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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
恋多き夫人の陰謀事件

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お屋敷を買い取ります

 扉を開き、依頼人を招き入れる。

 その人物は人の良さそうなおじさんで、貴族関係者……という感じの見た目ではなかった。

 身なりはいいんだけどね。

 身のこなしが上流階級のそれではない。


「あの、私はミニマリスと申しまして」


「ええ、今エルフェンバインで話題の演劇、ダンシャリの恋の脚本家、ミニマリス様ですわね?」


「ええ、はい! 名乗っただけで分かるのですか? いや、その、実は」


「存じ上げていますわ。あなたはそのミニマリス様御本人ではいらっしゃいませんわね。ですが、それなりに近しい立場。そうですわね……ミニマリスさんの御兄弟」


「正解です! 流石はシャーロット様、素晴らしい推理です」


 こくこく頷くおじさんなのだった。

 ダンシャリの恋というのは、多くの物で囲まれた宮殿に暮らすダンシャリ男爵が、とある魔女に恋をする。

 魔女は、余計なものに囲まれた男の愛は受け止められないと答える。

 そこでダンシャリ男爵は家にある雑多な物を捨てることにするのだが……。


 ごちゃごちゃと積み上がっているだけに見えた、全ての物品に思い出があり、物語があり……。

 一つ一つを手に取りながらそれを思い出しながら、捨てていく男爵。

 そしてどうしても捨てられないものだけが残り、魔女がやって来てそれこそがあなたを作る最も大事なものなのです、と告げて二人は結ばれて終わるみたいな劇だ。


 お陰で、王都は空前のお片付けブーム!!

 というか、演劇が非常に流行っている。


 先日のサントン氏がやられた詐欺も、この演劇ブームに乗っかった犯罪者が役者を名乗った事件だった。

 で、今回はその演劇の脚本家からの依頼っと。


「よくご存知のように、ミニマリスは己の身の回りのことをテーマにしてから膨らませ、劇の脚本を作ります」


「そうなの? 知らなかった」


「そうなのですわよ。ミニマリス様はごく身近なテーマから恋物語や悲恋物へと発展させ、感動的な物語を作る天才なのですわ」


「シャーロットハマってるなー」


「ジャネット様が英雄物語にばかり興味があるのがちょっと変わっているのだと思いますけれど」


 幼い頃に聞かされたのがそういうのばっかりだったからなあ。


「それで、ミニマリスは現在片付けに凝っておりまして。これをテーマに描かれたのがダンシャリの恋なのです。この魔女や男爵のモデルとなった方々とも交友があり、彼らとパーティを開いていた別荘があったのですが、これを売却することになりまして」


「ふんふん。お屋敷を売るところだったのね」


「それが買い手がついたのですが、中の物を捨てずにそのまま全て明け渡せ、という話になり、さもなくば買い取りの話はなかったことにする! と言われてしまったのです」


「ほえー! 買い取りがなくなっちゃうと困るわけ?」


「困ります! ここまで色々準備をして、買取金を担保にして次の屋敷の建築も始まっていたので……。我が一族のお金がなくなってしまいます」


 なーるほど。

 それは一大事かも知れない。


 つまりは、買い取りがほぼ決定していて、支払われるお金までが分かっていた。

 それが突然ひっくり返すぞ、となったわけだ。


「ミニマリスと一族で、慌てて捨てようとしていた物を集めているのですが……。ですがこの中には、ミニマリスの原稿の草稿もあり、これは次回の芝居に使われるものなので渡すわけには行かず……。買い手は一切、捨てることはまかりならず、持ち出すことも許さぬと」


「急に意固地になったわけね。シャーロット、これはどう思う?」


「理由がありますわね。まだ、情報が集まりきっていませんわ。わたくしの頭の中でおおよその事件のイメージは固まってきましたけれども」


「事件?」


 家の売買で、買い手がごね始めただけの話なのではないだろうか?


「事件ですわ。先程のイーブンが暴れこんできた件があるでしょう? あそこで彼はどこの家の名を口に出しました?」


「あ、なーるほど。解決された困るあの家がバックに居る案件ってわけなんだ」


 完全に理解した。


「じゃあシャーロット、行くしかないんじゃない?」


「ええ、その通りですわね! ご依頼人、案内をよろしくお願いしますわ!」


 こうして私とシャーロットは馬車の中に。

 エルフェンバインの外れにある、ミニマリスの別荘にやって来たのだった。


 なるほど、風光明媚なところだ。

 周囲の林はよく手入れされており、あくまで自然に見せかけられた人工林だ。

 小川が流れているけれど、これは運河を作っての支流。


 周りの花畑だってそう。

 何もかもが、このあたりの見栄えをよくするために作られたものだ。


「別荘地って、贅沢なものね。ここにあるもので、実際の役に立つものって何もないのに」


「ええ。ただ、見るものの心に栄養を与えるだけの光景ですわね。お片付けで様々なものを捨てようという方が住んでいらっしゃる場所が、無駄を愛するために作られた土地だなんて。皮肉ですわね」


 ほんとに!

 こうして馬車を降り、私たちは今まさに売られんとする、ミニマリス邸へ!

 おやおや、家の外に、荷物がまとめられて置いてある。


 これを丸ごと引き取りたいだなんて、買い手は一体何を考えているんだか。

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