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結構な爆発だったみたい。

 一階へ上る階段に着くと、

「逃げるぞ! 俺が炉に手を出したことで、この基地に何が起こるかわからない」

 俺は二人に言った。

 既に流れ出した液体が離れていても熱くなっているのがわかる。後ろを振り向かずとにかく基地を出た。扉を閉め岩の影で丸まった瞬間、

「ドッカーン」

 人生で感じたことが無い衝撃が俺を襲うのだった。


 某〇ッターマンシリーズでは髑髏が三つぐらい繋がって上がるんじゃないかというほどの爆発。

 パラパラと埃のようなものが降ってくる。


 イテッ。


 たまに小さな石が俺の頭に当たる。

 岩越しに基地があった場所を見てみると、放射線状に木々が倒れ、その中央で基地だったものは跡形もなくなり、大きなクレーターになっていた。


「危なかったのう」

 体にかかったほこりを払いながらオレゴルが立ち上がる。

「正式な方法があって、簡単に精霊を助け出すことは可能だったのかもなぁ……。説明書なんて無かったし」

 俺は反省しながら頭を掻いていた。

「でも、この子は助けられたよ」

 ドリスが笑う。


 それだけでもマシか。

 さて、こいつも外さないと……。


 俺は隷属の紋章を掴む。

 ベルトランと同じやり方。


 ありゃ、これ前の隷属の紋章よりも抵抗が凄いや。

 ムッ……ムウ……。

 必死に魔力で抑え込むと何とか収まり紋章が消える。

 結構な強さだった。


 魔力的にギリだったな。


 紋章があった場所は傷一つ無くなる。

「相変わらずね」

「じゃのう」

 ドリスとオレゴルが苦笑い。

「さあ、帰るか」

 俺はオレゴルに精霊を渡した。

 そして俺たちはハーフトラックに乗り込み、フォントラス村に戻る。



「どうするの?」

 ドリスが俺に聞く。

「どうするって?」

「精霊の事」

「精霊の事は何も考えていない。

 ただ、何か、ずっとあの中に居るのが『可哀そうだな』って思った。

 こいつが自由じゃない代わりに俺たちが楽をするっていうのも気に入らない。

 だから助けようと思った訳だ。

 しかし、精霊とはどういうもんなんだ?」

 運転しながら俺は聞く。

「精霊は、その地に恩恵を与える者じゃのう。

 まあ、この精霊が起きてから話を聞いても問題はあるまい」

 オレゴルはそう言うと、精霊を撫でていた。



 村の入口辺りに人影が二つ。

 俺はその前でハーフトラックを止めた。

 運転席を降りると、ベルトランが抱き付く。


 オロオロとするメラニーはタイミングを失ったかね?


「旦那様! すっごい大きな音がしたから、何かあったのかって心配してたんだよ。

 メラニーなんてボルックスに乗って行こうとしたんだ!」


 あの爆発、ここまで音が聞こえていたのか……。


「もう!」

 メラニーが頬を赤くしていた。

 そして、

「それで何があったんだ?」

 メラニーが聞く。

 俺はベルトランをぶら下げたまま、

「………………ってわけだ」

 俺はかいつまんでメラニーに説明した。

「あれが精霊?」

「オレゴルが言うにはそうらしい」

 皆の視線が精霊に集中した時、精霊は目を覚ました。


「誰?」

 キョロキョロと回りを見る精霊。

 周りに居る俺たちを見回すと、

「人間とエルフ!

 アタイをどうするの!」

 と叫ぶ。

「どうするも何も、どうすればいいのか俺たちが困っているところ。

 別に自由だからどこに行ってもらってもいいんだけどな」

 俺は言った。

「バカなこと言わないで! ここにある隷属の紋章のせいで、アタイはあなた達が言う事を聞くしかないじゃない!」

 その紋章が無い事を知っているドリスとオレゴルはニヤニヤしている。

 気付いたベルトランも精霊を見て笑い始める。

 一人わからないメラニーが、

「どういう事なのだ?」

 と俺に聞いてきた。

「ん? 隷属の紋章なんてもう無いんだ」

 俺が言うと、

「アキトが消したのじゃよ」

 オレゴルが続いて説明する。

「えっ?」

 精霊は自分の鎖骨の辺りを見た。

 当然紋章が無い肌がある。


「えっ、えっ、無い!」

「そりゃ、俺が外したからな」

 ニッと笑うと、

「えっ、私でも外せなかったのに、迷い人が強引につけた紋章だったのにそれを……」

 精霊が唖然としている。

「たまたま前に居た迷い人よりも魔力が強かったのかもなぁ……。

 ベアトリスの時に比べたら格段に紋章の力は強かったけどな」

「ってことは、アタイは自由?」

「だからそう言っただろ?」

 精霊は満面の笑みを浮かべると、

「やったー! アタイは自由だ!」

 と飛び回った。

 そして、精霊は俺に纏わりつく。

「あらら……」

 ドリスが苦笑い。

「精霊に好かれたようじゃの」

 オレゴルは笑う。

 精霊はフワリフワリと動くと、

「あなた、誰?」

 俺に声をかけてきた。

「ん? 別の世界から来た人間だ。

 迷い人って言うらしいな」

「でしょ? エルフより魔力がある人間が居るはずがないの。

 私を抑え込んだあいつぐらい」


 あいつ?


