新しい朝が来た
朝起きると、枕元にメイド服を着たベルトランが立っていた。
「まだ、俺の奴隷って訳じゃないから、そんな事をしなくてもいい」
と言ったのだが、
「メラニー様からアキト様……いえ旦那様が私を買い取る意思があると聞きました。どうせ、奴隷商人が来るまでの間は、暇を持て余してしまいます。旦那様の事を知り、旦那様の下ですぐにでも働けるように今からメイドとして働きたい」
と言って聞かなかった。
まあ、元々メイドにするつもりだったので、許可したのだ。
ん? 仕方ないでいいよな?
「おっ、おお……」
どう見ても女性にしか見えない。
結構パンチがあるな。
「私はこの姿に慣れていますので……。
ご希望であれば夜の相手も……」
ポッとベルトランが頬を染めた。
「無い無い」
と俺は否定する。
とは言えハリオートが言う意味も少しわかった気がする。
見事に女性を演じているのだ。
それも彼にとって理想の女性。
まあ、今はハリオートが求める女性像なのだろうが……いずれ俺が考える理想の女性に……。いかん、考えるのはやめておこうと思う。
俺の太ももが抓られる。
「むー」
と言ってドリスが俺を睨んでいた。
食事の間、ベルトランは俺たちの世話を甲斐甲斐しくする。
ベルトランは食事を別の時間にとった。
「このほうがご主人様のお世話がしやすいですから」
との事。
「じゃあ、ボルクス商会に行ってくる」
俺はドリスとオレゴルを連れて扉を出る。
すると、ベルトランは扉の外まで出てきて、
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
と言って頭を下げていた。
まっ、メイドってことで……。
キュラキュラとキャタピラーの音をさせながら、ゆっくりボルクス商会に行く。
物珍しいエルフの遺産に、街の者たちは俺を見ていた。
ボルクス商会の支店に行くと、獣人の店長が店の前に出ていた。
「ボルクスさんは?」
と店長に聞くと、
「まだ帰りません。
まあ、昨日出発したのであれば、早くても夕方でしょう」
と言っていた。
一日暇になったな……。
冒険者ギルドに行くことにした。
冒険者たちが集まり、ザワザワと話をしている。
聞くに、
「ブロウスの街からここに来る街道に巨大なゴブリンの群れが現れた」
との事。
おう、ボルクスが通る予定の道じゃないか。
「ゴブリンキングも居そうだ。
誰か、戦いに行ってくれる者は居ないか。
斥候で情報収集に行ってもらってもいい。
何か情報を持って帰ってもらえないだろうか。
最終的に成功すれば七千ポイントを山分けだ。
失敗しても減点は無い」
受付の向こうでギルドの偉いさんらしき獣人が叫んでいた。
ネコかな?
豹かな?
「失敗するってことは、死ぬってことだろ?」
「キングが率いる群れなら、千以上は軽く居る。
そんな群れを相手しようなんて馬鹿は居ないさ」
そんな事を言いながら、冒険者たちは去っていった。
そりゃそうか、皆命が惜しい。
俺もそうだ。
「お前、何で残った?」
残った俺たちに職員が目を向けた。
「ん?
出遅れただけだが、ちょっと賭けの対象がその辺を走っていてな。
助けに行ってもいいかと思った訳だ」
職員は少し考えると、
「それでもいいから行ってもらえないか?
無理だと思ったら帰ってきてもいい。
一報が入ってから何の情報も無いんだ」
縋りつくような目。
まあ、ギルドとしては魔物の情報が喉から手が出るほど欲しいのだろう。
「いいが、俺たち一組だぞ?」
「街の衛兵が出る。
その衛兵と共に行ってもらいたい」
ふと、メラニーという衛兵の小隊長の顔が浮かんだ。
「まあ、それでいいのなら……。
いいだろ?
お前ら」
ドリスとオレゴルを見ると、
「アキトが言うならいい」
「うむ、主が言うのならな」
ということで決まった。
「この依頼に依頼票は無い。
ここに帰ってきて報告してもらえれば、ある程度のポイントは加算しよう」
倒せば七千ポイントか……。
宿代も要らなくなるな。
ふむ……。
「衛兵たちとの集合場所は?」
「ブロウスの街側の入口。
すでに待っているかもしれん」
「冒険者ギルドのメンツって奴ね。行かなきゃ舐められるか……」
俺が呟くと、苦笑いの偉いさん。
「ポイントの加算、頼むよ」
俺は手を振ると、冒険者ギルドを出た。
入り口まで行くと、そこには馬に乗った騎士。
そして見たことがある顏。
フラグという奴か。
「隊長さん。
昨日の夜以来なんですが、寝ているのですか?」
俺が聞くと、
「それはお前に聞きたいな。
寝ているのか?」
と聞き返された。
「俺は寝てます。
こいつらと一緒にね」
俺が言うと、メラニーはドリスとオレゴルを見て赤くなる。
何を想像しているんだ?
寝たとしか言っていないんだが。
「冒険者ギルドから派遣されました。
よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「後ろから来ればいい」
そういうメラニー。
あくまでも隊長。
まあ、俺等は主従で言えば従の方なんだろうな。
「すぐに行くぞ」
そう言うと、メラニーは門を出る。
それに続いて俺たちもついて行くのだった。




