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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
魔道士の杖事件

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第60話 ビクトルの話

 お茶とお菓子を楽しみながら、ビクトルの話を聞くことになった。

 この場にいる私は、グチエルとビクトルを、シャーロットにつなげる役割だから、もう仕事は終わったと言えるんだけど。

 お茶とお菓子をいただくくらいはいいのではないか。


 美味しい。


「森の中で、川が近くに流れてたんですが、そこに屋敷がありまして。で、その中に魔法装置があったんです。そこでライザンバーに頼まれた通り、魔法装置を直してたんですがね。どうも直してて、おかしなことに気付いたんです。その魔法装置、ライザンバーが言うには川の水を綺麗にして飲めるようにするためのものだって言うんですが……。川から離して置いてあるし、とても人の手では動かせないしでおかしいなと」


「ふむふむ、王都の近郊に、そんなものがあったわけですわね」


 シャーロットがとても嬉しそうだ。

 人の厄介事は、シャーロットの喜び。

 余人には解決できないような事件を、快刀乱麻に解き明かすことに喜びを覚える系女子なのだ。


「ええ、そうです。その話をしたら、ライザンバーの顔色がみるみる変わりまして。『余計な詮索をするな』と怒ったので、俺は慌てて修理だけに集中したんですよね。で、そこにはライザンバーの奥さんもいたんですが、この人はいい人で、お昼とか夕食を御馳走になりまして。いやあ、美味かった。それから優しく労いの言葉をですね……」


 これを聞いていて、グチエルがぷくっと膨れた。

 おやおや?

 ビクトルが他の女性と親しくしているのが面白くないらしい。


 彼女は恋多き令嬢なのかも知れない。


「それで、奥さんが気になることを俺に言ったんです。『悪いことは言わないから、適当に直したらすぐに出ていった方がいい。ここは危険なところだし、夫も、彼の仕事仲間も深く関わってはいけない人だ』なんて言うんですよね。いや、もう、憂いを帯びた表情がですね」


 グチエルが、ビクトルの頭をペチッと叩いた。


「いたい! なんすかグチエル様!」


「なーにが『いや、もう、憂いを帯びた表情がですね』よ! そのまま森の中で暮らしてればよかったじゃない!!」


「ええ、俺そんないやらしい物の言い方してました!?」


 似てる似てる。

 グチエルはちょっと下品な男性のモノマネが得意、と。

 覚えておかなくちゃ。


 シャーロットは、ビクトルの話で事件に関わりそうなところを興味深げに聞いた後、先を促した。


「オチがあるのでしょう? 最後までどうぞ」


「あ、はい。それで魔法装置の修理があらかた終わりまして。んで、ライザンバーが泊まっていけというので、俺も奥さんと離れ難かったので泊まって、ワンチャンスあるかなーって」


「クソわよ」


「いたい! グチエル様テーブルの下で蹴るのやめてください! 確かに俺が悪かったんで!! それで、泊まってて、奥さんのところに夜這いをかけようと思ってですね、いたい! いたいいたい! 蹴るのやめてもらっていいですか!」


 私はグチエルを羽交い締めにした。


「ステイステイ。グチエル、料理は後でできるから、今は泳がせておこうね」


「ふーっ、ふーっ」


「そうしたら、俺の部屋にやって来ようとするライザンバーと鉢合わせまして。あいつ、手に斧を持ってるんですよ。こんな夜に薪割りですか、って聞いたら『これは目撃者の頭をかち割るための斧だ』とか言って襲いかかってきて……! 俺はそこで、必死になって逃げたんですよ。窓から飛び降りて、ああ、二階だったんで腕とか背中とか打って凄く痛かったんですが、もう、逃げました。そして魔道士の杖を忘れてきたことに気付きまして……。だけど怖くて、戻るに戻れないし」


「なるほどですわね。これはつまり、魔道士の杖を取り戻す手伝いをして欲しいと、そういうことですわね?」


「そうです! 俺ははめられたんですよ!」


「確かにはめられましたわね。あなた、女性関係で騙されやすくありません? 今まで何度も騙されて、痛い目を見てきたことありますでしょう?」


「えっ!? なんで分かるんですか!?」


 これはシャーロットならぬ、私にも分かるぞ。

 そして、この話をビクトルが憲兵隊に話さなかったのも理解できる。

 人前で自分の下心を話してしまうような彼だ。

 絶対にいらんことを言うだろう。

 それが自分でも分かってるのではないか。


「ねえシャーロット、どうするの?」


「そうですわね。情報がちょっと欠けてますわ。ねえビクトル。あなた、ライザンバーに殺されそうになったということですけど。何か、彼が見られては困るものを目撃して、バカ正直にその話を報告したのではなくって?」


 シャーロットの言葉を聞いて、ビクトルがハッとした。


「ああ、そう言えば……!! 金色の粉みたいなもんが装置の中にあったんですけど、それがみるみる黒い色になりまして」


「なるほど。ちょうどわたくし、それに近い事件の話を耳にしていましたの。情報も少なくて、どう動いたものかと思っていたのですけれど……」


 シャーロットが立ち上がった。

 行動開始というわけだ。


「さあ参りますわよ! 今回は、ビクトルとグチエルの二人もついていらっしゃいな!」


「ええっ!? わ、私もですかあ!?」


 シャーロットの宣言に、グチエルが悲鳴をあげるのだった。

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