情報収集……じゃないな
しばらく走ると、荒れ地にゴブリンの黒い群れ。
千以上と聞いていたが、数で言えば二百ほど。
ボルクスが見当たらないことを見ると、まだ先らしい。
見つけた瞬間剣を抜きゴブリンに向かって攻撃し始めたメラニー。
「バカ!
前へ出過ぎ」
俺はメラニーの馬の方へケッテンクラートを進めた。
ハンドルで軽機関銃を支え「ヴン」と連射音をさせると、ハチの巣になった三匹のゴブリンが死ぬ。
オレゴルも突撃銃を連射してゴブリンを倒していた。
数の暴力で押されるメラニーは既にゴブリンが取りつき、身動きができない。
今にもメラニーを引きずり降ろそうとしていた。
「何やってるんだ。
勝手に前に出るから」
軽機関銃を撃った。
馬にへばりつくゴブリンを馬ごと殺す。
ケッテンクラートで近寄ると、片手で持ち上げ運転席の後ろに押し込んだ。
「接近戦じゃ数の少ない方が不利だ。
お前は死にに来たのか?
『情報収集だけでも……』と聞いている。
まずは遠巻きからでもいいんだよ」
「我々が抑えることができれば……」
「バカだろお前。
数千相手に五人しかいないんだ。
様子を見て狩る程度でいい。
俺たちの情報で兵力を動員すればいいじゃないか」
「しかし、私は騎士。
街を守る仕事がある」
こいつ……。
「頭が固い。
守って死んでどうする?
このまま突っ込んで死んでもただの無駄死にだよ。
情報を持って帰ってこそだろ?
誰だ、こんな奴をよこしたのは」
「私は騎士。
民を守るのが仕事」
何を考えてるんだか……。
こいつイノシシか?
「俺だったら、誰も死なない事を考える」
そう言うと、
俺は軽機関銃の引き金を引き毎秒二十発の発砲を始めた。
魔力の弾丸をばらまき続ける。
銃口を動かし薙ぎ払う度に、ゴブリンの青い血液が飛び散る。
弓矢や魔法が飛んでは来たが、ドリスが魔法で弾いた。
すると、通常のゴブリンの倍の個体が現れる。
それでも顔を狙って軽機関銃を撃つとレンコンのように顔に穴が開いて倒れた。
俺はゆっくりと前進。
後方はオレゴルに任せる。
暫く薙ぎ払い続けると目に見えてデカいゴブリンが現れる。
「キング!」
とメラニーが指を差し叫んだ。
いや、それよりは弱い気がする……。
「ドリス」
と言ってデカいゴブリンを指差す。
ドリスは対物ライフルを出し、頭を狙い定めて撃った。
眉間に弾が当たると後方に脳漿が噴き出し、デカいゴブリンは崩れるように倒れるのだった。
この個体がこの部隊の部隊長だったらしく、倒した後にはゴブリンが散り散りに逃げていく。
「お前たちの武器は……」
メラニーが俺に聞く。
「エルフの遺産だよ。
便利に使わせてもらっている」
「人間がエルフ並みの魔力を?」
再び聞くメラニーに、
「んー使えるからなぁ……」
と頭を掻く俺。
「どうしたの?」
ドリスが、俺に聞いてきた。
「俺はエルフの遺産が使えるだろ?
だからメラニーが不思議だって……」
ドリスは俺を見ると、
「アキトは私の何百倍も魔力を持っている。
当たり前」
えっ、そうなの?
驚く俺を見て、
「主は知らなかったのかの?」
呆れ顔のオレゴル。
「魔力はあると思っていたが、倍数までは知らなかった。
本当に?」
はあ……とオレゴルはため息をつき、
「何百よりももっと上かもしれんな」
と言った。
何百じゃなきゃ何千か?
メラニーにその辺の事を話すと、
「お前は化け物か?」
驚いたのか素で言う。
「みたいだね。
でも、気付いたときにはそうなっていたんだ、仕方ないだろ?
