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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
王都の吸血鬼事件

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愛ゆえの?

「まず、推理の結果をお話する前に前提として。吸血鬼は存在しませんわ。あれはあくまでお話の中だけの存在だと理解してくださいませ」


 シャーロットが語り始めた。

 この場には、バイセップ男爵と夫人、そして侍女たちがいる。


 ご夫人は久しぶりに、奥の部屋から出てきたみたい。


「あ、ああ。巷で話題になっている吸血鬼の話だろう? そんなものがいてたまるか」


 バイセップ男爵が頷いた。

 それはそうだ。

 私はリアリストなので、お話はお話、現実は現実だと理解している。

 吸血鬼なんていう意味のわからないもの、いるわけがない。


「まあ、ジャネット様の領地では似たような伝説はあるかも知れませんけど、あくまで意思を持つ美しい魔物としての吸血鬼の否定が前提であるというだけです」


 シャーロットがいたずらっぽく微笑んだ。

 な、なにーっ。

 私の地元にはいるかも知れないってことー!?


 まあいいか。

 出てきたらやっつければいい。

 辺境伯領のスタンスだ。


 それで、存在しない吸血鬼事件をシャーロットはどう見たのかな?


「まず、奥方が血を吸っていたように見えた理由はこれですわ」


 シャーロットが取り出したのは……。

 あっ、さっき私が蹴飛ばした、蛇の抜け殻!


 綺麗に脱皮したものだよね。

 一瞬本物かと思ってしまったもの。


 蛇の抜け殻を見て、侍女たちが悲鳴をあげた。


「なんだ、抜け殻じゃないか。こんなものがどうしたんですか? 蛇などこの辺りにはいないだろうし」


 男爵は気楽なものだったけど、奥方の表情が固くなった。

 じっと、強い視線をシャーロットに向けている。


 あっ、これは彼女、真犯人を知ってるな。

 しかも相手を庇っているんだ。


「蛇が赤ちゃんに噛みついたのです。それで慌てて、奥方は赤ちゃんの血を吸い出した。ですけれどご安心くださいな。この蛇に毒はございません」


「えぇっ!?」


 夫人が大きな声をあげた。

 心底驚いたらしい。


「少し前に、街で行商がございましたの。そこでペット用に毒のない小さな蛇が売りに出されていたのですわ。きっと犯人はそれを買っていたのでしょうね。行商はまだおりますから、裏を取ることだっててきますわ」


「それはおやめください、ラムズ侯爵令嬢」


 硬い声で懇願する夫人。

 これには男爵もびっくりだ。


 なるほどねえ。

 私、犯人が分かってしまった。


 結局その後、シャーロットは、愉快犯がいて蛇を中庭に投げ込んだものがいると告げた。

 果たして中庭が捜索され、そこから小さな蛇が発見された。


 窓を閉ざしていたのは、蛇の侵入を防ぐためだったわけだ。

 それに、入口が一つしか無い部屋に閉じこもっていた夫人は、赤ちゃんを守りやすい状況にしていた。


 では、その犯人は?


「男爵、わたくしから提案なのですけれど」


「なんですか?」


「アドミナル様を一時、留学させてみませんこと? そう、活動的な彼ならば、ワトサップ辺境伯領で学ぶことも多くあると思いますわ」


「なんと、アドミナルを辺境伯領で!? そ、それは大変ありがたいお話です!」


 ええっ!?

 いきなり私に話が振られた!?


 いや、だが、私を婚約破棄した、素行不良な第一王子コイニキールが更生したということで、私の実家の評価は大変高くなっているのだ。

 貴族の子弟を留学させ、辺境伯領で質実剛健な精神を身に着けさせる……というのが流行っているみたい。


 男児ならば、望むところということだろうか?


「ええと、父は喜んで受け入れてくれると思うけれど……」


 根性を叩き直す相手が多ければ多いほど嬉しい人だから。

 その後アドミナルくんが見つかり、彼に辺境伯領への留学が告げられた。

 アドミナルくんは放心状態になったようだった。


 そしてこの事件の犯人は愉快犯ということで、シャーロットからデストレード憲兵隊長へ捜査の依頼をする……ということで話がついた。

 これって絶対、国外に逃げ出してしまったということで迷宮入りさせるつもりでしょ。


 男爵とご夫人が深々と頭を下げるのを後に、私達は帰宅した。

 バスカーが「わふわふ!」と出迎えてくれる。

 うわーっ、顔をペロペロ舐めるのはだめーっ。


「そ、それにしてもシャーロット。この事件の犯人はアドミナルくんだったのでしょう?」


「まあ、ご明察! そのとおりですわジャネット様!」


「やっぱり。お小遣いで蛇を買ったアドミナルくんは、赤ちゃんに蛇をけしかけた。そこまでは分かったわ。でもどうして?」


「赤ちゃんが生まれる前は、新しいお母様に愛情を注がれ、幸せいっぱいだったことでしょうね」


「あ、なるほど! 愛情を赤ちゃんに取られると思ったんだ!? そっか、ご夫人に懐いていたって言ってたもんね」


 我が家のメイドが顔を拭く布を持ってきたので、バスカーのよだれを拭き取るなどした。

 その後お茶を出してもらい、二人でお茶会の仕切り直しだ。


「その愛情を理解していたからこそ、ご夫人はアドミナルくんを犯人だと言い出せなかったということ?」


「そういうことですわ。双方に愛情があるからこそ。つまり、この事件は愛ゆえに起こったのです。ん~、事件のあとのお茶は本当においしい……」


 なるほど、これは確かに、終始愛が関係してる事件だった。

 巷で流行ってる吸血鬼マスキュラーの話も愛の話だったし、吸血鬼はいなくても、ちょっとは関係があったわけね。


 カゲリナもグチエルも大好物そう。

 だけど、ご夫人とアドミナルくんのために、口外するわけにはいかないなあ……。


 私はこの事を胸の内に秘めておくことを決めながら、紅茶を口にするのだった。

 うん、美味しい。


 そうだ。

 二人には詳しい話ができない代わりに、一緒に吟遊詩人ファルクスのコンサートに行くというのはどうだろう?


 吸血鬼なんていうのは、お話の中だからこそ楽しめるんだから。

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