてくれ。バウディに掴まって、ゆっくりだぞ」


 ボンドに促され、気を取り直して正面に立ったバウディの手を掴んでゆっくりと重心を前に移動させる。


 正直に言えば怖さがある、本当にちゃんと立てるのだろうか、無様にくずおれたりしないだろうか。だけど、ここでそんな弱気を見せたらかっこ悪い!


 母とボラが祈るように見守り、正面にはバウディがいる。大丈夫、転んだところでバウディが受け止めてくれるから。


 彼の大きな手がしっかりと私の手を掴んで引き上げてくれた途端、すっと体が椅子から浮いて立ち上がっていた。


 あまりにもあっさり立ててしまって、一瞬ぽかんとして、それから正面に立って私を支えてくれているバウディを見上げた。


 彼の笑顔が……眩しい。

 やばい、浄化されちゃう。


 いやいや、そんな場合じゃなかった。

 立ち上がるのはできて当然よ、目標は歩くことなんだから!

 まだ怖くて左足に体重がかかっているこの状態じゃ、歩行はできないもの。


 ゆっくりと体重移動して、少しずつ右足に重心を移動させてみる。不安はあるけど、目の前にバウディがいるんだから大丈夫。

 掴んだ手が少しもブレなくて、超安心する。


 両足に均等に体重をかけたけれど、義足と接するところに痛みがなくてほっとした。


「ふむふむ、ちぃと右が長いか。どれ、調整するから座ってくれ」


 ボンドに言われて、ゆっくりと椅子に戻る。



 そうして数回微調整をして、ぴったりの長さになった右足で一歩踏み出した。

 バウディのたくましい腕にがっちりと掴まり、足を動かす。


 最初の数歩は恐ろしかったけれど、それを過ぎれば右足首の少し癖のある動きも理解できてきて、補助を受けながらゆっくり歩くことができた。


 下半身の身体強化も短時間だったら問題ない。訓練で長くすることができるらしいので、今後の努力次第で、長時間の歩行も可能になるだろう。


「嬢ちゃん、飲み込みがいいのぉ。どうだ、不具合はないか?」


「足首がかくかくするのどうにかならないかしら? あと、つま先を少し上向きにできるかしら。下向きだと躓きそうになってしまうの」


「なるほどな、少し足首をしめよう、つま先も上に向けて、と」


 工具を取り出し、手早く足首のジョイントを調節し、つま先もあげてくれる。


「ほれ、これでどうじゃ?」


 バウディの手を借りて立ち上がり、ゆっくりと歩いてみる。随分違和感が減って歩きやすくなった。

 そう伝えれば、ボンドは嬉しそうにする。


「よし、じゃぁ一旦コレを持ち帰って仕上げをしてくる。なに、表面を加工するだけじゃ、そんなにかからんよ」


 今日から使えないことに肩を落としてがっかりした私に、彼は少し考えて「嬢ちゃんも来るか?」と聞いてきた。



 そりゃ、二つ返事でイエスよ!

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