スマホ
「今更なんだが俺のカバンは?」
と俺がドリスに聞くと、
「私の部屋にある」
と言って、カバンを取ってきた。
その中からスマホを取り出したが、当然のごとく充電無し。
しかし、充電忘れが多い俺は、カバンの中にソーラー充電式のモバイルバッテリーを忍ばせていた。
充電開始で数分するとスマホが起動する。
すると、ずっと待ち受けにしていた彼女とのツーショットが浮かび上がる。
「主よ誰だ?」
オレゴルが俺に聞いた。
「ああ、前の彼女。」
「女々しいな」と思いながら、俺は言う。
「愛していたのかの?」
「わからない、でも好きだったのは間違いない」
「主のことを聞いてみたかったぞ」
「いい話なんて無い。
碌な話は聞けないだろう」
今更俺とこの女性との馴れ初めなど言われても恥ずかしいだけだ。
「主にとって碌な話ではなくても、我には面白そうだがの」
人の……は蜜の味って感じかね。
「まあ、何にせよ別れたから無理だな」
「残念だのう」
俺が触るスマホを見て、ドリスが自分の部屋から何かを持ってきた。
「これ……」
と俺に見せる。
ん?
これってスマートフォン?
ちゃんとカメラらしきものまで付いている。
まさか、アンテナが立ってたり……。
と俺のスマホを確認してみたが、アンテナなど立っているはずもなく。
まあ電波なんてあるはずもないか。
エルフのスマホを色々見てみると、見たことが無いマークを見つけた。
エルフが高い文明を築き、電源をIECのマークのようなものを開発したのなら、こいつを押せば起動するんじゃないだろうか。
ただ、動力的な物がわからない。
しかし、俺が持っているとエルフのスマホに小さなオレンジの光が灯った。
ん?
魔力かね?
五分ほど待って、さっきのマークを押すと光が灯り起動する。
どこかのメーカーロゴが浮かんだあと何かの待ち受けが現れ、その上にアプリのショートカットが浮かぶ。
「使えるんですか?」
ドリスが驚く。
「みたいだな……。
元々魔力が強いエルフ用なのだろう。
持ってるだけで魔力が供給されて使えるみたいだね」
「これは……」
とアプリを指差し俺が聞くと、ドリスが
「地図」
という。
俺は字が読めない。
ドリスの言葉に興味を持ち、画面をタップしてみた。
すると地図が浮かび、俺たちが居ると思われる場所にピンが立つ。
マジか、これ例のよく使うマップにしか見えん。
ピンチアウトすると拡大される。
いつの地図かはわからないが、この辺には何も無かったのがわかる。
えっ、GPSに近い何かがまだ生きているのか?
まだ衛星のようなモノが飛んでいたりして……。
ピンチインすると何かを表す●に文字。
「なんて書いてある?」
俺が聞くと、
「ベンドルト基地?」
ドリスが言った。
「基地があるのか?」
「基地って何?」
「兵士や武器を置いておくところだ。
防衛の拠点だったりする」
剣と魔法とはいえ、スマホまで作っていたエルフが何で負けたのだろうか?
画面を見ると、何かのパラメーターが画面の端にあった。
「ドリス、なんて書いてある?」
「受・信・強度?」
えっ、電波も生きているのか?
もし、生きたスマホがどっかに残っているのなら、番号さえわかればお互いに連絡が取りあえる。
基地があるのなら兵器にも興味がある。
まあ、残っていればの話だが……。
ここまで来ればブラウザのようなものがあってもおかしくはない。
多くは無いアプリをタップして、起動できるものを捜した。
いくつものアプリは起動できなかったが、そのうち一つのアプリが起動する。
見たことがあるものに近い画面が現れた。
こりゃ、エルフの言葉が理解できないと無理か……。
冬にすることが決まった。
ドリスを先生にして、スマホに書いてあるエルフの字と言葉の勉強である。
暇そうなオレゴルに俺のスマホに入ったゲームをやらせ、俺はエルフのスマホを使って、文字と意味を教えてもらうのだった。




