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ベンドルト基地と戦利品

 雪が融け、地面が見え始めたころ。

 地図上では他にも数か所の基地や都市を見つけたが、俺とドリスとオレゴルはスマホに表示されていたベンドルト基地を目指した。

 ブラウザソフトで標示されるホームページのような物は結構な単位で更新が止まっている。

 入れなくなっている物も有った。

 ニュースのようなものがあったが「戦いに勝った」という文言ばかり。

 実際に負けているのを勝った風に言うのはどの時代もなのだろう。

 千年以上前のエルフの国の名はファルナクス。

 ここまで技術が発達したエルフの国の人口は総数で二十万程度だったようだ。

 人間やドワーフ、獣人の事を悪く書いていたのを見ると、他の種族には上からだったのではないだろうか。

 出生率も低く、政府が子作りを推奨していた。

 新聞の最後には、数で押してくる人間、ドワーフ獣人に「最終兵器を使う」と書いてあった。

 碌なもんじゃないのだろう。

 結局そんなものを使ってもエルフは負け、隷属させられることが当たり前の民族になってしまった。

「戦いは数」

 どこかのごっつい軍人が言っていたが、数が目減りして負けたのかもしれない。



 四日の野宿の後、俺たちはベンドルト基地に到着する。

 と言っても森しかない。

 壁でも残っていればいいのだが、それも無い。


 ハズレかな?


 そんな事を思っていると、たまたまエルフであるドリスが触った岩が反応した。

 見た感じは完全に岩。見事な擬態。

 シュンという音がして岩が開く。

 中に灯が灯る。

 まだ生きていた。

「俺が先に行こう」

 中に入ると、服を着て白骨化した遺体が散乱している。

 手には拳銃のような物。

 そして頭蓋骨に穴が開いていた。


 自決か……。


 ディスプレイのような物は既に破壊されている。

 何があったのかはわからない。


 俺は落ちていた拳銃五丁を拾った。

 見た感じワルサーPPK。

「遺体があるだけだ」

 俺が言うと、ドリスとオレゴルが中に入ってきた。

「カビ臭いのう」

 鼻の良いオレゴルが顏を顰める。

「なんで……」

 遺体を見てドリスが言った。

「この人数で多くの敵と戦い、疲れ果てたのかもしれないな。

 そして、人に捕まることを良しとしなかったんだろう。

 それこそ、戦争に負け奴隷になりたくなかった」

 そんな話はどこか身近で聞いたことがある。


 さらに奥に行くと車庫のような物が現れ、小さな半装軌車が見えた。


 ケッテンクラートか?


 前はバイクのようなハンドルにタイヤ。

 後はキャタピラーだ。

 それにしか見えない。


 壁には、銃器としか言えないようなものが数丁。

 一つは対物ライフル。

 ただデカイ。

 マウザーM1918によく似て見えた。

 そして突撃銃。

 見た目はStG-44

 弾倉がないのは、魔力仕様?

 あと軽機関銃。

 MG42にしか見えない。


「アキト、何これ?」

 ドリスが聞く。

「ああ、武器だな。

 こういう武器をエルフは使っていたんだ」


 俺はケッテンクラートを触ってみた。

 これがイグニッション。

 これがクラッチ。

 これが変速機。

 バックも有るな。

 前一人に後ろ二人の三人乗り。

 ケッテンクラートそのもの。


 俺はスイッチを押した。

 するとスピードメーターのようなところに灯が点く。

 魔力で動くモーターのようなモノで動くようだ。

 魔力の残量を表すと思われるゲージが赤い。

 俺がグリップを握ると、そのゲージがみるみる増えて緑に変わる。


 バッテリーのようなものがあり、魔力が低い者でも運転ができるようにしてあるのだろう。

 軽く走らせてみた。

 クラッチ付きなど久しぶりだが、何とか運転できた。


 何だこれ?


 レバーを触ると超信地旋回ができる。

 確か、ケッテンクラートは超信地旋回なんてできなかったはずだが……。

 その辺は、エルフの技術なのかもしれない。


「凄いなそれは」

 オレゴルが驚いていた。

「エルフの技術なんだろう。

 俺もキャタピラーなんて久しぶりに見た」

「キャタピラー?」

「接地面積を大きくして不整地走破能力を向上させる方法。要は荒れ地でも走りやすくなる」

「よくわからんが凄そうだな」

「ああ、凄いと思う。

 俺の世界でも考えられていたからな。

 さて、他の倉庫も探そう」


 そこには厳重に保管されていたもの。

 機密物資だったらしく説明書を見ると「肩掛けカバンではあるが、内部容量が持ち主の魔力に比例する」というカバン。

 注意書きに「生き物は入りません」と書いてある。


 おっと、便利グッズ登場。

 生き物が入らないのは定番だな。


 食糧庫の中身は何なのかわからないようなものが転がっていた。

 お湯を入れたら三分などと言うものではないが、真空パックのカロリーバーのような物が転がっていた。

 そして、水筒の形をした給水機のようなものも見つかった。

 大気中の水分を使って水を作る物。

 便利そうなので回収しておく。


 次に備品倉庫のようなところがあり、漁ってみた。

 中には野営用のテントがあった。

 簡単な照明付き。

 旅に便利そうなので、こいつも貰っておこう。


 あと、将校の軍服のようなモノが出てきたが、それよりもトランクスやTシャツのような下着があるのが助かった。


 ああ、石鹸もあった。

 ボトル入りの石鹸。

 色々な臭いもある。

 柑橘系の匂い、花の匂い、無臭など結構ある。


 女性用の下着もある。

 おお、白の絹?

