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84我が恋敵よ

 なんとなく手に取った新聞になんとも興味深い記事が載っていた。


『地元を題材にした短編小説を募集』


 小説家を目指す凛にとっては気になりすぎる記事である。

内容は地元を題材にした短編小説ならば何でも可能というものである。

書籍化したり、そこからプロデビュー出来るというわけではないが、わずかな賞金と採用された小説は新聞に載るという。


 これは良い腕試しだと、凛はさっそく短編の小説をかき上げるとプリントして数枚の束にしていた。

地域新聞ということで昨今の小説大賞のようにネットでの応募はできない。

指定の紙に書き写し、もしくはプリントし、直接新聞社へ郵送するというものだ。


 登校するときに出せばいいやと思っていたが、うっかりさんな凛は出すのを忘れてそのまま小説をバッグにしまっていた。


(まぁ、帰りに出せばいいか)


 やっと全ての授業が終わると、凛は校門を抜けていく。

 今日は珍しく集まりがないようである。

いつもならばイヴや誰かしらから放課後遊ぼうという旨がグルチャに投稿されるが、この日はそういった連絡がない。


 改めてグルチャが静かなのを確認すると、凛は一人バスに乗り込んで駅へと向かう。


(駅に郵便局あったよな……あ、でも、コンビニ前にもあったっけか)


 考えながらバスに揺られる。

流れていく景色は灰色の雲がかかっている。今にも雨が降り出しそうだなと思っていると、一粒が窓を叩く。

一粒のノックの後、何粒もの雨が窓を叩き始める。


(雨か……くそだる)


 駅につくと、凛はいつもの改札ではなく駅から少し離れた郵便局を目指して歩く。

バッグに忍ばせていた折り畳み傘を取り出すと、黒地に薔薇柄の傘を開く。


 雨だけでなく、ビルの隙間風が強い。

あまりの強さに思わずスカートを抑えてしまうほどだ。


(やだ、パンチラしちゃう♡ ……って、イーちゃんもいねーのにパンチラしてもしかたねーか)



 ぱしゃん、ぱしゃん。



 ローファーが水たまりを歩く。

 やっと郵便局につくと、店先にあったポストへと投函しようとバッグから封筒を取り出す。


(どうか、採用されますように♡ これを機に凛ちゃんの作家への道が開けますように♡)


 祈る。

しかし、その祈りはかき消されるようにゴウと猛烈な暴風が凛に吹き付けた。


「にゃ!」


 反対に折れ曲がる傘、スカートを捲っていく風、そして――手元にあった封筒を空へと攫う。


「あばばばばばば!!1」


 空へと舞い上がっていく封筒。

凛は傘をほっぽりだすと封筒を捕まえようとおいかけだす。


(なんだよこの安っぽいアニメみたいな展開は!?!!??!?!??)


 雨に塗られながら小さな体が走る。

暴風に煽られた封筒は右へ左へ盛大に空を舞う。


「待って、あたしの小説ちゃん!!!」


 まるで舞う封筒は白兎。追いかける凛はアリスのようだ。

 暴風に煽られながら封筒はやっと着地したと思うと、次の瞬間にはまた暴風で飛ばされていく。


(マジでふざけんなクソが!!!!!!!!!!!)


 雨の中を駆ける凛。

文字でいえば青春にも思えるが、本人にはとても青春とは言い難い状況だ。


 ビル街を抜けて、やっと大通りへと抜けると封筒が道路へと舞い落ちる。


「ふぅー、やっとかよクソが」


 封筒を手に取る。だいぶ濡れてしまったが、こんなこともあろうかと凛は濡れても大丈夫な封筒を用意していた。

たぶん中身も大丈夫であろう。


(でも、一応確認しておくか……)


