砂糖大根
蜂蜜は手に入るようになっていた。
以前手に入れた蜂が分蜂する時期に近くに同じような巣箱を置いたところ、そこに巣を作ったためだ。
巣も二けたに到達し、たまに村人に分ければ喜ばれている。
まあ、ボルクス商会で買い取ってもらうことで、小銭にもなっている。
ある日、珍しくボルクス本人が村に来た。
「これなんだが……」
そう言って大根と言うか、カブのようなものを見せてきた。
「これとは?」
「これから甘い蜜が取れると言う噂を聞いた。でもどうやっても甘くない。どうしても苦みが付くんだ」
灰汁だろうな……。
たぶん、この植物はテンサイだ。
「ふーん……」
俺はうそぶく。
「何とかならないか?」
モヒカンに元気がない。
「栽培方法と砂糖の抽出方法を知りたいって訳か」
「まあ、そういうことになるな」
「できなくはない」
俺が言うと、
「えっ、本当か?」
ボルクスのモヒカンが立った。
「確立したら?」
「ここだけで生産する。
砂糖なんて言うのは南の温かい所から時間をかけてくるもの。
砂糖の重さが金の重さと言うほど高価。
その砂糖の隙間に、ここの砂糖を紛れ込ませて、利益を得るのさ」
「比率は? 販売価格の七割をこちらで受けたい。」
「あんた、それは暴利だぜ」
その通り、暴利だ。
うちは育てて抽出するだけ。
まあ、年単位のスケジュールにはなるだろうが、麦などよりは手間は少ないんじゃないだろうか。
でも、テンサイを収穫する機械はないだろうな。
「俺の頭の中には既に抽出方法は確立している。ある程度の試行錯誤は必要だとは思うが……」
俺は頭を指差す。
「村が六、こっちが四だ。それならばいい」
ということになった。
それで十分なのだが「仕方ないなぁ」的な顔をして、
「わかった」
と俺は頷いた。そしてテンサイの種とテンサイそのものを受け取るのだった。
「それは何?」
ドリスが俺に聞いてきた。
「ん? 砂糖の原料。食ってみるか?」
俺が聞くと、コクリと頷いた。
「サクリ」
と言う音をさせ食べるドリス。
「あっ、甘い」
と呟いたあと、
「うえぇぇ……、変な味」
と言ったあと、ペッと吐き出す。
「口直し」
と、ドリスにクッキーを渡した。
カリカリとリスのようにクッキーを食べるドリス。
「知ってたでしょ」
「ああ、知ってた」
「意地悪」
「ごめんごめん」
俺が頭を撫でると、ドリスはプイとそっぽを向くのだった。
ちょっとイタズラが過ぎたかね……。
ちなみにクッキーは村の子供を手懐けるのに作った物だが、大人にも好評である。
俺は森を切り開き、小さな畑を作るとそこにテンサイを植える。
「アキトの魔力なら、すぐに育てられると思うよ?」
クッキーで機嫌を直したドリスがカリカリと食べながら現れた。
「そうなのか?」
「ええ、この世界に生きるものは総じて魔力を吸収し育つ。だから、その植物に魔力を与えれば育つのは早くなる」
ふむ……。糖度とエグみが少ないモノを掛け合わせて、最終的には糖だけが取れるテンサイにしたいところだが。そこまでは求めなくとも、糖度が上がれば生産効率は上がるだろう。
小さな畑に魔力を流した。
するとすぐ十センチほどに育つ。
その中で大きいものを選び間引いた。
それを何度か繰り返すと、大きなテンサイができる。
糖度とエグみを確認し、糖度が高く、エグみが少ないモノを治癒魔法で治し、さらに成長させて、交配させ種を取る。
再びその種を植えて育てるを繰り返す。
黙々と作業をする俺に、
「何をやっているのじゃ?」
とオレゴルが聞いてきた。
「ん? 品種改良」
「ひんしゅかいりょう?」
「ある種の必要な部分を特化させて、俺にとって都合のいい種を作っている訳だ」
「それがその植物なのかのう?」
「ああ、テンサイって植物で砂糖の成分が多い。
だから、砂糖の成分を更に濃くして、それで砂糖を生産しようかとね。
砂糖は高い。この村の収入として確立できる」
「そうすれば、この村に金が入り、発展するのだな」
「そういうこと」
メラニーに聞いたところによると、人が手を出していない土地は買うことができる。
ちなみに俺が回収したスマホには昔のエルフの街や基地などの拠点が表示されていた。
更に、金山や希少金属の鉱山なんてのもある。
まあ、そこまで手を出すのは難しいだろうが、できればこの村周辺のエルフの拠点。ベンドルト基地とブレワルスの街ぐらいは囲い込みたいな。
なんてことを考えてはいたが、いつになるのやら……。
利用する意味がない場所ほど安くなるというから、情報を漏らさないようにしないといけないわけだが……。
既に村には車のディーラー設備と農協関係の設備を移設している。冷蔵庫まあ今交流しているのはボルクス商会だけだからな。あのモヒカンが余計なことを言わなければ問題ないか……。
テンサイの方も三周目が終わり、種をとったところでその日の品種改良をやめた。
さすがにテンサイばっかり食ってて腹がパンパンだ。
それを十日ほど続けると、激甘でエグみが少ないテンサイが出来上がる。
普通は三十年ってところなんだろうねえ……。魔法を使ったチートってすげえ。
畑を広げて、品種改良をしたテンサイの種を蒔いた。
魔法で成長促進→間引き→成長促進→間引き→成長促進繰り返して→収穫。
収穫は運搬機を使う。
魔法を使えば糖分だけの回収もできた。
水分を抜いて砂糖の出来上がり。
畑が大きくないので、総量は少なめ。
と言っても五十キロぐらいはあった。
さて、出来上がったものをメラニーに持って行って確認してもらおうか。




