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殿(しんがり)

「あーあ、向こう既に布陣済みじゃないですか」

 俺が言うと、

「ああ、こちら側に既に入ってきている」

 角笛のような音が聞こえると、いきなり馬が走り始めた。

 メラニーは槍を手に持ち走り始める。

 俺は右手にエルフの遺産の剣を持った。


 突っ込むのはいいが、向こうのほうが強く、簡単に押し返される。

 すると、前の方の味方がやられたようで、負けを意識した騎士たちが逃げ始めた。


 おう、子爵様も早々の撤退命令。

 弱っ。


 潰走とでもいうように逃げる。

 仕方ないのでそれに従い、俺とメラニーは陣に戻った。


 上ではいろいろ揉めているらしい。

 率いるはソレフテ王国の王女様で女将軍らしく負け知らず。

「いつもの老将軍じゃないのか?」

 ということらしい。

 女将軍の動きが早く、既にこちらの国内の平原に陣取っていることで、力対力に持ち込んできたようだ。

 そうなれば数が多いほうが強い。


「兵士も向こうより少ないので、戦略的撤退をするらしい」

 とメラニーが言っていた。

「要は逃げるってわけか……」

「そういうことだ。

 ちなみに殿(しんがり)はシュタール子爵。

 クジで決まったらしい」


 クジ運ないなあ……。


「つまり俺らも、付き合わなければならんというわけか」

「フォントラス村に帰れないかもしれないな」

 負けを意識したメラニーが言った。

「俺は殿のほうがいいんだ。

 できれば、『私たちが最後に残りますので、子爵たちもお逃げを』とでも言ってもらえるかな?」

「いいのか?」

と驚いたようにメラニーが言う。

「負ける気はしない」

俺は笑った。

「どうやる?」

「ああ、エルフの遺産を使う」

 そういうと、俺は袋の中からヌッとMG42を取り出した。

「これは毎分千二百発の魔法の弾を発射することができるエルフの遺産だ。

 これで、相手をする。

 この武器の射程は約千メートル。

 馬でここまで来るまでに、穴だらけになるだろう。

 まあ、今回の魔法はスタン系の魔法にするけどね」

「大丈夫なのだな?」

「ああ、大丈夫」

 俺の言葉にメラニーが頷くと、子爵のところに行ったようだ。

 子爵たちも俺たちを放って、馬で逃げ始める。

 陣幕だけが残り、俺たち二人だけになった。


 数千対二人かぁ。

 俺……何やってるんだか……。

 まあ、最悪メラニーは生かさないとなぁ……。


 既に兵が居ないことに気付いたソレフテ王国の兵たちは追撃を始めていた。

 中央奥に居る白馬に飾りをつけた女が将軍らしい。


 銃身を振り、弾をバラまくように射撃する俺。

 ボルックスはその音にも動ぜず、すっくと立っていた。

 俺を目指して突撃してくる兵士たち。

 しかし、その勢い絶えてしまう。

 そして、ヒトラーの電気ノコギリの音がしなくなった時には突撃してきた者の中に動ける者はほとんど居なかった。


 魔法使いの部隊と弓の部隊が前進してくる。

 しかし、遠慮せずにMG42を撃つ。

 射程が違うのだ。

 こっちは最長で二千メートルはある。

 それも体高のあるボルックスの上からだと視野も開ける。

 魔法使いと弓部隊が潰れると、残るのは女将軍の部隊のみ。

 ライフルのように構え、単発で射撃をすると、崩れ落ちる護衛。

 何が起こったのかわからない騎士たちがオロオロしているうちに、残りは女将軍一人になっていた。

「メラニー、どうする?」

「どうもこうも、アキトは化け物か!」

「俺のせいじゃない。この世界に合っていない武器のせいだ」

 剣と魔法の時代に、魔力を使っているとはいえ銃器だからなぁ。

「さてと、女将軍は捕虜にしちゃおうか」

 俺が言うと、

「もうどうにでもすればいい。

 数千の兵士を潰すのだ。

 私がどうこう言えない」

 とメラニーが呆れている。

「じゃあ、捕まえてくる」


 俺とボルックスは将軍に近寄る。

 そして、威圧を使うと女将軍の馬が棒立ちになった。

 拍車を入れて走らそうとするが、いうことを聞かない。


 だったら……。


 俺は手綱を分捕り引っ張る。

 すると当たり前のように馬が俺に従った。

 馬から飛び降りる女将軍。


 重い鎧も着てるのに、ケガするだろ?