 もし隙間から水が入って文字がぐしゃぐしゃになっていたら大変なことになってしまう。

とりあえず近くの屋根のある公民館前まで歩くと、凛は封筒の中を開く。


「良かった……濡れてなかった……」



 ゴオオオオ――……



 安心したところで、また暴風が吹き荒れる。

なんとか飛ばされないようにと握りしめるが、数枚が風に流されてしまう。


「わ、私の小説ちゃん!!1」


 散らばった紙を拾い集める。

しかしナンバリングを確認してみると、数枚が足りない。

どこへ飛んで行ってしまったのかと、周囲を見回す。


「あ、あった……」


 何枚かがすぐそばのビルの壁面に張り付いてしまっている。

もう雨にも濡れてしまったし、きっと文字はぐちゃぐちゃになってしまっているだろう。

だが、それでもなんとか回収したくて凛は手を伸ばす。


「私の小説ちゃん……!!!」


 それでも手が届かなくて、ぴょんぴょん跳ねる。

それでも背の低い凛にはとても届く距離ではない。


(うう……)


 自分が書いた文章だから、自分が作った作品だから。

なんとか回収してあげたいと思うが、濡れた数枚は壁に張り付くと中々落ちてはくれない。

風もあるせいか、紙は壁にべったりとはりつくと動こうとはしない。


 茫然と見上げる壁の上。

もう雨が落ちてくるのも気にせずに、凛はただ雨に塗られながら届かぬ紙を見上げた。


(私の小説ちゃん……)


 ザァと打ち付ける雨。

回収したいけれど、とても届かない。

びしょびしょに濡れたせいでもう応募は出来ないだろう。それでも、作家にとって作品は自分の子供のようなものである。


 もう一回、もう一回と飛び跳ねて手を伸ばしてみる。



「ん……あれ、凛さん?」


 飛び跳ねる凛を見る姿があった。

同じ制服をきた――同じ学年の生徒である。


「友達?」


「うん……」


 生徒の母親が声をかける。

娘の様子からして、恐らくは友達なのだろう。娘は雨に塗られながら何度も飛び跳ねて壁に張り付いた紙を取ろうとしている。


「あら、これは……」


 母親が足元に落ちていた紙を一枚広いあげる。

びっしりと文字がつまったその紙はどうやら小説の一部のようだ。


「それ……多分、あの人のだ」


「あらあら、風が強いから飛ばされちゃったのかしら」


「ちょっと私届けてくるよ」


「うん、そうしてあげて」


 紙を受け取った生徒は駆け足で凛の元へと走る。

 あの必死な様子――きっと大切なものなのだろう。

口にしたことはないし、聞いたこともないけれど、あの行動をみればこの一枚がどれだけ彼女にとって大切なものか分かる。

だから。


「凛さん」


「あ、綾香ちゃん……」


 凛に声をかけたのは、綾香だった。


「これ、落ちてたよ」


「あ、ありがとう」


 小説の欠片を受け取る。

凛は綾香に自分が小説を書いているとちゃんと言ったことはない。

ましてや作家を目指していて、こういった賞などに応募しているなど語ったことはない。

自分の夢が作家であるなど、綾香には言えるものではなかった。


 だって、言ったらバカにされそうだから。


「み、みた?」


「うぅん、読んでないよ。それに凛さんの小説なんて読むまでもないしぃ」


「……」


 綾香に読まれたくはないが、『読むまでもない』と言われるとなんだかプライドが傷つく。


 受け取った凛はやけに寂しげな表情をしている。

いつもの覇気がない。いつもなら売られた喧嘩をすぐに買う凛が、何故だかしょんぼりしている。


「あの張り付いたのも凛さんの?」


「……うん、でもいい。自分で取るから」


「凛さんやっぱり小説書いてるんだね」


「いいでしょ、別に。おかっぱに関係ないでしょ」


「うん、関係ない」


「じゃぁさっさとあっち行ってよ」


「素直じゃないよね、凛さんって。イヴに対しても、夢に対しても」


「……いいからあっちいってよ」


 イツメンの中で、凛は綾香にだけは自分の夢を語れなかった。

それはライバルだから。いつも犬猿の仲である綾香に、もし自分夢を語ったりしたならば、絶対にバカにされる。

きっとコケにされまくって、いつかは小説が見つかって、筆を折るくらいにバカにされそうな気がしたから。

そして何より、恥ずかしかったから。


「あんな高いところに張り付いてたら凛さんじゃ取れないでしょ」


「それでも取るから」


「それだけ大切なんだね」


「もういいでしょ」


「そんなにびしょびしょになって、届かないくせに魚みたいに跳ねちゃって」


「もうほっといてよ! ばか!」


 