 化繊?

 触り心地が良い。


 被るのは……そんな趣味は無い。


 更には防寒着のようなモノもある。

 ちょっとしたツナギの作業服もある。

 俺は使えそうなものを全て肩掛けカバンに突っ込んだ。


 オレゴルが将校の服を気に入ったのか、

「着てみた……」

 と言って現れた。

 スカートが無くてズボンだが、逆にオレゴルのボディーラインを強調する。

「それじゃ俺の上司殿だな。

 部下に襲われたいとか?」

 俺がシチュエーションを言うと、

「意味が分からぬが、なんぞ興奮しそうだの」

 と上からの目線で俺を見た。


 そんな目で見る者を格下が蹂躙する……。

 よくあるシチュエーション。


「まあそういうのは後で」

 しかしそうは言ったあと、ドリスも、

「私も着てみました」

 と、下士官の服を着て現れる。


 将軍様の娘さん?

 コネで入った感じだな。

 服が少し大きい。

 一兵士と恋に落ちる……か。


 俺もこの歳で想像力豊かなもんだ。 


「嫌ですか?」

 ドリスが聞く。

「いいや、可愛いと思うよ」

 そう言うとドリスは喜んでいた。


 そう言えば、ポケットにこれが。

 家で俺に渡したものと別機種のスマホを差し出した。

「ん、通話できるかね?」

 俺はしばらくドリスが持ってきたスマホを充電し、設定画面から番号を調べた。

 そして、その番号に最初に手に入れたスマホから電話をかけてみる。


 ピピピピピピ……。


 着信音がデフォルトなのか味気ない。

 しかし、ドリスが持ってきたスマホと繋がった。

「あ」

 と声を入れると、ドリスが持ってきたスマホから、少し遅れて

「あ」

 と声がする。

 今でも使える……通話料などは無かったのだろうか?

 電話帳のようなモノもあったが、かける相手は居ないだろう。


 俺は電話帳を消去し、ドリスが持ってきたスマホに最初に手に入れたスマホの番号を登録した。



「あっ、(われ)の服にも」

 オレゴルもスマホを差し出す。

 そして、俺の番号とドリスの番号を登録する。

 こうして、この世界で三人は離れていてもつながることができるようになった。


 他のロッカーにもスマホのようなものがあり、それも回収しておいた。

 それぞれのスマホの電話帳にそれぞれの番号が載るようにしておく。

 更に中を探すと、車庫にハーフトラックのような車両も見つかった。

 兵員の輸送用のものではなさそうで、後ろは荷台になった右ハンドルの三人乗り。

 これがあれば、結構な荷物が運べるな。

 始動してみると無音。

 ケッテンクラートをカバンに突っ込んでみると、すんなり入って消えた。


 おう、このカバンの容量って……。


 この基地の使えそうなものを詰め込み、ハーフトラックを車庫から出した。

 倉庫の出口も見事に周囲に溶け込んでおり、閉まっている状態では多分誰もわからないだろう。

 エルフが居ないと扉さえ開かない。

 今更地図情報を理解できる者さえいないのではないだろうか。


 俺はハーフトラックを走らせる。

 基本はマニュアルの車と一緒だった。

 ライトとウインカーも付いている。

 夜間走行可能だ。

「エルフとはすごい技術を持っていたのだな」

「ああ、俺の前の世界ぐらいかなあ。

 若干偏りはあったみたいだがね」


 何故にドイツ帝国系の武器?

 優良種とか言ってたのかね?

 俺みたいなのが居たのかもしれない。


「でも負けた」

 ドリスが呟く。

「そうだな、技術があるから上から支配するんじゃなくて、技術を分け与えて仲良くできたらよかったのかもな。

 まあ、実際はそんなに簡単なもんじゃないんだろうけどね」

 ドリスは、

「私は今が幸せ。

 アキトとオレゴルと一緒に暮らしている今が……。

 一人で何もかもしなければいけなかった生活なんて嫌。

 冷たい雨に濡れても一人であの小屋で眠る日々に戻りたくない。

 もし、アキト以外の人間が私の前に現れて今の生活を壊して、私を奴隷にするというのなら私は躊躇なく人間を殺す」

 ドリスから強い意志を感じた。

「ああ、それでいいんじゃない?

 危害を加える者から甘んじて危害を受ける必要はないだろう」

 エンジンの無いハーフトラックはエンジンの音は無く、モーターのような音とキャタピラーの音が響いていた。

 ハーフトラックの能力は高く結構なスピードのはずなのに揺れは少なかった。

 行きは四日ほどかかった道を数時間で帰ることができるのだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「キャタピラー」は米キャタピラー社の登録商標ですね。かといって「無限軌道」や「履帯」、「クローラー」で通じるかというと微妙ですが。
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