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ソレフテ王国にて

「爺! 帰ったぞ」

 私は王都の自宅に戻ると、声をあげた。

 屋敷の奥から老齢の男が現れる。

 この物の名はバンゴラン。私が幼少の時より仕える騎士だ。すでに前線では戦わず、我が屋敷を取り仕切ってくれている。

「ナナ様! ご無事でしたか。この爺、ナナ様がお怪我をなさらないかと心配で……」

「ほら、怪我はないぞ」

 私は五体満足だと手足を見せる。

「それはよろしゅうございました。

 しかし、今回の定期戦では勝ちを意識して王はナナ様を総大将にしたはず。なのに引き分けとはどうなさったのですか? ナナ様らしくない」

 爺が私に聞いてきた。

「爺。私の言葉を信用できないかもしれないが、あの戦場で一組の主従に一軍が負けた。こちら七千人対向こうが二人で、向こうが勝ったのだ。我々が帰ってこられたのは、女騎士の従者の慈悲。勝てた戦を彼らは捨てた。」

「爺はナナ様の事を信用しますぞ!」

 爺は私の手を取る。

「わが軍は私以外、従者が持つエルフの遺産に痺れさせられた。

 しかし、本来の威力であれば全員が殺された。

 生かされたのは、従者の気分だそうな。

 私も一度は捕虜になった。しかし逃がされた。

 力があるのに従者で居ることに疑問を持って聞いてみたのだが、『野望が無い』と言って笑っていた。

『自分の周りに好きな女が居て、村人が居て、食うに困らずやっていけるならそれでいい』とも……」

 私の言葉を聞き、

「話す言葉に力が入っております。惚れましたかな?」

 爺がニヤニヤする。

「そっ、そんなわけがあるまい? あの男はわが軍にとって敵」

 何故か顔が赤くなる。

「そうでないのなら、姫であるナナ様に何とか取り入って自分の地位を上げようとする者とは違う男に興味を持ったのか……」

 私を分析しながら爺が頷く。

「そうか?」

「ええ、男性の話など、お兄様か王の話ぐらいです。たまに男性の名前が出れば『弱々しい』だ『女々しい』だ、そういう言葉ばかりでしたので……」

「そう言えばそうか……」

 納得である。

「まあ、どちらにしろナナ様が男性に興味を持つのは珍しい」

 そう言って爺が笑っていた。


「さて、私は将軍位から降ろされてしまった。

 死亡者がいなかったのに、兵を引いたのが理由らしい。

 まあ、兵の数も多かったしな。

 王の御前の報告では『なぜ追いかけなかったのか! 追撃すれば勝てただろう!』と何度も大臣たちに言われたよ。

『現場を知らない奴が何を言う!』と言い返したが、まあ、勝っていておかしくない戦いだ。

 責任を取らされた。

 王の力を弱めたい者にとっては丁度良かったのかもしれないな。

 無役になってしまった」

 私が頭を掻くと、

「今まで戦に負けたことがないナナ様が引いたのです。それが正しかったのでしょう。

 時間ができたのでしょう? その従者とやらの村を覗きに行きませんか?」

 と爺が言う。

「えっ? 村の名さえ知らないのだぞ?」

 私はそんな事を考えてはいなかった。

「見つからなければ見つからないでいいのです。

 ナナ様はずっと戦に生きてきた。ですから、この機に気ままに旅でもされて、心を落ち着けるのも良いかと。

 お父上である王に許可を求めてみては?

 許可が出ないのであれば、それでもでよし。許可が出れば大手を振って旅に出られます」


 爺の言葉に従い、父上に旅の許可を願うと、期間も場所も聞かれない。

 父上の思惑なのか、大臣たちの思惑なのかわからないが、すんなりと旅の許可が出た。


 それから一週間ほど経った時、私と爺はあの従者に出会ったビルヘルミ王国の平原の道を馬で走っていた。


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