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あいつの強さ

「何でこんなところにゴブリンが」

 メキメキとゴブリンを踏みつぶしながら走る俺のエルフの遺産。

 これを手に入れてからは荷物の運搬量も格段に上がった。

 それとともに売り上げも上がる。

 エルフが居ないと動かせないという短所もあるが、それを補って余りある能力。


「会頭、これではゴブリンに囲まれてしまいます」

 エルフの奴隷の一人が儂に言う。

 ワラワラと湧いてくるゴブリン。

 森の木の上から、こちらの荷台に飛び乗ろうとしてくる。

 そんなゴブリンに包囲されてしまえば、いくらエルフの遺産と言えどもどうにもならない。

 数の暴力にやられ、街道に転がっていた形なき遺体に俺たちがなってしまうという事実。

「そんなことはわかっている。お前らも気張って魔力を入れろ。でないと次の村までに追いつかれるぞ!」


 しかし、まともに魔力が残っているエルフは残り一人。持つかどうか……。


 森林を抜け周囲が開けると、村の入り口が見えてきた。

 この村は街になりきれなかった村。魔物が多いせいで大きく発展できなかった。しかしそのおかげで、下手な街よりも高い外壁がある。

 しかし、その扉は閉じられようとしていた。


「待てー! 儂らを入れろ!」

 その声が聞こえたのか、扉が止まる。

 そして、その隙間をすり抜けるようにエルフの遺産をねじ込むと、すぐに扉が閉められた。

 数匹のゴブリンが扉に挟まれて青い血をぶち撒いて死ぬ。

 外で、いくつかの「助けてくれ」の声は聞こえたが、すぐに静かになった。


「ギリギリだったな……」

 ホッと一息つく儂。

 しかし、このゴブリンの包囲が続けば、そう大きくない村だ、飢えてしまう。


 レースとかそういう状況じゃなくなっちまったな。

 あいつはどうしたんだろうか……ゴブリンに殺されたって言うんなら助かるが、あの速さなら、もう街まで走り切っているかもしれない。

 この遺産もエルフも取られちまうかもなあ……。


 エルフの遺産を運転し宿に止めると、エルフたちを一部屋にまとめ休憩させることにした。こいつらの魔力を回復させないと、いざ逃げようにも逃げられない。


 冒険者ギルドに行くと、ギルド職員の顔色が悪い。

「メドナスに救援を求めに行っていますが、それが来るかどうか……。この大きさの群れをどうこうできるのかどうかもわかりません」

 悲壮感が漂う。


 儂の命運もこれまでかね?


 そんな事を考えながら、その日は宿屋で休むことにした。


 次の日起きたときには、すでに多くの冒険者が治療を受けていた。

 夜襲があったらしい。

 治療ができる冒険者も少ないようで、軽傷者は放置されていた。


 さて……ギルドに恩を売るなら今だろう。

 ここから街まで、エルフが二人も居れば遺産は動かせる。


 エルフたちが寝る部屋に行くと、すでに起き出していた。

 魔力量が少ない二人に、

「お前とお前! 治療魔法で冒険者を治療するんだ」

 と指示を出す。


 冒険者には頑張ってもらわんと……。俺はこんなところじゃ死にたくない。


 二人のエルフは儂の指示に従い、傷ついた冒険者の治療を始る。

 冒険者たちの傷が癒え、前線へ戻っていく。

 冒険者たちはエルフに礼を言っていた。

 そして、この日、何とか村は耐えきった。



 朝になる。

 エルフの魔力が無限というわけではない。

 冒険者たちも疲労により動ける者も少なくなっていた。

 治療魔法は疲労を回復できないのだ。

 冒険者たちはよく戦っているが、数が減り、絶望感が漂う。


 こりゃ、本格的に生きて帰れそうにないかもな。


 そんなことを思っていると、急に壁の上の冒険者が色めき立った。

「なんだ? ゴブリンが倒されていく!」

「誰も居ないのに……。どんな魔法なんだ? 音なんてしやしない!」

「村に取り付こうとしているゴブリンが倒されていってるじゃないか!」

 塀の上に俺は上がった。

「エルフの遺産に乗って誰か来る。

 あの上から何か魔法を使っているのか!」


 勝てるかも……。


 皆が思っただろう。しかし、「ウォー!」という雄たけびが聞こえると、巨大なゴブリンが現れた。儂も見たことは無かったが、あれが「ゴブリンキング」なのだろう。

 エルフの遺産からの攻撃はゴブリンキングが持つ盾に阻まれた。


 儂らの希望はついえたか……。


 と思ったとき、エルフの遺産の荷台から、誰かが下りてきた。

「えっ、あいつじゃないか」

 儂は驚いた。

 儂とレースをしているあいつだ。

 人間がキングと戦って勝てるはずがない。何十人の騎士で囲んで、痛めつけ、弱らせてから倒すのが当たり前の相手なのだ。その時死ぬものも居ると聞く。

 一人で戦える相手じゃない。

 土台無理なのだ。


 あいつは光る剣を取り出すと、キングと戦い始めた。

 キングの攻撃をかいくぐり、キングに攻撃を仕掛ける。

 ヴン……とあいつの剣が唸った時、キングの盾ごと手首が切れた。

 青い血が噴き出す。

 勝てないと思ったのか、キングはエルフの遺産に向かう。

 しかし、あいつは魔法を使い、キングの首を飛ばした。

 頭が飛んだことに体は気付いていないのか、三歩ほど歩いて、ズンと重い音をさせ、キングが倒れるのだった。



 村の周りのゴブリンを駆逐するあいつ。

 そのあとはお祭り騒ぎ。

 あいつはなぜか門の前で「危険が去った」ことを言うと、エルフの遺産で去っていく。

 儂はそれをじっと見ていた。



 負けだな……。レースだけじゃなくて、器の大きさでも……。

 命を助けてもらっちまった。

 あいつと組めば、俺はもっとでかいことができるかもしれない。

 それがわかっただけでも、俺のエルフの遺産とエルフたちを取られても余りあることだ。

 俺は、あいつを使う。あいつを使って大きくなる。

 まあ、それには、メドナスに行ってあいつと話をしないと……。


 儂はエルフたちを集めると、お祭り騒ぎの村を出てメドナスに向かうのだった。


 しかし、エルフの遺産とエルフ四人かぁ……、痛えなぁ……。


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