「あのままだったら、あたいは魔力をあの中で出し続けたんでしょ? そうすればみんな楽できたのに。何で助けたの?

 エルフも、その下で働いていた前の迷い人もそのつもりだったはず」

「そうだなあ……。

 強制……っていうのもなんか嫌でね」

 俺がそう言うと精霊が、

「前に居た人間とは違うのね。あいつは耳長エルフの言いなり。

 アタイを魔力で手込めにして、紋章を焼き付けた。

『お前は寝てろ!』と言われてから、今の今まで、アタイの記憶はない」


 それは今まで、自然から力を得るための核として強制的に眠らされていたからだろう。


「アタイどうしたらいい?」

 精霊が俺に聞く。

「どうしたらいいんだろ?」

 俺はドリスとオレゴルを見た。

「私にはわからない」

(われ)もじゃな」

「んー……」

 精霊は少し考えると、

「精霊ってね。気に入った者と一緒に居るの。

 アタイはアンタについていっていい?」

「それは問題ないな」

 ドリスがそれを見て驚いていた。

「どうかしたのか?」

「アキト、精霊が付くと言うのは凄いこと。

 私もはっきりとは知らないけど、その者に幸運が来ると言う」

「そなの?」

 精霊を見ると、

「さあ?」

 と首を傾げるのみ。


 精霊が居る利点と言うは何かあるのだろう。まあ、今までと変わらなくても問題なし。

 魔力の発生炉が使えない時点で、あまり変わらないだろうしな。


「今までの話の流れからして、アンタの名前はアキトでいいんだよね」

「まあ、そうだな」

「アキト、アタイに名前をくれない? 精霊は名を持ってこそ力が出せる。

 お願い!」

 懇願する精霊。

「じゃあ、まず、君は何の精霊なんだ?」

「私は植物の成長を司る。木の精霊」


 木の精霊。ドライアド。

 んー……安易だが……。


「俺の知っている木の精霊っていうのはドライアドと呼ばれているんだ。だから、そこから取って、ドライアってのはどうだ?」

「ドライア、ドライア、ドライア……」

 体にしみ込ませるように何度もつぶやくと、

「アタイはドライア。よろしく」

 納得したようにドライアは呟くのだった。

「にしても、ドライアの協力が得られればこんな機械を使わなくても魔力は得られたんじゃないのか?」

「アタイたち精霊は、気に入った者にしか魔力を提供しない。人間だってそう、当然エルフにも。

 この機械は特定の者じゃなく皆にまんべんなく行きわたらすためって言っていた。魔力さえあれば、エルフは生きていけるってさ」

「だから、精霊を炉の核にしてでも、魔力を得ようとしたのか……。

 それで街に魔力を供給する」


 より強力な物を得るために、より危険な者に手を出す……。

 まあ、前の世界でも原子力発電っていうのもあったしな。


「エルフに協力した人間も『精霊一匹で魔力を供給することができる。喜ばしい事だ』ってアタイを見て笑っていた」


 エルフが戦争に負けるより前……前にも俺みたいに世界を越えた奴がいたようだ。

 そいつがどういう考えをしていたのかは知らない。

 ただ、俺が手に入れたエルフの遺産のデザインからして、第二次世界大戦のドイツが好きだったか、実際それに絡んだ人なんだろう。


 口調はマッドサイエンティスト?

 スマホがあることを考えれば、俺世代かもなあ。


 色々考えていると、

「どうしたの?」

 無言になった俺を見てドリスが不安そうに聞いてきた。

「ドライアがエルフより魔力がある人間が居たと言っていたから、その事をちょっと考えていた」

「アキトみたいな人?」

「俺が来たんだから、他に居てもおかしくないだろ」

「まあ、そうだけど……」

「その人間がどうなったのか……。

 今後遺跡を探すこともあるだろうから、その時いろいろわかるかもしれない……そんな事を思っていた訳だ」


 まあ……正直わからないかもしれない可能性も有る。

 更にはブレワルスの街に魔力炉はもう一つあるはず。

 炉の中に精霊が居ると考えるならば、その辺も何とかしないといけないか。

 ちゃんと扱わないとあの爆発だからなぁ……。



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