招集
この国は、ビルヘルミ王国。
メラニーはフルネームでメラニー・ホフマン。いっちゃん下の騎士爵。
まあ、それでも国に忠誠を誓っている訳で、戦争があれば駆り出される。
王国からそんな手紙が来た。
ソレフテ王国から侵攻があるらしい。
ソレフテ王国とは国境が接しているらしい。
向こうは平地が多く穀物も多いため、兵糧が多く兵士も多いと言うことだ。
逆に我々の方は兵も少なく弱兵。
たまたま、峠が天然の要害となり、相手を自国に入れることが無かっただけという。
ノルマの人数としてはメラニー本人と従者一人。
戦場までの費用と食料は自前らしい。
ちなみに、従者は俺が行くことにした。
ドリスにベルトラン、オレゴルに村を任せ、俺とメラニーはケッテンクラートでメドナスに向かう。
「ボルクスは居る?」
そう、ボルクス商会に立ち寄るためだ。
「アンタか……。
この前の分は村に納めたはずだが?」
「いや、そういうのじゃなくて、馬が欲しいんだ。
俺は従者だからこれでいいんだが、メラニーは騎士だから馬が要る。
馬に乗らない騎士なんて居ないだろう?」
「そう言えば、ソレフテが攻めてくるって言っていたな」
顎に手を当てボルクスは言った。
商人だからか情報が早い。
「ちょっと待て」
ボルクスは上着を取ると、
「乗せてもらうぞ」
とケッテンクラートの後ろに乗る。
「この道をまっすぐ行って門の手前を左に行けば馬市をやっていた」
ボルクスの言う通りにケッテンクラートを進めると、そこには多くの馬が居た。
既に馬は売れているようであまり残っていない。
ボルクスは、
「こいつらに馬を都合できないか?
売れ残っている奴でいいやつが居れば……でいいんだが」
と、馬売りに聞いた。
「居ることは居るんですけどね、馬が認めないんですよ。
私でさえ主人としては認められていません。
餌をくれる者ぐらいにしか思っていないんじゃないですかね?」
「その馬はどこに?」
「あいつはほかの馬と一緒にしておくと、頭になって率いてしまうので、別のところに居ます。
体格が良く力があるということでで手に入れた馬ですが、買ってもらえる者が居ないので大損ですよ」
そう言って、別の場所に馬売りは歩き始めた。
俺は低速でそれに合わせる。
すると、柵に仕切られた場所に到着した。
某世紀末覇者が乗っていそうな大きい馬に、それよりは少しだけ小さい馬。
俺を見るなりその二頭が頭を下げた。
大きいほうにボルックス、小さいほうにカストルと名付けた。
「えっ、なんで、このお方に頭を下げる?」
馬丁が驚くのを見て、
「まあ、それだけこいつが強いって事なんだろうなぁ」
ニヤニヤと俺を見るボルクス。
「で、いくらなんだ?」
ボルクスが聞くと、
「ボルクスさんの商会なら仕入れ値で。
大きいほうが金貨三十枚、小さいほうが金貨二十五枚で」
馬売りはボルクスに行った。
「お前、金はあるのか?」
ボルクスが俺に聞いて来たが、
「あんたに払ってもらった金があるからね」
ニヤニヤしながら俺が返すと、
「あれがあるならはした金か……」
と笑っていた。
結局二頭とも購入。
馬具も付いていた。
ケッテンクラートを仕舞うと、馬に乗り換える。
メラニーは少し小さいほう。
俺は大きいほうになった。
俺、馬に乗ったことなんかないんだがなぁ……。
そのあと、大量の飼い葉を買い付け、カバンに仕舞う。
それまでの手続きをしてくれたボルクスに、
「助かった」
というと、
「あんたが生きて帰ってこなきゃ、俺が儲けられないからな」
と言って笑っていた。
疲労を考え、俺とメラニーはケッテンクラートで、馬には人を乗せずに曳いて走る。
そして、集合地である、カヤーニ平原を目指した。
カヤーニ平原はビルヘルミ王国に抜ける峠の手前にある平原。
比較的広い平原だが誰も手を出していない。
畑にすれば、大穀倉地帯になりそうだがな……。
メラニーに聞いてみると、
「夜は魔物が多い、だからあまり人が手を出さないらしいな」
とのこと。
フォントラス村から近ければ、開墾してやるのに……。
三日後、平原の直前でケッテンクラートを仕舞い、馬に乗る俺たち。
俺の馬は俺の言葉を聞くとそれに従い動いてくれた。
お陰で落馬などは無かったが、尻が痛かった。
「メラニー・ホフマン、要請によりまかり越しました」
受付のようなところにメラニーが声をかけると、
「第一騎士大隊のイェーガー侯爵のところに行け。
あっちだ」
と馬が集まる場所を指差された。
俺とメラニーが連れる馬が大きすぎるのか、遠目に兵士たちが俺たちを見る。
「第一騎士大隊はこちらでよろしいでしょうか?
メラニー・ホフマン、指示によりこちらまで来たのですが……」
更に中隊長のケールと言う伯爵の元へ回され、そして最終的には小隊長のシュタール子爵。
の下に付いた。
しかしシュタール子爵がまだ来ていない。
仕方ないので、国の支援を受け待機するのだった。
国の支援を受けるのはいいがメシマズのうえに冷えているときた。
支給されたテントもカビ臭い。
俺はエルフの基地から手に入れたテントを使うことにした。
魔法で空調が効いているため、湿度などを気にする必要はない。
毛布で十分寝られた。
夜間など、内部で照明を点けても外には漏れない。
便利である。
空気中の水分を水にしてくれる水筒も役に立った。
後はカバン内の食糧で過ごす。
ボルックスにカストルも国が準備した飼葉が嫌らしく、俺が持ってきた物を食べる。
二日ほどの後、子爵が現れ、四日で足並みがそろう。
そして、峠の出口に進軍するのだった。




