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2-5 図書館


「あら、またあんたかい?」


 国立魔法学院の図書館で何年もの間ずっと司書を務めるチュル。

 そんな彼女には最近、やけに何度も見かける顔があった。


 その人物とは、ダリウスである。

 本来、魔法学院の教師は授業以外では自分の研究室に引きこもっている場合が多い。

 そのため図書館に来ることもほとんどなく、仮に本が必要になるとしても研究室を懇意にしてくれる生徒たちに持ってきてもらうことが大抵だ。


 しかし最近になって突然、珍しく教師がやって来たかと思えば、それからかなりの頻度で図書館へ入り浸るようになったのである。

 ただでさえ教師がここへ来るのは珍しいのに、それが何度もということになればさすがに誰だって覚える。


 とはいえ、司書のチュルはダリウスのことを少なからず知っていた。


 ダリウスは学院に赴任してきた当時から色々と悪目立ちしていた。

 その悪評を人づてに聞いていたチュルは、図書館へやって来たダリウスを少なからず良くは思っていなかった。


 しかしダリウスは噂で聞くような悪い教師ではないのかもしれない、と最近になって思うようになった。

 というのもダリウスは毎日放課後にやって来ては、読むのに苦労しそうな分厚い本を本棚から取り出し、他の誰よりも集中して読んでいる。

 司書であるチェルには、そんなダリウスの姿がとても真摯に見えた。


「今日も調べものかい?」


「まあ、そんなところだ」


 目的の本を探しているダリウスに声をかけてみると、視線こそ本棚から逸らさないものの意外に返事はしてくれる。


「あれ、でもこの前までは魔道具に関する本ばかり読んでいた気がするけど、今日はそうじゃないのかい?」


 ダリウスを見ていて不思議に思ったことが幾つかある。

 それが読む本の種類である。


 てっきり何かについて調べているのかと思いきやニ、三日ごとに読む本の内容ががらっと変わる。

 初めは魔力に関する本、その次が魔道具に関する本、そして今回が”魔石”に関する本だ。

 ただどれも魔法に関係しているという共通点はあるが……。


「ちょっとやりたいことがあって色々と探してはいるんだが、少なくとも俺が調べた限りでは魔道具じゃ無理らしい。だから今度は魔石について調べてるってわけだ」


「やりたいこと、ねぇ」


 ダリウスが一体何をやろうとしているのか、気にならないわけではない。

 しかしそこまで立ち入ってしまうのは明らかに一線を越えている。

 そう判断したチュルはそれ以上の詮索はしない。


 ただ毎日図書館に通うダリウスに、司書として何か手伝えることはないか。

 チュルは一度ダリウスから離れると、目的の場所を探す。

 探すといっても、司書としての長年の経験があるチュルにとっては図書館のことで分からないことなどない。


「これと、これ……。そしてこれも……」


 少しして、チュルは再びダリウスの下へ向かう。

 ダリウスは未だに魔石に関する本を探しているのか、本棚の前にいる。


「ほら。魔石に関する本をありったけ持ってきてやったよ」


「っ! た、助かる!」


 ダリウスはチュルの手から十冊以上の本を受け取ると、お礼を言いながらすぐに机のある方へ向かう。

 恐らく一刻も早く本を読みたいのだろう。

 少し失礼とも思われるかもしれないが、チュルからしてみればその姿勢こそが一番のお礼だ。


 それからしばらく何もすることなく、チュルは受付の席でじっとしている。

 席から見えるダリウスの後ろ姿はほとんど動くことなく、真剣に本を読んでいるのが分かる。

 ただもうすぐ閉館時間ということもあり、そろそろ一声かけるべきか悩んでいると。



「これだっ!!」



 突然、ダリウスが大声をあげる。

 恐らく本人はここが図書館ということを忘れるくらい没頭していたのだろう。

 閉館時間ぎりぎりということもあり、他の利用者がいなかったことが幸いした。


 それからダリウスはまた食い入るように本を読んでいたかと思うと、全ての本を持って受付までやって来る。


