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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
ローグ伯爵家跡の魔犬事件

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第29話 実行犯はお前だ

『ばふ! わふわふ!』


「ウグワーッ! おたすけーっ!」


 下町の家の一つに突っ込んでいったバスカーが、男を一人引きずり出してきた。

 痩せてひょろりとした、頭のちょっと薄くなった男だ。


「お手柄ね、バスカー」


 馬車から降りて彼の頭を撫でると、『わふわふ』と元気に鳴いた。


「な、なんだよあんたら……。俺が何をしたっていうんだ! 俺は何もしてねえぞ!!」


 質問をする前から、語るに落ちる男。

 本当に何もしていない人間は、何もしていないなんて言わないものだ。


「こちらはもう証拠を掴んでるの。白状なさいな。ゼニシュタイン商会の番頭モークに雇われて、ローグ邸前で人を殺したでしょう」


「そ、そ、そんな証拠なんてどこにも……!!」


 しらばっくれる。


「お嬢、ちょっとこいつが素直になるように痛めつけましょうか」


「だめよナイツ。拷問で引き出した情報は信用できないわ」


「ごごごごご拷問」


 男がガタガタ震えだした。

 こんなやり取りをしている間、シャーロットは男の家の中に入り込み、ふむふむ、なんて頷きながら調べて回っている。


「ああ、失礼いたしますわよ」


 ひょこっと男の家から顔を出すシャーロット。


「あなた、奥様がお子さんを連れて出ていったのは結構前のことでして?」


 男の目がまん丸に見開かれた。

 息が止まった。

 それくらい、彼はびっくりしたようだ。


「ど……どうしてそれを……」


「あなた以外の方が生活した痕跡がありますわ。それから子どもの靴がありましてよ。それからここに、家財道具に封印が施されていた跡が。借金を負われて、それで離婚なさったのですね。あなたは借金を返して奥様とよりを戻すために、犯罪に手を染めた……」


「ひぃー」


 男の喉から細い悲鳴が上がった。

 どうやら全部図星らしい。

 彼の心が折れたのが分かる。


「ぜ……全部やりました」


 白状した。

 シャーロットはうんうん、と頷いてから、すぐさま馬車に乗り込む。


「何をしていますの? 彼を連れてゼニシュタイン商会に行きますわよ。証拠は押さえましたもの。ほら、これ」


 シャーロットがひらひらとさせているのは、ゼニシュタイン商会の印が押された封筒だ。

 これに金を入れて男に渡したのだろう。

 もっと秘密裏に報酬を手渡すとかすればいいのに……。


 私がその疑問を口にすると、シャーロットは片方の眉を上げて答えた。


「それはできませんわ。彼への報酬は、違った形でゼニシュタイン商会の経理に計上されているのですわね。商会の袋一つに至るまで完全に在庫管理されているからこそ、彼らは王都で一番の商人になったのですわ。その番頭たるものが、経理を誤魔化すことなどできませんでしょう?」


「なるほど……。確かに、ゼニシュタイン商会ならありえそう」


「でしょう? ああ、それから……ちょっと、そこのあなた!」


 シャーロットが道行く子どもに声を掛けた。

 少年だ。


「なんだい? あっ! こりゃどうもシャーロットさん!」


「ええお久しぶり。また働いてもらいますわよ。お駄賃を上げるから、憲兵所までひとっ走りしてくれませんかしら? これからわたくしが、ローグ邸の殺人事件を解決するから、すぐにゼニシュタイン商会まで来てくれって」


「へえ!! また新しい事件を解決するのかい!? すげえなあ、さすがだなあ。えっ、ということはそこにいる凄いべっぴんさんがジャネットさん……? ふえええ」


「見惚れない! 早くお行きなさいな」


 少年に銀貨を握らせるシャーロット。

 少年は銀貨を噛んで本物だと確かめると、ヘヘッと笑った。


「分かったぜ! 俺もこれで、事件を解決した仲間の一人だなー!」


 そんなことを言いながら走っていってしまった。

 後から、何人かの少年が飛び出してきて、わあわあ言いながら続く。


「彼らは知り合いなの?」


「わたくし一人では、できることも限られますもの。ストリートチルドレンにお駄賃を上げて、色々仕事を手伝ってもらっているのですわ」


 なるほど、シャーロットにそんな顔があったとは。

 さながら彼らは、下町遊撃隊といったところだろうか。

 そのうち、私も彼らと顔を合わせる機会があるかも知れない。


 ところで彼ら、バスカーに驚かなかったな?

 もしかして下町は、ああいうとんでもないのが時々出たりするんだろうか……。


 さて、ゼニシュタイン商会前に到着すると、バスカー出現にみんなパニックになった。

 おちおちこの子を散歩もさせられないな、これは。

 王都の住人には慣れてもらわないと。


「番頭のモークさんはいますか? 彼とこの封筒のことで聞きたいことがあると伝えてもらえれば」


「は、はい」


 ぶるぶる震える店員の人にお願いする。

 彼はすごい速さで店の中に駆け込んでいった。


 しばらく時間が過ぎる。

 店の奥では、わあわあと声がして、バタバタと走り回る音も聞こえてくる。


「これは……」


「逃げましたわね」


 私とシャーロットは顔を見合わせた。


「よし! バスカー、ゴー! 封筒についたにおいは覚えた? じゃあ、そのにおいの主を追って!」


『わふーん!』


 勢い良く、バスカーが走り出した。

 なんと商会の屋根に駆け上がり、建物を乗り越えて裏手に回っていく。


「追って、ナイツ!」


「よしきた!」


 馬車もバスカーを追って動き出す。

 さあ、真犯人。

 もう逃げ場は無いぞ。

 

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