第239話 恋多きご令嬢の本当の恋
思い立ったが吉日と言う言葉があって、これは異世界から来た勇者が広めた言葉らしい。
確かに、ぱっと思った瞬間に行動するのが、一番早いもんね。
そう言うわけで、私とシャーロットとミニマリスさんは馬車に揺られ、コイオーキ伯爵家へ!
途中で我が家に寄り、ナイツを借りてきた。
訓練を付けてる最中だった彼はぶーぶー言ってたから、後で埋め合わせをしてあげなくちゃね。
「お酒でいい?」
「今日の訓練なくなった連中の分も酒代奢って下さいや!」
「うーん……まあいいでしょう……」
「あ、私が出しますので」
おっと、ミニマリスさんに気を使わせちゃったな。
質実剛健を旨とする我がワトサップ辺境伯家は、不要不急の出費はいい顔をされないのだ。
「いいえ、これは辺境伯家から他の家の騎士たちへの差し入れみたいなものだから。大丈夫大丈夫」
「そうですか……?」
ちょっと見栄を張らせなさい。
こうして到着したコイオーキ伯爵家。
屋敷の入口を守っていた兵士は、ナイツの姿を見たら直立不動になっちゃった。
あ、彼らってうちに習いに来てる人たちだよね?
私が馬車から降りて手を振ったら、彼らも引きつった笑顔で手を振り返してくるのだった。
さて、お通し願おうか。
私が先頭を歩く。
「突然押しかける無作法をお許しくださいな。ワトサップ辺境伯家の名代、ジャネットです。私の朋友であるミニマリス様のお屋敷を買い取るに当たって、無理難題を吹っかけておられたようで、その解決に参りました。伯爵にお伝え下さい」
私の話を聞いて、門番が「は、は、はいっ!!」と飛び上がって返事をした。
なんか妙に怖がってないか?
「シャーロット様とお嬢が並んで訪ねてきて、震え上がらないヤツなんざこの国にいませんよ。ご自分の名前がどういう形で轟いているか、多少は耳に入れておいた方がいいですぜ?」
「ナイツうるさい」
コイオーキ伯爵家からは、家令らしき初老の人が慌てて飛び出してきた。
「ど、どうぞこちらへ! 主が待っております!」
こうして私たちは、応接の間へと通されるのだった。
もう、ミニマリスさんは気の毒なくらいもじもじしている。
平民がこういう環境に居合わせるって、一生に一度も無かったりするものね。
そこでは、コイオーキ伯爵とそのご令嬢のラブリナさんがかしこまった様子で立っておられたのだった。
座ってていいのに。
「な、な、なんのご用事でしょうかな!?」
「先程、使いの方に伝えたとおりですけど……詳しくは、こちらのラムズ公爵令嬢からお話しますね」
「承りましたわ、ジャネット様! では……本件が丸く解決しましたことを、わたくしがここでお伝えいたします」
ここまで一言も発していなかったシャーロット。
自分の出番が来たと知るや否や、最前線に歩み出た。
そして手にしたカバンから、例の劇脚本を取り出したのだ。
「そ、それは!」
ラブリナ嬢が目を丸くする。
それに対して、コイオーキ伯爵が顔をしかめた。
「やはりあったか……!!」
「お父様?」
ラブリナ嬢が首を傾げた。
どうやら彼女、事情が理解できていないみたい。
「どういうこと?」
私もちょっと混乱したので、シャーロットに聞いてみた。
彼女は「推理によって導き出された真相を語る時ですわね?」と嬉しそうに告げるのだ。
「まず、ラブリナ様。ご婚約おめでとうございます」
「あっ! あ、ありがとうございます、ラムズ公爵令嬢」
シャーロットとラブリナ嬢がお互いに会釈する。
えーっ!?
ど、どういうこと!?
これにはミニマリスさんも驚いている。
コイオーキ伯爵は別の意味で驚いてるのね。
「な、な、なぜ! なぜその事が!? まだどこにも伝えていないというのに!」
「それはですわね。もともとラブリナ様はあちこちでプラトニックなロマンスをなさる事は社交界ではとても有名。知らない者はおりませんわ。ですけれど、この脚本……。これはやはり、ラブリナ様を題材にした恋の物語が描かれたもの。いえいえ。ちょっと伝え聞くお話とは違うような……」
「はい……」
ラブリナ嬢が頷いた。
「私が本当に、お慕いした方のお話なのです。ミニマリスさんが興味を持たれて、書いてくださったものなのですけれど……」
なるほどなるほど!
鈍感な私にも掴めてしまった。
つまりこれは、ラブリナ嬢の、フリではない本当の恋愛が描かれた脚本ということになる。
で、これの存在を伯爵は聞いていたということだろう。
まだ婚約の話が来る前だから、そこまで危機感を抱いていなかった。
「発表されるものでもないということで、わしは気にしていなかったのです。だが……ラブリナがいよいよ、婚約することになった。そうなれば、万一娘が本当の恋をしたなどと書かれた劇が始まれば、良くないことになる。双方の家の恥にもなろう」
「なるほどなるほど」
私は納得。
家の体面もだけど、娘の今後を考えた時、脚本の存在は危険だということになったのだろう。
「ですからこの脚本は、皆様が見ている前で燃やしてしまうのはいかが?」
シャーロットが告げるのは、誰もわだかまりが残らない解決方法だ。
私もミニマリスさんも、今後はこの件に触れない。
コイオーキ伯爵家は無事に、ラブリナ嬢の婚約を発表することができ……。
お屋敷の中庭にて、燃え上がる脚本を眺めて、一件落着となった。
私とシャーロットは後日、とある劇に招待されたのだった。
ミニマリスさんが書いた新作の劇だ。
そこでは、とあるご令嬢が襲撃されることから物語が始まる。
彼女は襲撃者を退けた後、その素性を言い当ててから自分が巻き込まれた事件の解決に乗り出す……!
豪傑令嬢の冒険というタイトルの……。
「これって、私とシャーロットを合わせたやつじゃない!?」
「そうなりますわね? そう言えばわたくしたちの事については、口止めしておりませんでしたし」
「そっか、そう言えば……。ミニマリスさん、常にネタを探し求める劇作家の鑑!」
なお、演劇はとっても面白かったのだった。




