推理令嬢はサウナで依頼を受ける
エルフェンバインにサウナができた。
サウナというのは、アルマース帝国由来の蒸し風呂のことで、蒸気の中でたらりたらりと汗をかくもの。
「むっとするー」
「サウナとは暑いものですわよ? もう少し我慢しましょう。しっかり汗をかいてから外に出ると本当に気持ちいいですわよ」
「シャーロットは既に常連みたい。何度も来てたりする?」
「それはもう」
彼女、何気に新しいもの好きではあるんだよな。
私が保守的なだけかも知れないが。
でも、自分からは動かない私を彼女が引っ張ってくれて、様々なことを体験させてくれる。
これはとてもありがたいことだと思っている。
「それはそうと、暑すぎるう! 私、寒いのは平気でも暑いのはちょっと……! 先に出るわね!!」
席から立ち上がり、サウナの外に向かう。
そうしたら、私と入れ違いに入ってきた女性がシャーロットに何か話しかけているのだった。
なんだなんだ?
サウナの外は普通のお風呂。
ここで汗を流し、垢すりなどをしてもらい……。
ああ~。
至上の快楽かも知れない。
いつもなら暑いはずの浴場がとても涼しく感じる……。
「ジャネット様が撫でられている猫みたいな声を出していますわねえ」
「シャーロット! いつの間に来たの?」
「ついさっきですわ」
うつ伏せに寝そべって垢すりしてもらってる私に倣い、シャーロットも横たわった。
「実は、依頼を受けたんですの」
「えーっ、サウナで!?」
「サウナならひと目は限られますもの。一番安全な場所ですわ」
「そうかなあ……そうかも」
男性は入ってこれないし、サウナ室は狭いから一度に数人しか入れない。
何より、この大浴場は貴族御用達なので、立場がしっかりとした人間しか入れないのだ。
「じゃあさっきの女性は知っている人?」
「ええ。ですが、人前であの方の素性を口にするわけには参りませんわね。周りの耳がないところでお伝えしますわ」
そっか、ここは他にも人がいる大浴場だし、垢すりの人もいるし。
なお、私は現在の状況が大変心地よく、うたた寝をしてしまったのだった。
「ジャネット様、ジャネット様!」
「あ、ごめん。寝てた……! この気持ちよさはハマるわね、サウナ。暑さのあとの開放感と、垢すりしたもらったあとのスッキリ感はハマっちゃうかも」
「殿方の垢すりはもっと力強いものだそうですけれど、こちらでは女性の肌に気を使った新しいやり方が行われていますからね。心地よくなってしまうのは分かりますわ……。あ、わたくしは紅茶をたくさん飲んだ後なので目が冴えてますの」
それで寝なかったのね。
シャーロットとともに大浴場を出て、帰宅する。
我が家ならば、安全安心。
「それでシャーロット。依頼って?」
「ええ、ジャネット様。四大精霊王の話になるのですけれども」
「はいはい。ゼニシュタイン商会絡みであった、精霊女王のフィギュアの話があったものね」
「ええ、ええ。正しくは、精霊女王は土のレイアのみ。風のゼフィロスはこの世界、ゼフィロシアのもととなっている主神ですわね。そして火のアータルと、水のオケアノス」
知ってる知ってる。
そもそも、世界の成り立ちについては幼い頃に聞かされる。
そこに必ず現れるのが四大精霊王なんだから。
「そして、それぞれの精霊王には巫女が存在しますの」
「ふんふん」
そういうおとぎ話も有名だね。
「今回は、風の巫女の方がとある貴族に輿入れすることになったのですが、その貴族に悪い噂があるという話で……」
「ちょっと待って!? 精霊王の巫女って実在したの!?」
「ええ、実在しますわよ?」
きょとんとするシャーロット。
存在していたのか……。
おとぎ話だとばかり思っていた。
「それで、悪い噂の貴族がどうしたの?」
「彼は風の巫女が所属する集落に資金的援助をしていましたの。その見返りに巫女を妻にしようとしているわけですわね」
よくある話だ。
借金のかたに、娘を要求するとかそういう系統の。
あまり気持ちの良いものではないが、個人間の問題に踏み込むのはよくない。
それがどうしてシャーロットに依頼を?
「実は、集落に援助をしていた貴族は二人いましたの。片方は、女泣かせで名を知られるウワキノス男爵」
「あー、知ってるわ! あちこちで浮名を流してる男ね」
「ええ。そしてもう片方は、カタブツナ男爵」
「あー、知ってる。実直でいい人よね」
「ウワキノス男爵が風の巫女と婚約したのですわ」
「えーっ!! それってなんていうか、とっても嫌な話ね……!」
なんか分かってしまった。
「私が推理するに……」
「あら、ジャネット様の推理! ぜひ聞かせて下さいませ!」
「だってこれだけ情報が揃ったら、私だって分かるわ! ウワキノス男爵も、カタブツナ男爵も風の巫女さんが好きなのでしょう? そしてウワキノス男爵が先に求婚してしまい、婚約が成立してしまった!」
「ご明答!」
パチパチと拍手するシャーロット。
ちょっと気分がいいぞ。
「じゃあもしかして依頼っていうのは……」
「ええ。風の巫女の集落がどうして貴族の援助を必要としたのか。それは彼らの集落にある災害が起こったからです。復興のために多くの金銭が動いたのですわ。そこで、二人の男爵は風の巫女を見初めた……。これは、カタブツナ男爵からのご依頼ですの。婚約破棄のね」
「婚約破棄!!」
私にも無縁じゃないやつだぞ!!




