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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
古代遺跡の宝冠事件

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第68話 怪しい宝冠

 ゼニシュタイン商会の融資部門にやってきた。

 普段は来ないところだな。


 結構繁盛しているようで、貴族の使いや、商人らしき人が庇の下に設けられた椅子に座り、順番を待っていた。

 なんとお茶とお茶請けも出るらしい。

 サービスがいい。


「こちらです」


 グロッサー氏に案内されて、私たちは彼らを横目に建物の中へ。

 お茶が気になるなあ。

 やっぱり紅茶かな……?


「この香りは、ワトサップ領とは別の側になる辺境で育っている茶葉ですわね。あそこは空に浮かぶ遺跡があって、自由に見学ができるところですのよ。遺跡の管理を担当している元冒険者の方がいらして、リス獣人のゼロ族の奥様がいらしてですね、わたくしもあそこで色々お世話になりましたの。そろそろお子さんが生まれた頃で」


「シャーロット、話がずれてる話が」


「あら、わたくしとしたことが。素晴らしい観光地だったもので」


「大事なのは紅茶でしょ。どういう香りで味かなんだから」


 私たちの会話を聞いていたグロッサー氏が、とても困った顔で、「あの、依頼を解決していただきたいんですが……!」と言う。

 私とシャーロット、ハッとする。

 いけないいけない。


 紅茶の香りはトリップしてしまう。


 建物の扉をくぐると、真正面はそのまま、中庭に抜ける通路。

 右手に融資のための施設があった。


 中庭には、職員たちの寮やグロッサー氏の社宅がある。

 さっそく案内され、そこでご夫人にお茶を淹れてもらった。


 ご夫人、グロッサー氏と夫婦喧嘩中らしくて、全く会話がない。


「ごゆっくり」


 と私たちに告げた後、グロッサー氏をちらっと見てから、ぷいっと顔を背けて行ってしまった。


「息子を憲兵に突き出してからああなのです。困ったものです」


「そりゃあ、ああなるでしょうねえ」


 私は納得しかない。

 息子を夫が逮捕させたんだから、妻として母として、怒りを感じるのは自然である。


 夫婦喧嘩はバスカーもきっと食べないし、放っておこう。


「では宝冠を見せてくださいませ」


 さすがのシャーロット、全く動じずに本題に入った。

 グロッサー氏は頷き、家の中に入る。

 シャーロットが当たり前みたいな顔をしてついていった。


 あっ、グロッサー氏と夫人が言い争っている声が聞こえる。

 そして少ししてから、シャーロットが宝冠を手にして戻ってきた。


「これですわね。なるほど、一部が欠けていますわ。宝冠のここに、何か大きなパーツがついていた跡がありますもの」


 宝冠の見た目は、冠と言うか、ヘルメットと言うか。

 中央に大きなくぼみがあって、そこに本来の部品がはまっていたのだろう。

 魔法がかかっているのか、宝冠の周囲に取り付けられたガラス玉みたいなものが、ピカピカと規則的に輝いている。


「確かにこれ、遺跡から発掘されたものだねえ。地上じゃなくて空から来る方の遺跡」


 この世界、ゼフィロシアでは、大昔に空から恐ろしいものが攻めてきたと言われている。

 当時の人間や亜人、そして魔王が協力してそれと戦い、ついに倒したのだそうだ。

 それ以降、人間と争っていた魔王は心を入れ替えて仲良くなり、今の時代へと続いている。


 その時空から来たものたちが、世界各地に点在する遺跡。

 シャーロットが観光したという遺跡もその一つだ。


「これを担保に融資……珍しいものだから分かる気はするけど……。私には価値は分からないなあ」


 このヘルメット、やたら大きくて、オーガの頭でも被れそう。

 なのに、とっても軽いのだ。

 何でできているんだろう?


 そして無くなってしまったという部品は、どんなものがはまってたんだろう。


 しばらくして、夫婦喧嘩からグロッサー氏が戻ってきた。

 髪の毛や襟元がぐしゃぐしゃになっている。


「お、お待たせしました。それが宝冠です。ご覧の通り大事な部品が欠けてしまい……」


「グロッサーさん、どういう部品がついていましたの?」


「はい、ここにこう、尖った槍の穂先のような。翼のような意匠がついていまして……今にも飛びそうな」


「ははあ」


 シャーロットが何か、理解したという顔になった。


「ありがとうございます。では憲兵所で、バロッサーさんに話を伺って来ますわ。それから、ガキーンさんという方、恐らくお顔はこれこれこういう顔立ちでは」


 シャーロットの説明を聞いて、グロッサー氏が呆然とする。


「た、確かにそうですが。お知り合いですか?」


「知り合いと言うか、ガキーンは賢者の館の職員がよく使う名前ですもの」


 偽名……?

 それに身近な施設の名前まで出てきた。


 どうやらシャーロットの中では、事件の全貌が見えて来ているらしい。


「シャーロット、どういうこと? もう大体見当はついてるんでしょう?」


 すると彼女は、いたずらっぽく微笑んだ。


「まだまだ。それを語るべき時ではありませんわよ? これはわたくしの閃きと知識が結びついただけの推測。推理として確定したら、お話しましょう」


 もったいぶるなあ。

 気になる……!


「さあジャネット様! 次は憲兵所。そして賢者の館ですわ! それに、きっとオーシレイ殿下にも出てきてもらわなくてはなりませんわよ。そこはジャネット様の出番ですわね!」


「私ってオーシレイ様の担当なの!?」


 あの王子、ちょいちょい苦手なんだけどなあ……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] クルミちゃんのところに赤ちゃんが! 過去作のキャラのその後がわかるなんて嬉しいです。
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