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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
思わぬ婚約破棄事件

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風の集落と二人の男爵

「じゃあ風の集落に行ってみよう!」


 私は決断した。


「ジャネット様ったら、こう言う時に迷わないから好きですわねー」


 シャーロットもニコニコ。

 ナイツに御者をしてもらいつつ、馬車を走らせる。


 風の里までは、片道三日ほど。

 私が決断したと同時に、メイドたちが旅立ちの準備をしているから何の心配もない。


 うちの使用人たちは訓練されているのだ!

 本当に助かるなあ。


 こうして宿場町と集落を中継しながら、私達は一路、風の集落へ。

 見えてきたのは、山奥の素朴な家々。


 どこまで風が吹き抜ける大平原にその集落はあった。

 確か、災害があったと聞いたけれど……。


「あれですわ、ジャネット様。近くを流れていた川が氾濫しましたの。集落で育てていた作物がやられてしまい、そこで二人の男爵が援助を申し出たのですわ」


「なるほどなるほど……」


 畑らしきところが、実りの季節だと言うのに何の作物もない。

 川の氾濫のお陰で、機を逸してしまったのだ。


「おやおや。こんな辺境まで馬車でやってくる貴族がいるとは、どなたですかな?」


 嫌味な感じの声が聞こえる。

 あれがウワキノス男爵だな?


「お嬢、ぶっ飛ばしても?」


「だーめ」


 ナイツを止めて、私は馬車から降りる。


「風の集落の現状を伺って、王都から参りました。ワトサップ辺境伯の名代、ジャネットですわ」


 降り立った私の眼の前には、幾人かの伴を従えた長身の男がいた。

 ワシの嘴のような高く尖った鼻で、一重の目はつり上がって酷薄な印象。

 薄い唇には笑みをたたえていたのが、私が名乗った瞬間、スーッと顔色が青くなった。


「し、し、失礼いたしました! ウワキノス男爵と申します」


「ええ、お噂はかねがね。集落が受けた被害の状況はどうなのですか? もう回復しているようですけれど」


「ああ、それはもう。私めの援助によって、集落は被害から立ち直りつつありますから。しかし恐ろしい災害でした。山から流れてくるシルフィード川が、降り注いだ雨で増量して、突如恐ろしい流れで集落を襲い……」


「まあ、恐ろしい災害だったのですね……」


 芝居がかった仕草で語るウワキノス男爵。

 私は、彼の表情から何かを読み取ることはできないな。

 演技が上手いタイプだと思う。


 後から降りてくるシャーロット。

 彼女に任せるとしよう。


「ふむ、おかしな話ですね。豪雨が川の水量を増したとして、かの川はある程度のコントロールをされているように見えますわ。畑に水が引かれ、増水を防ぐように水の逃げ道も作られている……。それに、強い雨がこのあたりに降り注いだ跡はありませんわね」


「何の証拠があってそんなことを? 君は誰だね?」


 自分の演説に水をさされたウワキノス男爵が鼻白む。


「ラムズ侯爵家に籍をおいております、シャーロットと申しますわ」


 彼女が名乗った瞬間、またウワキノス男爵の顔色が白くなった。


「し、失礼します! 私は忙しいものでね!! そら、お前たち、行くぞ!!」


 伴の者たちを連れて、去っていくウワキノス男爵。

 まあ、シャーロットの名前を知らないエルフェンバイン貴族なんかいないものね。


 かつての私みたいな世間知らずくらいじゃないかな。


 どんな難解な事件も、快刀乱麻で解決する、推理令嬢シャーロット。

 彼女が風の集落にやって来た意味を、ウワキノスは感じ取ったに違いない。


「あの野郎、なにか企んでますねえ」


「それは私も分かるけど、まだ何もされてないのに手出ししたらダメよナイツ? 弱いものいじめになっちゃう」


「そいつはその通りですな」


「お二人とも。わたくしたちはここで、巫女の方とカタブツナ男爵ともお会いせねばなりませんわ。まあ、会わずに解決することも可能ですけれど……」


「もしかしてシャーロット、もうこの事件の種が割れてる……?」


「それはまだ語るべき時ではありませんわね」


 にっこり微笑むシャーロットなのだった。

 やっぱり分かってるんだ!


「では一つだけヒントを。大雨に晒された土地は、植生が変わりますの。多くの水を得ることで、氾濫の外にあった草木も枝ぶりが異なっていたり、平時よりも大きく伸びていたり……。ですけど、その様子はありませんわね。氾濫があった場所だけ、草花がなぎ倒され、木々の根本がえぐられた跡がありますわ」


 つまり……。

 雨はふらず、氾濫だけがあった。

 山に大雨が降って川が増水したとしても、集落には氾濫を軽減する仕掛けがあったわけだ。


 それが間に合わないほどの水が一気に流れ込んだということは……?


 シャーロットがふふふふふ、と笑っている。

 なんだなんだ。

 早く話してほしいなあ!


「まあまあ。お二人に会いに参りましょう?」


 私達は集落の中に進んでいく。

 途中、中年の男性が駆け寄ってきて、シャーロットと何か話をしていたようだった。


「ではよろしくお願いします、シャーロット様」


「ええ。依頼を受けた以上、しっかりと果たして差し上げますわ」


 依頼人の手の人かな。

 というか、誰が依頼人なんだろう?

 風の巫女の血筋が、ウワキノス家と交わると困るような立場の人と言うと……。

 誰だろうなあ。


「ワトサップ辺境伯令嬢ジャネット様。ラムズ侯爵令嬢シャーロット様ですね」


 そこに、声がした。

 白い衣を纏った、ブラウンの髪の女性がこちらに近づいてくる。

 隣には、いかつい顔つきの大男。


「当代の風の巫女、リュミスにございます。風がお二人の事を伝えてくれました。風の集落はお二人を歓迎いたします」


 彼女の婚約破棄を手伝うのが、この仕事の目的というわけだ。

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