山の上の真実と襲撃
風の巫女リュミスと、集落の民たちに歓迎されたのだった。
「集落の者たちは、貴族の令嬢が来るということで、どんな無理難題をおっしゃる方なのかと戦々恐々としていたようです」
「まあ!」
私が驚いてみせると、その場に集まった集落の人々が恐縮した。
リュミスと私、顔を見合わせて笑う。
「私が、ジャネット様は風の噂に、とても気さくなお方だと聞こえてきますと伝えているのですけど」
「偉大な方であるとも存じ上げております! 優秀な騎士や兵士たちを指揮し、自ら前線に立たれると!」
カタブツナ男爵が、見た目通りの実直な物言いをする。
なるほど、あなたは私の武門での活躍を尊敬してるのね。
「ありがとう、カタブツナ男爵。辺境を蛮族たちから守るには、甘えは捨てなければいけないもの。男だ女だと、そんなことは関係ないわ。男爵も辺境の恐ろしさを体験したいなら、私からお父様に紹介状を書くけれど」
「ほ、本当ですか!?」
あっ!
食いついてきた!
この人、強さとかへの憧れがある殿方なのだなあ。
「男爵、辺境は遊びじゃないですぜ? 腕の一本なくすくらいの覚悟はされたほうがいいですなあ」
ナイツが口を挟んできて、カタブツナ男爵はさらに目をキラキラさせた。
すると、風の巫女リュミスが男爵の腕を引っ張るのだ。
「なりません。あなたが勝手に大怪我をするのは許しません」
「あ、いや、まあ……」
歯切れが悪くなる男爵。
おやおや、これは……!!
「ね?」
ここまで黙っていたシャーロットが、目配せしてきた。
彼女がこの仕事を受けた理由、これだな?
リュミスとカタブツナ男爵が、そういう関係なのを知っていたのだ。
なるほどなるほど、それは結構なこと。
だけど、今はウワキノス男爵が集落に着せた恩を笠に着て、リュミスとの婚約を進めようとしていると。
貴族社会は契約の社会だからね。
自由な恋愛からの結婚なんて許されないものなのだ。
あー、コイニキールとの一件を思い出す。
でもまあ、たまには恋愛を応援してあげてもいいよね。
「お二人の馴れ初めはどうだったの?」
「ええと、あの、男爵が集落の近くまで狩りに来られた時に、休憩のために立ち寄られて」
「風の集落はとてもいいところです! 人々は優しく、気持ちの良い風が吹き、作物は美味しい。リュミスもいる」
「まあ」
なんか見つめ合ってるし!
この二人、完全にそんな感じだったのに、そこに横恋慕したというか下半身で物を考えているウワキノス男爵が割り込んでいったってわけね。
人の恋路を邪魔しちゃあいけないなあ!
私、やる気がもりもりと湧いてきたぞ。
「じゃあちょっと調べに行かなくちゃね。シャーロットからすると、ウワキノス男爵は何か仕組んで今回の洪水を引き起こしたっていうんでしょ?」
「洪水そのものは自然現象と思いますが、想定以上の被害が出た影にはなにかあるということですわね」
「それじゃあ……見に行くしかないよね」
「ありませんわねえ」
「やっぱり、俺が護衛なんでしょう?」
「当然!」
ナイツを連れて、私とシャーロットは川上に向かうのだった。
この先は、被害の後はとても危険な状態になっているらしい。
あっ、なんか塀みたいなのが作られてるんだけど。
土が盛られていて、そこから木の枝を尖らせたものが幾つも覗いている。
ちょっと近づくのを躊躇しちゃう外見だよねえ……。
「ふむふむ……ふーむふむ」
シャーロットが躊躇なく近づき、盛られた土をペタペタしたり、近くの枝で掘り返したり。
「相変わらず恐れというものを知らない人だなあ!」
私は感心してしまった。
調査はシャーロットにお任せしちゃおうかな。
素人である私が、現場を荒らしてしまったらシャーロットの調査の邪魔になるかも知れない。
ここは何もしないのが一番いいのだ。
やるとすれば……。
水面を眺めたり、周囲の木々を眺めたり……。
おや?
何もいないはずなのに、風も無いのに、木々がザワッと揺れたぞ。
水面がパシャンと跳ねた。
「ナイツ!」
「おう! 見えない何かがいるな!? シャーロット様! 頭下げてくださいよ!」
「あらあら!」
慌ててしゃがむシャーロット。
その頭上を剣で薙いだナイツは、「手応えあり!」と叫んだ。
肉を打つ音がする。
『ウグワーッ!!』
何者かがうめき声をあげ、水面をばしゃばしゃ歩く。
これは後退ったのだな。
「水面に立ってる限り、丸見えと一緒だぜ! おらぁ!!」
振り返りざまの一撃で、ナイツは見えない相手を切り捨てたようだった。
一撃目はあえて剣の腹で殴ったわけね。
透明な布みたいなのがはらりと落ちると、そこには革鎧を着た男が立っていた。
袈裟懸けに叩き切られて、彼はそのままばったりと倒れ伏した。
手にはぬらぬらと怪しく輝くナイフが握られている。
うわーっ、口封じ用だ!!
これはクロ確定でしょ!
「わたくし、調査に夢中になっていましたわ! 危なかったですわねえ……。うーん、わたくしもまだまだ」
「そこはお互いの得意分野で補い合ったってことで、いいじゃない。それよりシャーロット、見つけた? 証拠!」
「ええ、もちろん!」
彼女はウィンクしてくるのだった。




