ファーストコンタクト(ベルトラン)
初めて見た。
エルフを対等に扱う人間。
あのエルフは彼を見るときニコニコしていた。
僕のように綺麗な服を着ている訳でもないのに、僕とは違った。
僕の主人……ハリオートは僕を買った。
僕が逆らえないように、隷属して魔法が使えなくなる指輪をつけられた。
僕はエルフ。人間より力は弱い。だから、逆らえなかった。
それから僕は僕じゃなくなった。
僕は綺麗な服を着せられる、男だと知ってるのに迫るハリオート。
そして、何も抵抗できず蹂躙される毎日が当たり前になった。
「誰かが助けてくれるかも」って希望。それはすぐに絶望に変わった。
それから十年以上。
希望を持つ気も無かったんだ。
そんな時に現れた人間。
僕とは違うエルフを連れた彼。
そのエルフは笑っていた。
僕にはなくなった感情。
ハリオートはあの笑うエルフを欲しがった。
新しいオモチャが欲しいらしい。僕にあのエルフを連れてくるように言った。
僕は精神に干渉する魔法が使えるから……。
エルフは体が小さい。だから狭い天井裏を進むなど問題ない。
彼が寝入るまで、音を立てず気配を消し、静かに待った。
その間も、エルフは自分から彼に抱き付いていた。
幸せそうな顔。
僕には無い顔……。
寝静まった彼たち。
気配を殺し、エルフに魔法が効きやすくなる薬を嗅がせようとすると、不意に僕の目の前が眩しく光った。
「やっ」
僕は思わず声をあげ、何も見えなくなってドスンと尻もちをついてしまう。
すると、
「アンタも苦労するな」
「大変じゃのう」
彼と獣人の声が聞こえた。
僕は居直って、
「今のエルフは狩られる存在。
隠れて里を作っても、そこに人間が来ればどうにもならない。
ほら、これを見て」
そう言うと鎖骨を見せる。
「この紋章がある限り、あの男からは逃げられない。
これがあの男の言うことを強制する。
何をされても耐えるしかない」
と言った。
本当は言ってはいけない言葉、僕の体を激痛が走った。
「で、何をしに?」
彼が聞く。
僕はこれ以上何も言えない。
「命令されておるのじゃろうな。
主人の不利になる事を言うなと……」
獣人が言った。
えっ?
彼は僕抱き寄せる。
そして鎖骨の紋章に右手を当てる。
その手は光っていた。
えっ!?
何も無い元の肌が現れる。
彼の手が震えている。
「主よ、隷属の紋章とは呪術。
呪いは対象を探す。
その呪いを消さねば再びそのエルフに取り付くぞ?」
獣人は彼に説明していた。
「ん……ん……んんん……」
彼の手が更に光る。
「今はこれが精いっぱい……」
彼が手を開くと紋章は消えていた。
彼はできるはずのない事をしていた。
「何が精いっぱいだ。
綺麗に呪いを除去しおって」
獣人は苦笑いをしている。
「まあ、そういう事で紋章は綺麗さっぱりなくなったらしい」
ニッコリと優しそうな目で僕を見ていた。
「さて、俺たちの部屋に何をしに来た?」
彼が聞いてくる。
「主人……いやあのデブがそこのエルフを欲しがって……催眠術をかけて来いと」
何の障害もなく言いたいことが言える。
「催眠術?」
「ああ、僕は精神に干渉する魔法が使える。
気付いたら使えたというのが正しいかな。
その魔法でそこのエルフを僕の言いなりにして、あなたから離れさせる。
そして、そのままあのブタのものにする予定だった」
彼は僕の手を見ていた。
「そりゃ大変だ……」
彼が笑った。
「大変に思うておらんくせに」
獣人は怒っている。
「なんで?」
「それはな、多分お前の魔力じゃドリスに催眠術は効かない。
まあ、催眠術にかかっても何とかするけどな」
彼と獣人の楽しそうな掛け合い。
「何で、あなたみたいな人が僕の前には現れてくれなかったの?」
僕は彼に言った。
「さあ、それはたまたまだろうな。
どんな力を持っていたって、俺の目の届く範囲しか助けられんよ」
彼は正論を言った。
「さて、君の主人に会わせてもらおうか」
と彼は言う。
「君じゃない……ベルトラン」
僕は自分の名を言った。
「ああ、名があったんだな。
じゃあベルトラン」
彼は僕の頭にポンと手を置くと、
君が言うあのブタの所に連れて行ってもらおうか」
と言った瞬間、彼の雰囲気が変わった。
「オレゴルはドリスと居てくれ」
「畏まった。
何をするかは知らんが、ほどほどにな」
獣人の毛が立っている。
恐怖?
「自分の妻を手籠めにしようとする奴に手加減は要らないだろ!」
彼が声を大きくする。
「怒っておるな。
まあ、好きにすればよい」
獣人は苦笑いしていた。
僕の後ろを彼は歩く。
扉を開けると部屋には煌々とアカリが点いていて明るい。
僕を見たハリオートは、
「おお、上手くいったか?
それであのエルフは?」
と、あのエルフを探した。
居るはずのない彼に驚くハリオート。
準備万端。ハリオートは裸にローブを着ていた。開いたローブから、僕を蹂躙するものが見える。
「悪い、アンタの目論見は聞いた。
ちょっと我慢できないんだ」
彼は手を上げて魔法を使うと、ハリオートは喉を押さえ二回ほど息を吸うと動かなくなった。
えっ、彼が何をしたのかはわからない……。
彼は僕に指示を出す。
「さて、裸になってローブでも着て立ってろ。
できればオロオロしていてくれるといいかな?」
「なぜ?」
僕は聞いた。
「なぜも何も、このままじゃお前が殺したことになるぞ?」
僕を心配する?
「でもあなたが……」
「俺がどうやって殺したかわかるか?
わかったとして誰が証明する?」
「それは……」
証明できなければ、僕が殺したことにされる……。
「まあ、しばらくデブと一緒に居てくれ。
あとこれもな」
彼は僕に魔法が使えなくなる指輪を付けた。
そして、隷属の紋章に似せたものを鎖骨に着けた。
「『ブタがお前とヤろうとした時に急に苦しみだした』って感じで言っておけば問題ないだろう。
そのいきり立ったモノが証明してくれる」
彼はそういうと、
「店員を呼んでくる」
と言って、部屋を飛び出した。
宿の受付に行ったのだろう。
その後、衛兵隊のメラニー様に事情聴取をされる。
一貫して、
「ハリオート様が私に覆いかぶさろうとした時に、急に苦しみ出しました。そして動かなくなったのです」
と答えた。
結局、ハリオートは急死ということで落ち着く。
こうして僕は解放された。
主人が居なくなった奴隷は、そのまま奴隷商人に引き取られるか、持ち主の家族に返されるか……。
ただ、ハリオート氏には家族が居なかった。
僕は不吉な奴隷ということで、安く奴隷商人に引き取られるらしい。
ある日、メラニー様が
「あのアキトと言う人間が、お前を手元に置きたいと言っているのだが、どうする?」
と聞いてきた。
「えっ?」
「お前が良ければと言う話なのだが……」
それから僕は、ご主人様(アキト様)の下でメイドをしている。
「執事で良いか?」と聞かれたけども、もう僕はそうなってしまったから……男だけど女で居ることが当たり前になったから……メイドを選んだ。
いつか僕を女として見てくれるかな?
ドリス様のように一緒に寝てくれたりするのかな?
僕は今そんなことを夢見て、ご主人様のメイドをしている。