「目的のものは見つかったのかい?」


「あぁ、本を持ってきてくれたお陰だ」


 本を差し出すダリウスの表情はどこか満足そうだ。

 そしてチュルも、自分とここの本が役に立ったのであれば良かったと頷く。


「本当に助かった!」


 ダリウスはお礼を言い残すと、そのまま駆け出すように図書館を出て行く。


 その背中が見えなくなったあたりで、チュルはダリウスが持ってきた本に視線を落とす。

 ダリウスがこの中のどの本を読んで「これだ!」と叫んだのかは、傍から見ていて分かっている。

 その本を読めばダリウスが何を探していたのか見当くらいはつくかもしれない。


「……それはちょっと野暮かね?」


 しかしチュルはそうすることなく、明日にでも本棚に戻そうと受付カウンターの端の方に本を積み重ねた。


 ◇   ◇


「さすがに急がないとまずいか……?」


 ダリウスは暗くなり始める空を見上げながら呟く。

 本を読むのに没頭しすぎて学院を出るのが遅くなってしまったのだ。

 しかし今日は有力な情報を得ることが出来たので、結果的には良かったと言えるだろう。


 とはいえ、これから食材の買い足しをしてから帰らなければならないことを考えると少し憂鬱な気分になる。

 しかし昨日の帰りに買い足しをサボってリュエルに怒られたので、今日サボるわけにはいかない。


「…………」


 ダリウスは歩きながら、先日のことを思い出す。


 どうやらリュエルには捕まれない理由があるらしい。

 しかし軍にスパイ容疑をかけられている以上、無闇に動き回ることは出来ない。

 かといって一度本国に戻らなければどうすることも出来ないだろう。

 ただ本国に戻るにしても何かしら情報を持って帰らなければ、リュエルがどうなるか分からない。


 そこでダリウスは自分や軍の情報を話す、という提案をした。

 もちろんすぐにはリュエルも首を盾に振らなかったが、それ以外に手段がないと判断すると申し訳なさそうに頷いた。


 とはいえ、それはあくまで最終手段に過ぎない。


 ダリウスはリュエルに少し時間をくれ、と頼んだ。

 その間に何か出来ることが無いかを、ずっと探していた。


 そして今日、ようやくその手掛かりを一つ見つけることが出来たのである。


「ただ一つ問題があるとすれば……」


 図書館で読んだ本によれば、目的のものは稀少性が高く、この国にはない。

 それを手に入れるには少なくとも時間はそれなりに必要になって来るだろう。

 そしてもう一つ、重要なものがある。


「適当な奴に任せたくはないし、それにリュエルのこともあるしな……」


 いやでもやっぱり、とダリウスは何度も唸る。

 しかし遂に観念したように大きな溜息を一つ零す。


「……仕方ない。あいつに頼るか」


 また憂鬱なことが一つ増えた、とダリウスの足取りは少し重くなった。


この度『劣化魔法の教育者』の書籍化が決定しました。

ありがとうございますm(__)m

随時、情報などを活動報告にて報告していきますのでよろしくお願いします。


また、新作も投稿しました。以下概要です。


【タイトル】うちのクラスに勇者がいる


https://book1.adouzi.eu.org/n9741el/


【あらすじ】うちのクラスには勇者がいる。授業中にいきなりおもちゃの聖剣を掲げて「魔の気配がするわ! 皆伏せて!」とか叫ぶのはいつものことで次第にクラスメイトの反応も薄くなり、遂には先生までもが呆れて何も言わなくなってしまった。そんな奇行の数々に彼女に近付く者はほとんどいないし、できれば僕も関わりたくはない。


「あなたから魔の気配がするわ! さては魔族ね!」

「な、何のことか分からないけど、とりあえず聖剣をこっちに向けないで!?」


しかしどうやら彼女の中で僕は魔族らしく、事あるごとに絡んでくる。おかげで最近では僕まで変人扱いされるようになってしまった。それにしても人のことを魔族呼ばわりなんて失礼な勇者だ。これでも僕は魔王だというのに。


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