 シュン――……



「え?」


 その場から綾香の姿が消える。


「私はさぁ……凛さんにほっとけって言われるとほっとけねぇんだよなぁ……」


 声のしたほうを見れば、綾香が一瞬で壁のほうまで移動すると張り付いていた紙を回収している。

まるでスパ〇ダーマンのように張り付いた綾香は雨に濡れながら、全ての紙をその手の中にしている。


 ばしゃり音を立てて着地する綾香。

そのトレードマークであるおかっぱ頭を掻き上げると、ドヤ顔で凛へと紙を渡す。


「……綾香ちゃん」


「凛さんだから、ほっとかないし、今は読まないよ」


「……」


「じゃぁ、私は帰るよ」


「……」


 去り行く背中――いつもは憎たらしい相手なのに、どうしてか少しだけ格好良くみえてしまう。


「あ、綾香ちゃん!」


 無言で立ち止まる綾香。


「あ、ありがとう! で、でも」


「何も言わなくていいよ」


「!」


 背を向けたままに語る綾香。


「あれだけ必死になっているんだ。相当に大切なものなんでしょう。でも、凛さんが読むなっていうなら今は読まないよ」


「バ、バカにしないの?」


「いや、するよ。でもそれは今じゃないかな」


 最高のキメ顔が振り向く。


「……?」


「いつか書店で買ったとき、そんときは凛さんのこと最高にバカにしてあげるからさ」


「綾香ちゃん……」


「じゃぁね、凛さん」


 ライバルだから、敵だからこそ相手のことがよく分かる。

いつもいがみ合っている仲だからこそ、分かることがある。


 多くは語らず。

 多くは行動せず。


 綾香は雨の中を帰っていった。



◇ ◇ ◇



 数日後、休み時間に凛は珍しく綾香の元を訪ねた。


「綾香ちゃん」


「あら、ロリビッチさん」


 イヴではなく自分に声をかけてきたのが意外すぎて、綾香は目を丸くしている。


「ん」


 渡してきたのは新聞紙から抜き出した一部分である。


「なにこれ」


「これ、雨の日の」


「あー」


 受け取った新聞紙には、短編小説が書かれている。

作者は後園りん、タイトルは『雨の放課後』である。


「あのときのはボツにしたの。それで新しく書いたら採用されたの」


「へー」


「だから、読ませてあげる」


「いいの? バカにしちゃうよ」


「それでもいいよ。じゃ、もう戻るから」


 さっさと去っていく凛。

綾香は受け取った小説を読み始める。

そこに描かれているのは二人の少女がいがみ合う場面が描かれている。


「何読んでんの?」


 イヴが訪ねると、綾香は少しだけその新聞を隠す。


「んー、ちょっとね」


「綾香も新聞とか読むんだ」


「読まないけど、これは読むの」


「???」


 物語の中、いがみ合っていた少女二人は実は互いを認め合っているという展開が描かれている。


(読み終わったら……感想くらい言ってやるか)


「何か面白いもん書いてあんの?」


 イヴが訪ねると綾香は笑いながら言う。


「全然面白くない。面白くないけど、まぁ、きらいなやつじゃないかな」



ポイントを!!!!お願いします!!!!!


あと一言でもいいので!!!!


感想が!!!!


ほちいです!!!


↓↓↓↓↓↓↓↓

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― 新着の感想 ―
[良い点] さりげなく助けて多くを語らずクールに去る…。あれ…、おかしいなぁ~…。綾香のくせに格好良いぞ…ww。
[良い点] なんかいい話ですね テンポがよく情景が浮かびやすい [気になる点] おかっぱが徐々にイヴ化してきてる!?
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