第163話 結局のところ
教授が発掘品を私物化し、あわよくば換金しようとしていたことが明るみに出た。
かくして、彼は厳罰を受けることになった。
そして教授の身勝手に巻き込まれて、職を失ったと見られる元助教授。
世間は彼女に同情したのだが……厳格なイニアナガ陛下の作った法は、それでも情状を酌量しない。
殺人者として厳罰を受けることになった。
「平時でも、きちんと法が機能しているのは安心感あるわよね。そういう私の考え方は一般的じゃないみたいだけど」
「ジャネット様は戦時と平時を行き来する場所におられますもの。それに、あの助教授は別に被害者でもなんでもありませんわよ?」
「えっ、どういうこと!?」
ここはアカデミーの喫茶店。
庭に面したテラスで、私とシャーロットはお茶をしていた。
「今回の事件には直接関係ありませんでしたけど、教授と助教授はつまり、そういう関係だったのですわ。なので遺跡の発掘物を流したのは助教授。彼女の元職場のお話を聞いて、それが明らかになりましたの。本来ならこの事件、共犯だったのですわねえ」
「へえー。そんな裏が!」
「ちなみに欲に目が眩んだ教授が助教授を振って、それを恨んだ彼女が屋敷に入り込んだのでしょう。ですけど、使用人の方々はまだ、助教授と教授が別れたことを知らなかったそうですわ。だからいつもの恋人が来たと思って、スルーした。書生だけは、助教授が発掘品の本を抜き取ろうとしていたことに気づいたので、彼女を注意したようですわね」
書生の死体が倒れていた場所。
そのすぐ横にも、発掘品の本があったのだ。
本を手にするには、死体となった彼を乗り越えねばならない。
助教授にはそこまでの度胸は無く、慌てて隠し部屋に逃げ込んだのだと言う。
「ちなみに、隠し部屋の本は全てが民俗学に関するもので、大半は教授の著書でしたわ。あの部屋で本を読むのが教授の趣味だったのでしょうねえ。つまり、彼は研究への情熱を失ったわけではなかった。真面目な研究者と、発掘品を横流ししようとする不届き者は、彼の中で同居していたのですわね」
「人間の複雑さを思い知らされるような事件ねえ」
私は紅茶を口にしてから、ほうっとため息をついた。
「まあ、そんな話が知れ渡ったら、世間がモヤモヤしちゃうものね。みんなこうやって、悲劇の助教授がけしからん教授を……みたいなストーリーで楽しんでるみたいだし」
「ええ。わたくしも、推理をジャネット様に伝えられたから満足ですわ!」
シャーロットもスッキリした顔をしている。
終わってしまった事件の真相を解き明かすことは、あくまで彼女の趣味だしね。
「考えてみたら、隠し部屋を知ってたのってつまりそういうことだもんねえ。いやあ、救われない事件だったねえ」
「一番可哀そうなのは書生さんでしたわねえ」
そんな話をしていたら、パンパンになったカバンをぶら下げて、オーシレイが戻ってきた。
「よし、帰るぞ。全ての仕事は終わった」
「結構ゆっくりしてましたね」
「お前たちがヴァイスシュタットの観光を楽しんでいたからだ。こちらもゆっくりと仕事を進めさせてもらった。王都が誇る事件解決コンビに休暇をやろうと思ってな。俺が陛下に上申した」
「ゆっくりされてたのは、殿下の提案だったんですか!」
「ああ。お前たちがまさかここで揃うとは思っていなかったからな……。そうなれば仕方あるまい。ゆっくりしてもらうしかない」
真面目な顔で彼が答えるので、私は思わず笑ってしまった。
「なぜ笑う」
「いえいえ! 殿下が真面目な顔で冗談を口にされるのでおかしくて」
「俺はいつも本気だというのに!」
私とオーシレイの噛み合わない会話を、シャーロットが実に楽しそうに眺めているのだった。
彼女はことのついでに、紅茶をお代わりまでした。
そんなに紅茶が美味しかったの……?
その日のうちに、私たちは帰路についた。
ヴァイスシュタットを堪能したのは私たちばかりでなく、バスカーとピーターのコンビもだ。
二匹は馬車の中にむぎゅむぎゅっと入ってくると、適当な座席の上で丸まって寝始めてしまった。
「この子たちを見ていたら、なんだか平和な旅行だったなあって気持ちになるね」
「彼らからしたら、人間の事件なんて大したものではありませんもの。あら、ケイ教授が走ってきますわ」
シャーロットが馬車の窓から身を乗り出す。
「シャ、シャーロットさーん! また来てくださーい!! 歓迎しますからー!!」
「はーい! 教授とのお話はとても興味深いものでしたわー! またぜひー! 王都にいらっしゃったら、案内して差し上げますわねー!」
「な、なんだってー!!」
ケイ教授の声が聞こえてきて、もう面白くて仕方ない。
しかも次には三人娘まで出てきたらしくて、ケイ教授は彼女たちに取り押さえられてしまったらしい。
これは、しばらく王都に出てくるのも無理じゃないかな!
こうして遠ざかっていく、真っ白な町並み。
さようならヴァイスシュタット!
今度訪れる時は、事件関係なしでお願いしたいな……!




