魔力炉とは
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嫌だよ、アタイあんたたちの役になんか立ちたくない。
アタイは、自然の中で暮らしていければいいんだ。
何するんだよぉ。
アタイにその紋章付けて、どうするってんだ?
何でお前は笑っている?
いやぁぁぁぁぁぁぁ…………。
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俺たちは、一階、二階と探し、必要だと思うものを探しつくすと、地下へまわる。
上二階には魔力源のようなものはなかった。
地下へ向かうと「ヴヴ……」と何かがうなる音。
階段を降りた先は一つしかなかった。
薄明るい部屋。
そこには昔図鑑で見たことがある原子炉のような形のものがある。
「何だこれは?」
俺が聞くと、
「わからない」
オレゴルとドリスが呟いた。
俺はそれに近寄ると、窓を見つけた。
高圧を耐えるためか多くのナットで止められた窓。
中を覗くと背を丸めた少女が浮いている。
「何だこれは!」
俺は思わず声をあげた。
エルフではない、人間でもない、ドワーフでもない獣人でもない。
俺がこの世界で見たことが無いもの。
オレゴルとドリスがその窓を覗き込んだ。
そして、オレゴルは気付く。
「あれは、精霊じゃ。
方法はわからんが、エルフは精霊から魔力を抽出していたのじゃな」
「えっ、精霊?」
ドリスは驚いていた。
「精霊を隷属の紋章で縛り、無理やりこの中に入れたのじゃろう。
ほれ、見たことが無いか? あそこにある紋章」
オレゴルが指差す先にはベルトランが付けていた紋章が精霊の鎖骨に浮かんでいた。
「精霊は死なない。いや、殺されることはあっても自ら死ぬことは無い。精霊は魔力が少ない状態ではその場にいる限り魔力を集める性質がある。それを核として精霊から魔力を取り出す方法を得たことで、永遠に魔力を得る方法を手に入れたのだろう。
しかし、エルフよりも精霊のほうが魔力は多いはず。誰が隷属の紋章など……」
オレゴルが首を傾げていた。
コンコンとガラスを叩くと、精霊の反応はない。
はあ……この炉は精霊が居ないと使えないのだろうな。
さて、どうすればいいのやら……。
欲しいが、精霊を核として使ってまで欲しい訳じゃない。
そんな事を思っていると、
「この液体が精霊の感覚を遮断しているのかもしれないのう。で、どうするのじゃ?
このままでは精霊はこのままじゃ。
これは、精霊が居らんでは使えぬ機械のようじゃが?」
オレゴルは俺の葛藤を見透かしたように笑いながら聞いてきた。
炉の周りを見回した。
そこには人が入るためのマンホール。
それ用のメガネレンチもある。
更に見回すと「運転」「停止」と書いた緑と赤のボタン。その上には同色のランプ。現在は運転の上にランプが付いている。
状態標示のランプって訳ね。
さて、俺としては……。
「ドリスとオレゴルは階段まで下がっていてくれ」
「なんで?」
ドリスが怒ったように言う。
「ん……、この炉を止めて精霊を中から出す。
多分この中にある液体も出てくるだろう。
それが、ドリスやオレゴルに何か悪い影響を与えるかもしれないから」
「一緒に居てはいかんのか?
それにアキトにも影響があるかもしれんじゃろ?」
オレゴルも聞いてきた。
「まあ、何とかなるだろう」
「炉ごとは? カバンに入らないの?」
再びドリスが聞いたが、
「精霊が生きているなら、中に入れることは難しいだろうね。
まあ、そういうことで、コレ」
俺は懐中電灯をドリスに渡した。
「炉を止めるということは、この照明もすべて消えるかもしれない。
それ持って、上り階段辺りで待ってて」
ドリスは「むー」と不機嫌そうな顔をしたが、「行こ!」とオレゴルを誘うと、階段の方へ歩いて行った。
さてと……。
俺は停止を押す。
すると、炉の音が止まった。
あれ……、照明が消えない……。
魔力を溜めておくものがあるのか……、まあお陰で作業がしやすい。
メガネレンチで、マンホールのナットを緩めると圧力で隙間から液体が噴き出した。
液体に濡れる俺の体。
ものすごい勢いで何かが吸い取られるのがわかる。
オレゴルの話から考えたら、魔力が吸われているのか。
ヤバいな。
緩んだナットを外すと、マンホールが圧力で外れた。
内部から一気に液体が流れ出る。
その勢いがなくなりかけた時、マンホールからヌルリと精霊が流れ出た。
緑色の髪、幼さが残る体を包むのは緑色の服……靴まで一緒か。
エルフのような感じだな。
さてと……。
俺は彼女を抱き上げると、階段に向かおうとした。
うっ、力が入らねぇ。
俺にとって彼女自体の体が軽いのが幸いしたようだ。
無理やり体を起こすと、階段まで歩く俺。
しかし、溜まった液体が熱を持ち始める。
なんか嫌な予感がするな……。
制御できない炉が起こすことと言えば……。
不意に思いついた俺は、走り始めるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、大変助かっております。




