学校を作る
当然のごとく、フォントラス村には街灯などない。
それに、夜、家を照らすのはランプ。
ランプさえない家も多かった。
ふむ……。
「夜は明るい方がいいのかね?」
メラニーに聞くと、
「それはそうだろうな……。
うちはアキトが作った照明で明るい。
お陰で夜も事務ができる」
ペンドルト基地からケーブルを引き、村の中だけでも明るくできないか?
それに、トラクターやコンバインなどの農具に魔力を充填するにも俺が居ないといけないのでは良くないから、できれば、ブレワルスの街にあったような充魔機のようなものを設置しておきたい。
まあ、何にしろそのための魔力をどこかから引っ張ってこなきゃいけないってことで……。
その辺の事をメラニーに相談してみた。
「それはできるのなら問題はないけど、この村の近くにエルフの基地があるということを知られるのは良くないと思う。結果この土地を奪われることになりかねない。
すでに、この村はあり得ないほどの勢いで発展している。
それで十分。あまりに早い発展は、混乱を招くのでな」
「ふむ……急ぎ過ぎたかね?」
「ええ、急ぎ過ぎたな」
メラニーが苦笑いしていた。
まあ、それでも最終的には基地の魔力を何とかしたいところ。
「それよりも子供たちだ。
アキトが持って帰ったエルフの遺産で効率が上がった。そのおかげで子供たちへの負担が少なくなったようなの。確かに水くみや兄弟の世話なんかもあるけれども、それでも畑で肉体労働をしなければならないようなころに比べれば全然。
だから……」
「だから?」
俺はメラニーに聞く。
「余裕が出た分を教育に回したいと思う」
「教育か」
俺はいい事だと思った。
「冒険者には字が読めない者が多い。それは、土地を貰えない農家の次男三男や放り出された女子が多いからだ。
程々までは労働力として使えても、代替わりの時期になれば兄弟が邪魔になる。
追い出された者は農作業しかしていなかったんだから文字も読めないし計算もできない。結局行く場所もなく冒険者になるわけだ。
そして死ぬものも多い。
読み書き計算ができれば、商人や職人を手伝い、別の道で自立することもできる。騙されることも少なくなるだろうからな」
「可能性の問題?」
俺が言うと、
「そう、子供たちの可能性」
とメラニーは頷く。
「そのためには校舎と先生が要るな。教科書も要る。運動場になるような広い場所。遊具。まあ、校舎や運動場、遊具は俺で何とかなる。
一番難しそうなのは先生。この田舎に来てくれるような先生が居ればいいんだが。ボルクス商会に聞いてみるか?」
「ああ、お願いできるか?」
「心得た」
こうして俺は学校を作ることになる。
朝、皆で集まって朝食。
朝食を作るのは俺……。なぜか俺。
ちなみに俺の隣にはベルトラン。
覗き込むようにして俺の手元を見ていた。
「そのフライパン捌き、さすがです」
ほめちぎってはいるが、ただオムレツを作っているだけ。
独身生活で培った技術を使っているだけなのだ。
「そんなに近づくな」
「嫌……ですか?」
上目づかいで俺を見上げる。
「違う、危ないだろ?
ベルトランがヤケドしたらどうする?」
「嬉しい! 心配してくれてるんだ!」
そう言って抱き着くベルトランの後ろで「ゴホン」と咳払いする声が聞こえた。
「あっ、ドリス様」
「みんな待ってるんだから、いちゃついてないで早く」
ちょっとお怒りのご様子。
「了解、ベルトラン、皿を出して」
出来上がったオムレツを皿に乗せると、ベルトランはその周りに野菜を盛り付ける。
そして手作りマヨネーズを乗せて、食堂のテーブルに持っていくのだった。
そして食事の時、メラニーと話した内容を皆に話した。
「学校かあ……」
ドリスが呟いた。
「エルフにも学校があるのか?」
俺が聞くと、
「無い。長寿だからあまり求めなかったのかも」
と答えた。
「獣神は?」
次はオレゴル。
「そんなものあるはずなかろう?」
「言葉話せるけど?」
「一応神じゃからのう。なぜか話せるし字も理解もできた。
この中に既に入っていたのじゃ」
そう言って自分の頭を指差していた。
デフォルトで与えられたものらしい。
「ベルトランは?」
「エルフの言葉は知っていましたが、人語は奴隷になってから覚えさせられましたね。
覚えるたびにご褒美とか言って胸を触られましたが……。
あっ、アキト様に胸を触られるのは嫌ではありませんよ?
何ならベッドでも……」
ベルトランはポッと頬を染めた。
「はいはい」
と俺が無視をすると、「ご主人様が無視されましたー」と横で騒がしい声が聞こえた。
俺は続けて、
「メラニーは?」
と聞いてみた。
「私は父に教わってはいたのだが、王立の騎士学校に入り更に理解を深めた感じだな」
とメラニーは答えた。
「ふむ……」
と俺が腕を組んでいると、
「アキトは?」
とドリスが聞いて来た。
「エルフの言葉の読み書きはドリスに教わっただろ? 計算とかは向こうの世界の学校で習った。あとある程度の知識もね。人語はスマホの翻訳で文字を覚えた。向こうの言葉とあまり変わらなかったからな」
ちなみにローマ字っぽい。
オレゴルがニヤリと笑うと、
「わざわざ先生とやらを招聘せずとも、ここに先生がおるではないか。
言葉はメラニーかベルトランが教え、計算はアキトが教えればよい。
その生徒の中で、優秀な者を学校の先生に据える」
と言う。
「そういうことか……。
学者を求めていないのだから、それで十分ってわけか」
俺が言うと、オレゴルは頷いていた。
後は筆記用具。
「読み書きや計算の練習は反復だと思う。だから、書いては消せるようなものがあるといいんだが……」
俺が呟くと、メラニーが何かを思い出したようだ。
「魔道具の中に、文字を書くことができるものがある。失敗しても指先や手で消すことができるんだ。指導板という。私は騎士学校で使っていた。」
と言った。
小さな黒板と言う所か……。
ならば、大きなものもあるはず。
「その、指導板って大きいのもあるのか?」
「あるな。教師が使う」
ふむ、まさに黒板。
「この村の子供の数は?」
「そうだな、年齢的に学校に通うならば、二十人弱と言うところ」
「なら、指導板(大)を二枚。指導板(小)五十ほど、それを仕入れるか。
メラニーからボルクス商会に依頼しておいてくれ」
俺が言うと、メラニーは頷いた。
早速支店に依頼したようだ。ブロウスで手紙を出し、次の納品の時には着くだろうとのこと。
次の日、森を切り開く。学校用の土地を作るためだ。
土木作業は魔力を使うことであっという間に終わった。校舎についても前回家を作った経験を活かし、あっという間に二部屋ほどの教室がある学校ができた。
魔石でガラス板モドキの窓も作る。
早速報告すると、いつも通りメラニーが頭を抱えていた。
開校に向け着々と進む準備が俺には楽しかった。