しかし、そのおかげでメラニーが助かったのも事実」
「そうなのだが……」
そう言ってメラニーは俯く。
「さて、メラニーさん。
次はどうする。
街に帰るか?」
「いや、お前たちの力があれば、ゴブリンも殲滅できる。
このまま放置しておけば、街に被害が出るのは間違いない」
「俺はボルクスを捜さないといけない。
そうしないと賭けが成立しないからな。
エルフの遺産とエルフ四人ってのは、賭けの対象として大きいんでね」
俺は振り向いてメラニーを見ると、
「どうかしたのか?」
という質問に、
「役に立たないから街に帰るか?」
と返した。
「えっ」
驚愕の表情。
「だって、座ってるだけじゃん
今は、このエルフの遺産の重しにしかなっていない」
三人乗りに四人も乗れば狭い。
「私だって剣で突っ込めば……」
「俺が撃ち殺しておいてなんだが、馬が居ないアンタに何ができる?
さっきみたいに囲まれて殺られるのがオチだろ?」
「もし何もできなくとも、お前たちが何をやったのか……ゴブリンの部隊を一つ殲滅したという証明はできる」
涙目のメラニー。
居させろということかね?
「そんなのは要らないんだけどなぁ。
俺的にはボルクスさえ助けれれば……」
俺は頭を掻いた。
俺の袖を引っ張り、
「アキト、時間がもったいない」
ドリスが言う。
ふむ……。
俺はカバンの中からハーフトラックを取り出した。
「悪い、ドリスが運転してくれ。
オレゴルは一緒に助手席にいて護衛。
ドリスとオレゴルの間にメラニー」
ドリスとオレゴルが頷く。
「主は?」
のオレゴルの言葉に、
「荷台に乗って軽機関銃を撃つ」
俺は言葉を返すと、
「メラニー!
近くに村があればその場所までドリスを誘導してくれ。
身振り手振りで何とかなるだろう」
いきなり出てきたハーフトラックに唖然としているメラニーをオレゴルが引きずって中央の席に乗せる。
ドリスもケッテンクラートから飛び降り、俺に対物ライフルを渡すとハーフトラックの運転席に飛び乗った。
俺はライフルとケッテンクラートをカバンに仕舞うと、ハーフトラックの荷台に飛び乗った。
さらに大きくなったキャタピラーの音。
メラニーがドリスに指示を出している所を見ると、村へ誘導してくれているのだろう。
俺はゴブリンを見つける度に軽機関銃を発砲し片付けた。
しばらく走ると、低い外壁に囲まれた村が見えてくる。
そこには黒くゴブリンが群れていた。
ハーフトラックが止まる。
「主よどうするのだ?」
「ん?
殺るよ?
この位置でいいから止まってて」
軽機関銃をハーフトラックの銃座に取り付けると、ゴブリンを撃ち始める。
再び毎秒二十発の弾丸の雨がゴブリン達を襲う。
次々とゴブリンが倒れていった。
射程は二千メートルだったっけ?
まあ、それよりは近いが……。
気付いたゴブリン達がこのハーフトラックを目指して走るが、たどり着くまでに、蜂の巣になり転がってっていた。
本来のMG-42であれば弾薬を撃ち切れば終わりだが、魔力の弾を撃つこの軽機関銃ならば使用者の魔力を使い切るまでは撃ち続けることができる。
俺は超巨大な弾倉なのだ。
そして、この軽機関銃は熱対策もされているようで、焼けついた銃身を交換する必要もない。
撃ち漏らしたゴブリンも居たが、オレゴルが片手での射撃で潰していく。
しかし、ゴブリンの掃討ももう少しで終わる……という所で、
「グガァ」
という大きな雄叫びが上がると、残ったゴブリン達は一斉に俺たちの方を向いて走り始めた。
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
総合評価300超えていました。
私の小説に、ブックマークや評価していただきありがとうございます。
ファーストコンタクト(ベルトラン)を追加しています。
戻って読んでいただけると幸いです。




