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エルフ稼働

 俺はケッテンクラートに乗って荒れた道を走っていた。

 荒れた道と言うより、荒れた道だったところ。

 道だと思われる窪みがうっすらと見え、雑草が鬱蒼と生えている。

 ケッテンクラートのキャタピラーはそれを苦も無く踏みつけ、俺を目的地に連れて行く。


 前輪なんて飾りですよ……って感じだな。

 実際そうなんだけど……。


 俺はエルフ仕様のスマホで位置を確認しながら、かつて蒸留所があったと思われる場所を目指す。

 蒸留所に抜ける道を走ると滝が見えてくる。


 この水を使って酒を造っていたのか。

 水は酒の味を左右するって聞いたことがあるな。


 滝の下にそこそこの広さの平地。

 水車だったと思われるもの。

 更には鉄筋のような建物……いや、だったもの。壁が崩れた内部に目指すポットスチルが転がっているのが見えた。

 たぶん銅なのだろう、緑青が浮かび青くなっている。

 腐食し朽ち果てて崩れているものもあった。


 千年使わなきゃそうなるか……。

 よく考えりゃ、人間に作ってもらっても良かったかね?

 ちと反省。


 ポットスチルの下には魔石が敷いてある。

 加熱用のようだ。

 何人かのエルフが魔力で加熱し、蒸留していたのだろう。


 一番保存状態が良さそうなものを選んで、ユニットごとカバンに詰め込む。

 終わりっと。

 人間やドワーフに作ってもらうにしろ、現物がある方がいいだろうしな。

 さて、もう何もないよな……。


 と周囲を見回した時、目に入った大きな金庫。


 見た感じ事務所?

 いや、事務所の裏手な感じ。岩に張り付くように大きな金庫の入口が見える。

 金庫には鷲を象った紋章だね。

 金目のものでもあるのかね?


 近付いてみたが、ダイヤルのようなものはなく、認証が必要な感じだ。

 ただ、魔力が切れているのか、その機能は生きてはいないようだった。


 さてと……。


 当たり前のように開けてみようとしたが動かない。


 まあそりゃそうだ。


「むん!」と扉を引っ張ると、蝶番ごと引き抜けた。


 ありゃ、壊しちまったか……。

 なんかすげぇ。

 今更ながらデタラメな体だな。


 舞い上がる埃が落ち着くと、中が見える。

 樽、樽、樽……。

 そのどれもに鷲を象ったマークが焼き印されている。


 おぅ、千年物の酒……。


 一つ開けてみると、ドロドロと酒だったと思われるものが出てくる。

 苦いような酸っぱいような匂いが漂う。


 アルコールなんて残っているのかね?

 こりゃさすがに飲めないな。中身が蒸発しすぎて、タンニンでドロドロってオチかもしれない。

 封がされてる瓶入りがあれば欲しい所なんだがなぁ……。


 奥に同じような金庫。

 再び引き壊すと、その奥に並ぶ瓶入りの酒。

 琥珀色の液体が入っている。その数、十三。

「ヒュー」

 自然と口笛が出た。


 大泥棒がお宝を見つけた時ってこういう物なのかもしれない。


 そのすべての瓶には鷲の紋章が彫られていた。

 ラングレア歴894年と書いてある。


 確かこのスマホの更新が終わっているのがそれと一緒だったかな?


 俺はその一つの封を開け、中身を嗅いだ。


 んー、いい匂い

 芳醇で複雑……表現できん。

 ただ、飲んで美味そう。


 俺はその酒のすべてを回収する。



 鼻歌を歌いながら家に帰る俺。

 魔物の出現も無く、順調に帰ることができた。

 ポットスチルを酒蔵の横の建物に置く。

 マンホールを開け、中に入って掃除をした。

 何度かの水洗で内部が綺麗になる。


 これで、みんなでがんばりゃ酒ができるな。


 ポットスチルの正面に立ち、満足げに頷く俺。

 そんな時、ウハムが俺に声をかけてきた。

「これは?」

「出来上がった酒を蒸留してアルコール度数……いや酒精を濃くする道具。この辺じゃ酒精の濃い酒って少ない。だから、高く売れる。

 今までは俺が酒精の成分を濃くしていたんだけど、それじゃ俺が居なきゃ何もできなくなる」

「それにしてもそんな物にエルフが必要なのか?」

「そう……。そこ見てみなよ」

 ウハムは竈のようなところを覗き込んだ。

「魔石……。これは火の魔法が込められている」

 魔石を見つけ、驚くウハム。

「そう、これはエルフの蒸留所の遺跡らしき場所から手に入れた物。

 そして、その魔石を発動させるのにエルフが必要なんだ。

 これで、酒造りをして欲しい」

 俺が言うと、

「やれるかどうかわからんが、畏まった」

 ウハムは頷いた。


 そうは言っていたが、ウハムを筆頭にモルト作りもすぐに覚え、酒造りが開始される。

 さすがエルフ用のポットスチル。

 ウハムたちは上手く使い、蒸留された酒が入った樽の数を増やしていった。


 そして、テンサイ。

 エルフには栽培と砂糖の精製を依頼する。

 これは春からの流れ。

 俺の場合は無駄に畝に種を蒔いて間引いて栽培していたが、エルフには春ごろに苗を作り、植える形にしてもらった。

 作物の栽培はさすがエルフで、言われなくても結果を残す。

 収穫したテンサイを魔法で粉砕すると煮込んでエキスを煮出す。

 その液に木灰を入れて灰汁を取って水分を魔法で飛ばすことで砂糖を作っていた。


 ちなみにモルトやテンサイの残ったカスは乾燥させて家畜のえさになる。

 まあ、こんな感じでエルフ製の酒と砂糖が作られ始める。

 あっ、ついでに塩も作ってもらうのだった。


誤字脱字の指摘、大変助かっております。


読んでいただきありがとうございました。

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