ブレワルスの街
小回りが利くケッテンクラートにドリスとベルトランを乗せて森の中を走る。
エルフ二人を連れてきたのは、ベンドルト基地でドリスが触ると隠された通路が見つかった事もあり「エルフのモノはエルフに反応する」と考えたからだ。
エルフ以外を拒絶しているのなら、俺じゃ反応しないだろうしな。
マップを見て現地に到着したが、そこには山。
エルフのスマホで街の外観を確認するとドーム状なのがわかった。
山……ドーム。
ああ、これね……。
元々道だったような窪みを見つけると、俺は魔力を使い、道に沿って土を除去してみた。
除去した土が小山のようになる。
「ご主人様。
相変わらずですね」
ニコニコしてはいるがベルトランの声音にヤレヤレ感が漂う。
「でも、これがアキト」
ウンウンと頷くドリス。
谷を作るように土を除去していくと、金属っぽい外殻が現れた。
よく見ると、全体的に土が二メートルほどの高さで積もっていることがわかる。
すげえな、外殻がこの圧力に耐えていたんだ。
結構な重さが全体にかかっているような気がする。
外殻に沿って土を除去すると、扉が現れる。
高さが五メートル横幅五メートルほどの大きな扉が現れた。
武骨ではあるが頑丈そうだ。
扉の横には端末のようなものがあり、そこは黄色に輝く。
生きているらしい。
「手を置け」
という表示がある。
俺が手を置くと「ブー」という警報音が鳴り拒否される。
ドリスが手を置くと「ピン」と音が鳴り、ズズズズと引きずるような音がして、扉が開いた。
やはりエルフのみか……。
何か遺伝子的な情報を使っているのだろうか……。
中に入ると、土で覆われているはずなのに空がある。
いや、照明か……。
LEDライトのような物が全面を覆っており、輝いていた。
換気はされているようで、カビ臭いようなことは無い。
道を歩いていると信号のようなものがあり、ちゃんと動いていた。
店先にはマネキン。
高さはそれほどではないが前の世界と同じように四角いビルが並ぶ。
当時流行の服が飾られているのだろう。
チラチラと俺を見る二人に、
「好きなところへ行ってこい。
ただし二人で行動すること」
そう言うと、走るようにして店の中に入って行った。
まあ、女の子と見た目は女の子。
可愛い服が気になるのだろう。
街の中を歩いていると、大豆と麦のマークがついた大きな建物。
農協?
ってことは。
見たことがあるトラクターや運搬機、コンバインが何台も並んでいた。
売られる予定だったものなのかもしれない。
何かスタンドのような物に繋がれている。
運転席を見ると魔力が満タンであるのか緑に輝いていた。
これが充電……充魔器っぽいもの……。
本来はこういうもので魔力を補給して、使用しているのか。
確かにエルフと言えども魔力が無限な訳じゃない。
ってことは、現場で魔力を補給する何かもあるかもしれない。
そう思って中を色々調べていると、小型のタンクローリーのようなものが並んでいた。
そのローリーには魔力の残量計のようなものがあり、コンバインやトラクターがつながっているものと同じノズルのようなものがあった。
ああ、これが魔力のタンクなのだろうな。
魔力切れの場合はこれで行って補給をするのだろう。
俺はタンクローリーをカバンに仕舞った。
トラクターは後ろに歯があり、土を掻き起こすようになっている。
コンバインには、前に掻き上げ機があり、歯で切る。
そして、内蔵されたドラムで籾を落とし、グレンタンクに溜まる構造。
背後から麦わらが放出されるようになっていた。
見たことある物とそう変わらない。
更に探すと、大型の冷蔵庫。
中には小麦粉と書いた袋。
中を見てみると、すでに変色している。
裏には野積みになった紙袋。
肥料と書いてあった。
トラクターとコンバイン、運搬車、フォークリフトに工具、油脂類、肥料、鍬や鎌などの農具、んー、ここにあるの全部欲しいな。
そんな事を考えていると、
ん?ああ、この設備ごと貰えばいいのか……。
という思いに至った。
俺は農協の区画を思い浮かべ収納袋に押し付けると、その一画の建物が全てなくなる。
思い通り。
カーディーラーのような場所もあり、七人乗りのラン〇ルのようなRVや低重心のスポーツカーのような物もあった。
おっと、バスっぽいのまであるね。
見た感じスクールバスのようなものがある。
更には、農協にあったタンクローリーがここにもあった。
ディーラーには工具もある。
ボルトナットは、見たことのある六角形。
工具は綺麗に並べられており、いつでも整備可能。
魔力で駆動するインパクトレンチのような物が引っかかっており、
トルクレンチっぽいまであった。
おっと、オイルもある。
どこの潤滑に使うのかね?
あとでマニュアルでも探してみるか……。
こいつも区画ごとイタダキだ。
カバンに入れる。
他にも色々歩いてみた。
看板からしてパン屋のようなものもあった。
陳列されている物は既にパンではなくなっていた。
窯は……魔力?
「薪オーブンで自然な味!」と入り口に貼ってあることを見ると、薪らしい。
ちょっとしたデパートのようなものもある。
デパ地下生鮮食料品は……まあ、ダメだね。
冷蔵庫や冷凍庫のような物は生きているようだ。
二階を覗いてみると、服飾系もあったがさすがに実用性が乏しいものもあった。
この辺でいいか……。
デパートを出て歩き回ると、大きめの陳列棚が並ぶショップ。
そこには、一糸まとわぬ姿の獣人や人間、ドワーフの写真。
まさか、奴隷を売る店?
「頭に処置をしていますので、あなたのいう事を必ず聞きます」とのこと……。
首輪や服、リードが陳列されていた。
程度がどうかはわからないが、今人間がやっている事をエルフもやっていたようだ。
結局歩き回ったが、人の気配だけでなく生き物の気配さえなかった。
死体さえない。
基地では白骨死体が残っていたのに……。
何かの関係で逃げたのかね? それも物を回収する間もなく。
別の道からカーディーラーがあったあたりに戻っていると、貴金属店らしきものを見つけた。
白銀に輝く指輪が置いてある。
区切りにはこういう物も必要。
向こうでは渡すこともなかったが……。
赤や緑、青のジャケットを着る大泥棒の気分で、その貴金属店にあるものを全てカバンに入れるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字の指摘、大変助かっております。