 案の定、ケガをしたようだ。

 俺はボルックスから降りると、女将軍をひょいと抱え上げ、治療魔法を施した後、白い馬を連れメラニーのところに戻るのだった。


「どうするこれ?」

「これとは何だ! これとは!」

 後ろがうるさいが、メラニーは無視している。

「兵士たちは?」

 メラニーが聞く。

「しばらくしたら起きるだろ?

 この女が居れば戦争が無いのなら、連れて帰るが……」

「好きにすればいいと言っておいてなんだが、捕虜にすればいろいろ面倒な事が起こりそうだ」

「ああ、確かに裸に剥かれたり、犯されたりするかもなぁ……」

 俺の一言に、メラニーも後ろの女将軍も凍り付く。

「よくそんなことが思いつくな」

「えっ定番だろ?」

「捕虜は金になる。

 だから、丁重に扱うはずだ。

 相手国に返したら、姫が傷物だったなんてあったら、国総出で攻めてくる」

「んー、何かゴメン」

 俺はメラニーに謝った。

「でもアキトが……、そんなことを望むなら……、わっ私としては気にはならない」

「じゃあ、帰ったらだな」

「ああ」

 メラニーは顔を赤くして頷いた。

 女将軍を降ろすと、

「私を無視して、色恋の話をするんじゃない!」

 と怒っていた。

「アンタ、一応捕虜だからね。

 兵士を殺さなかったのは、俺の気分。

 本来は、このように穴が開く」

 地面にMG42を打ち込むと、土が爆ぜ小さな穴を作っていた。

「お前は、なぜそこまで強いのに、このような騎士の従者として居る?」

「このようなと言われても、メラニーは俺の妻だし。

 従者なのは……んー、野望が無いからかなぁ。

 自分の周りに好きな女が居て、村人が居て、食うに困らずやっていけるならそれでいいかなと……」

 俺は頭を掻いていた。

「まあ、剥かれて犯されるようなことは無いだろうけど、捕虜になるのは嫌だろ?

 もうしばらくすれば、アンタの部下たちは目を覚ます。

 だから、さっさと帰ってくれ」

 馬を返すと、ボルックスの背に乗った。

「この国はどうでもいいんだ。

 でも、もし、俺の周りの誰かが傷つけられたら、遠慮せず一人でアンタの国まで行く。

 そのつもりで攻めてくるように。

 メラニー、帰るぞ」

「えっ、ああ」

 女 将軍を一人残し、俺とメラニーは戦場を離れた。


 合流場所に向かうと、子爵が待っていた。

「今、兵士に様子を見にやらせたところだ」


 見られてはいないということか。


 休憩していると、兵士が戻ってきたようだ。

「撤退しているだと?

 何があった?」

「わかりません。

 すでに峠に向かって逃げています!」

「撤退する理由がわからない。

 何か知らないか?」

 メラニーに聞く子爵だったが、

「私もわかりません。

 急に踵を返し、去り始めました」

 とメラニーも報告する。

 結局は「何か向こうの国内であったのだろう」ということになり、数日間の待機の後、解散となった。

 上に報告に行く子爵。


 こちらから追撃しなくて良かったぁ。


「あー終わった」

 ボルックスの鼻筋を撫でると、気持よさそうにする。

「良かったのか?」

「何が?」

「ほぼアキトの功績だ」

「いいのいいの。

 下手に持ち上げられるよりは、村でのんびり生活するほうがいいかな」

 ひらひらと手を振り答えた。

「本来は、アキトが騎士になればいいのに」

「剣の技術などないから、今のままでいいよ」

「欲が無いな」

「欲はある。

 皆と一緒に暮らせればいい」

 俺は女将軍に言ったことをメラニーに言うと、

「そうだな」

 と頷いていた。


 貴族たちはバラバラになって去っていく。


 俺たちだけになった所で、ケッテンクラートを出し、馬を曳いて帰るのだった。

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