詰所への報告
俺はハーフトラックを走らせる。
開けた窓に左腕を置き、もたれたようなトラッカーの運転手スタイル。
そんな俺をメラニーはじっと見ていた。
「アキト殿。
結婚というのに興味はあるか?」
メラニーがいきなり俺の方に身を乗り出しての、いきなりの質問。
「えっ、ああ……」
一瞬、圧に焦ったが、
「知ってるだろ?
既に二人ほどしている。
興味が無いわけではない」
と言った。
「あっ、いや、そういうわけじゃなくてな。
人間との結婚というのは考えたことはあるのか?」
「そうだなぁ。
ちょっと前には結婚を考えた人間は居たが、俺の方が振られた。
最近、俺の周りに居たのがドリスとオレゴルで、人間はいなかったからな。
流れで今の状態かな。
流れと言ってもあいつらを大切に思っているのは間違いない」
「人間に興味が無いわけではないのか……」
ホッとしたようなメラニー。
「どうした?」
と聞くと、
「ああ、こっちのことだ」
メラニーがうそぶく。
「それにしても、なぜメラニーはこんな仕事を?」
「……出稼ぎだ」
言い辛そうに言った。
「出稼ぎって、どういう事だ?」
「一応私は騎士爵を持っていてな。
小さな村を任されている。
しかし騎士爵を維持するために、国に税金を納めなければならない」
「いくら?」
「年間で金貨六十枚だ。
我が村には収入が少ない。
だから、村から街に出てきて街の衛兵の仕事をしているのだ。
村の者も頑張っている。
そんな者たちに無理を強いる訳には行かない」
メラニーはいい領主らしい。
「そうだったのか」
「正直、アキト殿が貰ったギルドの報酬が羨ましかった。
私の場合は何があっても日割りだからな」
それでゴブリンに突撃できる心意気が凄いな。
「そこでだ」
「ん?」
「私を貰ってもらえないだろうか?」
俺は急の申し出に、キッとハーフトラックを止めた。
メラニーが前につんのめる。
「びっくりしたぞ?」
メラニーが苦笑い。
「いきなり変な事を言うからだ」
俺はメラニーに言った。
「それにしても何で?」
「アキト殿は優良物件だからだ。
考えてもみろ、十組や二十組のパーティーでは討伐できないゴブリンの群れを殲滅するようなパーティーのリーダーだ。
あの二人の手伝いがあるとはいえ、あの中で一番働いていた。
それに、私も助けてもらったしな。
命の恩人に返す恩が無くて困っていた。
だから私の騎士爵と村をやろうかとな。
結婚すれば騎士爵を夫に譲ることができる。
必然的に、村も付いてくる。
アキト殿であれば、この国で成り上ることができよう。
エルフも獣人も我が村に住まわせばいい」
恩を押し付ける気かね?
「で、メラニーは俺の事どう思ってる?」
「こんな薹が立った女など価値はないだろ?
それに見ろ、この筋肉。
男は柔らかい女に惚れるのではないか?
だから、私のことはいい」
「そう言うんじゃなくて、気持ち。
メラニーの気持ちが知りたい」
すると、
「白馬に乗った男が私を助けに来てくれるなんて夢を持っていたんだ。
なぜ今なんだ?
なぜ今アキトは現れた?
こんな、手も剣ダコでごつごつしていて、体も筋肉質。
村の者と農作業をして日に焼けて黒い。
あるのは身長だけ」
「ふむ……。
報告は付き合う。
その後、宿に戻るぞ」
「えっ?」
「俺の宿に行くの。
メラニーの申し出は俺だけで決められないだろ?」
「ああ……わかった」
詰所に行くと、偉そうな男が出てくる。
「生きて帰ってきたのか」
最初の言葉がそれだった。
「ここに居るアキト殿のパーティーのお陰でゴブリンを殲滅することができました」
「そうか、ご苦労。
で、馬は?」
「ゴブリンにやられました。
支給の馬を失ってしまい申し訳ありません」
頭を下げるメラニー。
「お前、あの馬がいくらするのか知っているのか?
金貨三十枚だぞ?
一日銀貨十枚で日雇いのお前の三百日分だ。
どうする、この始末」
「申し訳ありません」
メラニーは頭を下げ耐える。
「詰所って、任務遂行してきた者に対してこんな感じなんだな。
一応成功したのに『ご苦労』で終わり。
馬一頭なんて、村がなくなるよりいいと思うんだが。
ここの人って、村よりも馬が重要?
土台無理なんだよ。
千を超えるゴブリンに騎士一人と意思疎通もできないような冒険者で戦いを挑めなんて」
「俺を侮辱するか!」
「侮辱も何も本当だろ?
『斥候で情報を仕入れて来い』というのならまだわかる。
しかし『戦え!』と言う命令は『死にに行け』というふうにしか聞こえない。
メラニーは命令通りに死にに行ったけどな」
今の境遇から逃げたかったのかもしれない。
俺は金貨三十枚を男の目の前に投げつけた。
「これは衛兵だから受け取れなかったメラニーの分。
これで馬代はチャラだな。
ついでに、メラニーはここをやめろ。
金なんて要らんよ。
お前は俺が養ってやる」
「衛兵の契約を破棄すれば、今までの給料は出んぞ?」
「そんなもの貰わなくても、俺が養うんだ。
要らん!
そこのオッサン、メラニーは連れて行く。もう行っていいか?」
「さっさと連れて行け!
そんな堅苦しい女、俺も困っていたんだ!」
俺はメラニーを引きずるように連れて行きながら、
久々に熱くなった。
売り言葉に買い言葉なんだろうな……。
と考えていた。
まあ、俺はスッキリしたからいいか。
メラニーはと……。
俺は再びハーフトラックに乗る。
真ん中の席に乗り、俺の袖を引っ張るメラニー。
「ん?
どうした?」
「養うって言った」
「言ったな」
「いいのか?」
「売り言葉に買い言葉って奴だろう。
嫌ならやめるが?」
「それは……。
嫌じゃない。
でも、私は二十二。
若くはない」
ふむ、どうもこの世界の人間の寿命は短いようだ。
昔の結婚が十代だったことを考えると、二十代でも遅いのだろうな。
「ドリスっていくつか知ってるか?」
「えっ、エルフは長寿だ。
三十代?」
「いいや、七十三だ。
ちなみに俺が四十越え。
そんな俺が、ガキだって言われたよ。
オレゴルは神だって言ってたから、いくつなのやら……」
メラニーは唖然としていた。
「だから『小娘が何を言っているんだ』って言っておこう。
体がデカいと言っても、俺よりは低いしな。
筋肉がついていたって、ちゃんと胸はあるようだ」
俺は左手で鎧の隙間からメラニーの胸を揉む。
「きゃっ」
「ちゃんと肉もあるようだしな」
次は尻を揉む。
「にゃっ」
体を捻り涙目のメラニー。
「おっと、悪かった。
でも、ちゃんとあるところはあるし、メラニーは美人だと思うぞ?
どうでもいいのなら触られて隠す必要はないと思うが?」
「…………」
メラニーは無言になった。
俺は運転を続ける。
「良いのだな?
私で……」
メラニーは体を預けてきた。
鎧が体に当たる。
「ん?
ああ、いいぞ?
ただ、二人居るがね」
「そんなことは問題ない。
貴族の世界で妻が数人いるなど当たり前だ。
気にもしない」
「なら、あとはあいつら次第だろうな」
俺はアクセルを踏み、宿に戻るのだった。
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
ファーストコンタクト(ベルトラン)を追加しています。
戻って読んでいただけると幸いです。




