エルフの村
機動性が高いケッテンクラートの後席に、動きやすい服装に対物ライフルを抱いたドリスと、メイド服の背中に自作の拳銃用ホルスターをつけたベルトランを乗せ、ベルトランが知っているという村を目指す。
エルフ同士のほうが会話は成り立ちそうだからな。
ちなみに今日は突撃銃。
街道を抜け、いくつかの街を越えると、
「ここから森に入ってください」
とベルトランが言った。
確かに平原の奥に大きな森が見える。
が、どこが入り口か、見た感じ全然わからない。
「ドリス、わかる?」
俺が聞くと、
「わかるわよ? ほら、あそこに入口」
と指差した。
いくら見てもわからない俺。
ベルトランとドリスはクスクスと笑っていた。
森に入ると気配が変わる。
木漏れ日が少なく暗い。
ベルトランの指示に従い、木々の隙間を縫いながら、ケッテンクラートをゆっくりと進ませると、何かが燃える焦げ臭い匂い。
奥からは煙が流れてきていた。
「何だ?」
遠くから「キャー!」とか「わー」とか声が聞こえる。
ドリスとベルトランの表情が変わった。
俺はアクセルを開け、スピードを上げ、燃え盛る村に入る。
そこではエルフを狩る二十人程の男たち。
「こんだけ居りゃ、俺たち遊んで暮らせるだろ!」
既に何人かのエルフは縛られて転がされていた。
何かロープのようなものを持って投げている。
ドリスはケッテンクラートの縁に対物ライフルを置いて構え、人を撃つ。
狙った男の上半身が弾け、その奥に居た男の右腕がもげる。
ベルトランは飛び出し、舞うように拳銃を撃ち次々と男たちを倒す。
俺も突撃銃を三点バーストで打ち抜いた。
あまり時間もかからずに男たちは全て命を落としていた。
人間の始末を終えると、俺たちは火を消した。
消した後に残ったのは焼け落ちた柱だけ。
こりゃ住めないな……。
ドリスとベルトランは捕まったエルフを開放し、俺は村の様子を見ていた。
すると、
「お前たちはは何者だ!」
長髪のエルフが現れた。
男……女……どっちだ?
「あなたが長老でしょうか?」
ベルトランが話しかけた。
「なぜエルフが人間と居る!
お前たちも奴隷にされたのか! 私たちを狩るのか!」
「私とドリス様はそこに居るアキトの妻!」
妻か? 妻なのか? もう妻でいっか……。
「ご主人様がエルフと共生したいという。
だから、この村を紹介した」
「エルフが人間と共生などあるまい!
ほれ! ご主人様と言うのなら奴隷にでも落とされたのだろう!」
美しい顔が悪い笑いを浮かべる。
「違う! 私はご主人様に助けてもらった。今はご主人様と居たいからメイドをしているだけ! 前の所有者は私を性欲のはけ口にしか使っていなかった。ただの物だった。でもご主人様は違う。私をエルフだからとかじゃなく一人の個として見てくれる。
そして、大前提としてあなたを奴隷にするなら、今がその好機。でも、そんな時にあなた方を助け、建物の消火をすることこそが、あなた方を奴隷にするつもりがない証拠だとは思わないのですか?!」
「それは……」
「まだわからない?」
さらに追い打ちをかけようとするところを、
「ベルトラン。そこまで!」
と俺は止めた。
「俺がベルトランの主人をやっているアキトです。
んー、俺って主人かね?」
俺はベルトランを見ると、
「はい、ご主人様です」
とベルトランがニコリと笑って言う。
何か子犬っぽいな。
「まあ、そういうことなんでご主人様でいきます。
えーっと俺はアキト。とある村で働いています。
俺が今住んでいる村にはエルフの遺産が多く、そのエルフの遺産を活用するために魔力を提供してもらいたいという提案です。
かわりに家と給料を提供します。わが村にはとある商会の支店もありますので、食料、衣料品、必要なものを買えばいいと思います。見れば家も燃えてしまい、住む場所もないようです。いい話だと思うのですが……」
話しながら、
それにしても若いな。
で、この人、男、女どっち?
と考えている俺。
全員がズボンを履き、同じような服装。
ドリスもベルトランもそうだが、胸はツルペタと言う言葉がふさわしい。
性別がわかり辛い中性な顔なのだ。
俺を見たドリスが、何に悩んでいるのか気付いたようで、
「男だから」
と俺の耳元で呟いた。
長老と言う男が村のエルフたちと話を始める。
村人も全部で二十人ぐらい?
子供が三人にあとは大人か。
数が少ない。
『この村の復旧をしても、この場所を知っている人間が来る』とか、『別の場所で村を作るにしろ、今のような形になるまでは長い時間がかかるだろう』とか長老が言っていた。
村人たちもいろいろ意見を出すがあまりいい案は出ない。
長寿なせいか話し合いは長々と続いた。
「アキト、終わった」
ドリスが俺を起こす。
話が長すぎて寝てしまっていたようだ。
「で? どうなった?」
ドリスが長老を指差した。
長老が俺の横に立っている。
そして、
「我々の選択肢は、この地に再び村を作るか、新しい村を別の場所に作るか、お前の村に行くしかない。
この場所に再び村を作っても、再び襲われるだろう。新しい村を別の場所に作っても同じ。人の影に怯えながら生きるだけだ。
もう嫌なのだ。森の中で小さくなって生きるのは。
そのドリスと言う娘の事をお前は助けたらしいな。そのベルトランと言う娘のことも酷い男から助けた。
だからということではないが、我々も助けてもらえないだろうか」
長老は頭を下げた。
寝ている間にドリスとベルトランが話をつけてくれたようだ。
「頭を上げてください。
俺はたまたま助けただけだから……。
本来なら、俺の方が頭を下げないといけないんです。
だから、俺の村で働いてもらえませんか?」
俺が言うと、
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
こうして、エルフは俺の村に来ることになった。
ちなみに長老の名はウハムと言った。
人間たちの死体から取れる物を取り、魔法で穴を掘って、掘った跡が残らないように埋めた。
これで、この死体は見つからないだろう。
この村を捨てるということになってからのエルフの動きは速い。
元々、逃げることも考えてあったのだろう。一人一人袋を持ち現れる。
その多くないエルフの荷物は俺が預かった。
収納カバンを見たエルフたちが驚いていた
エルフたちの準備を待つ間に夜になっていた。
ケッテンクラートを仕舞い、エルフと共に街道に出る。
そして、ブレワルスの街で手に入れたバスを出した。
「何だこれは!」
と驚くエルフたちだったが、
「エルフの遺産。
多人数を運搬するための物だったんだろうな。
整備して、使えるようにしてある」
と言うと、納得したようだ。
一番前の席に陣取るのはドリスとベルトラン。
その後ろに、ウハム。
そしてその後ろへとエルフが乗っていった。
そう言えば、今日は俺が少数派。
エルフがその席に乗る。
事前に整備して使用可である。
そして、フォントラスに走り始める。




